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朝の食卓3

 

 正午過ぎの午後、重要都市ドミニカ。城の見張り…まぁ、軍人共から逃れて、廃校した小学校の中。



『ドミニカ小学校』の体育館。

色あせた木の床、ぶら下がった電球。施設内を見渡す。けして、お世辞で綺麗とは言えない建物。だけど、僕にとって思い出の場所。かつて、通っていた学校だ。今は治安が悪く、皆教育を受けられない。だから、廃校になってしまった。


 そんな建物で、様々な人達が集まった。

 僕らより小さい子や同じ年頃から、白髪のおじさん達まで。こんな人達が、僕らの為に集まってくれたんだ。素直に嬉しい、僕らだけじゃなかったんだ。政府に対して、疑問を持っている人は…。感動して、ホッとする。



 それから、日が暮れるまで、集会でずっと話した。それぞれの話を、みんなで聞く。恋人、友人、家族、大事なもの。悲しみ、怒り、やるせなさなさ、辛さ。…僕だけ、じゃなかった。みんな、苦しいんだ。




    *…*…*…*…*



 みんなで話あってから、夜9時。

 今日は、もう疲れた。ここに来るだけでも、疲れる。なのに、他人の話を聞いて、なおさら疲れた。なので、もう寝る事にした。


 もちろん、ここからジャックの家は帰れない。やっぱり、仲間と生活してた方が行動しやすいから。帰れない。

 なので、使われていない体育館の床で、さっさと眠る事にした。

…そのハズだったが、床があまりに熱い。眠れなくて布団から起きる。少し、汗をかいて気持ち悪い。


 学校に都合良く、風呂はない。だから、ウェットシートで身体を拭くしかない。

など考え、ふと辺りを見渡す。やめよう…みんな疲れ果てたらしく、寝ている。ここで物音出したら、迷惑だ。拭くのをあきらめ、ため息。


 布団と布団の隙間の床を、物音を出さないように歩く。体育館に冷房なんてないから熱い。人の熱って、物凄く熱い。気持ち悪い。扉の方…外に出られる扉を目指す。

…なんとか、やっと出られた。大変だった。


 扉の縁に腰をかける。外のそよ風が、心地よい。見上げれば、夜空に煌々と輝く満月。

電気の少ない都市で、その明かりはよく目立つ。まるで…まるで、暗闇を照らすランプみたいだ。


「…レーネは、大丈夫かな」

 ふと幼なじみの顔が、脳裏に浮かぶ。亜麻色の髪に、翡翠色の瞳の少女の姿。

「また、泣いてないかな…」


 不意に、近くで物音がした。隣近くに寝ていた女性が、上半身を起こす。慌てて、口をモゴモゴさせてしまう。


「お、お、起こし、ひゃ、すびまべんっ!!」


 …言葉にならない。こういう時、どうやって謝ればいいのか分からない。黒の長髪に、浅黒い肌。その女性は、クスと微笑む。外見からして、約20代後半だろう。なんか、とても優しそうな人。


「ふふ、いいのよ。こちらこそ、ごめんなさいね。脅かしてしまって」


「…こちらこそ、すみません。眠れなくて」

 やっと、普通に言えた。

「あら、睡眠は無いとダメよ?」

 黒の長髪の女性に、クスクスと笑われてしまった。

「私の名前は、マリー・スフィア。貴方の

名前は?」

 スゥと手を差す彼女。でも、それより、ドキッとした。だって、僕と同じ氏名だったから。ハッとして、慌てて握手する。

「僕の名前は、ルーフォス・スフィア。不思

議な縁ですね、同じ氏名だ」

 彼女は目を見開く。が、すぐにまた真顔に戻る。

「本当ね。奇遇だわ」

「もしかしたら、何か繋がってるのかも」

「そうかもね」

 息をひそめて、2人でクスクスと笑う。


「そういえば、“ルーフォス”って。この集会のリーダーよね?同じ名前だわ。まさか、それって貴方なの?」

「…まぁ、そうですね。こんな便りない奴ですね」

 自らの手の平を、見つめる。やせ細った、みすぼらしい身体。

「嘘…。でも、あの男性ひとじゃなかったの?」

 あぁ。あの事か。

「あの人は、僕の身代わりになってくれた人です。友人の父親なんです」

 ここに来る時、ジャックのパパさんに怒られた。君達を守りたい…強く言われて、ここまで巻き込んでしまってたのだ。



「酷い友人です。その人に怒られて、正体を隠しました。僕は子供じゃないです。いざという時、死ぬ覚悟はいつでもあるのに。家族でもないのに。頼ってしまった」

 黙るマリー。やがて、寝転がる。そのまま腕だけ伸ばし、ルーフォスの頭を撫でる。

「…私は…、私は…そうは思わない。親から見れば、子供はいつまで経っても子供よ。みんなね」

 そ…ういう…もの…な…のかな。


「僕には分からない」


 ソッポを向く。頭から、手が外れた。優しい暖かさが、無くなる。

「いずれ、分かるわ。自分が親になれば、分かる物よ」

 あぁ、それにしても。そう言って、目を細める彼女。

「綺麗な満月…家族を思いだすわ。ルーフォスは、大事な人はいないの?」

「家族は…もういないと思う。ただ…」

「ただ?」




「大事な人かは、自分でも分からないけど。でも、守ってあげないと…ダメな人がいる。自分でなんでもかんでも頑張ってしまうから。

 幸せになってほしい。でも、僕は何にも力がない。だけど、その人を守る為なら、なんだってやる。だから、悪魔に会ったら、魂を売るよ」



 

 

 少しの沈黙。マリーは、少し微笑んだ。

「…それは、女の子?」

「はい、そうです」

 迷いなく答える少年。

「そっか。私なら、羨ましいわ。そんな風に思われる女の子は、幸せね」

「でも、まだ幸せに出来ない」

 うつむいているルーフォスの額を、指ではじく。痛そうな少年の顔を見て、いたずらぽっく笑う。



「今は、もう寝なさい。自分の為に、その人の為にも。貴方がその人を心配するように。その人も貴方を心配するでしょう。そしたら、いざという時に2人共倒れてしまう。ならば、どちらか先に休んでおいて、後で休めなかった者を支えてあげればいい」



「……」

 クスクスと笑うマリー。

「いずれ、分かるわ。ひとりは、支えあって生きてる。ひとりじゃない。もし支える事を忘れ、思いやりが無くなり無くなるなら…。そうしたら、醜い争いがおこる。今は、そういう時代の悲劇の最中なんでしょうね。…愚かな歴史の繰り返し。だが、それを止める為には『革命』しかない。…私の言っている意味が分かる?」


 

 コクンとうなずくルーフォス。

「まずは、大事なその人を支える為にも寝なさい。

…熱いだろうけど、我慢よ」






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