導く光 2
レーネは、青の世界を落ちていく。
風が心地よい…鳥はこのような思いをしているのか。そう思うと、鳥が羨ましくなった。
ふと、下を見つめる。
眼下に、あの懐かしい場所があった。
私が彼に告白した、
私の耳が聞こえなくなった、
私を庇い、
軍人にルーフォスが捕まった、
…思い出が、沢山ある丘の上。
結局、ルーフォスの返事は聞けなかった。嫌…聞く前に、私は死んでしまったけれど。
翼を力強く羽ばたかせ、その地に降り立つ。裸足から伝わる懐かしい土の感覚、
通り抜けていく風。
…そんなのは、ずっと当たり前だと思ってた。
歩き出そうとした時。
羽が消えた。羽が黄金色の光の粒となって、消滅していく。私の周りで。
突然、ユミィ…“希望や奇跡を運ぶ者”の声が脳裏に響く。
『ありがとう、レーネ。これで、やっと彼の元に行ける』
「え…?」
耳を疑う。…どういう事だろう。
『彼と約束したんだ、あの時。罪を犯して私の身体が、彼の腕の中で消える瞬間…。
私は、彼に言われた。「魂だけになっても貴女を待ち続ける」と。
その後、神々によって…彼と関わる事も許されなかった。それから…自らの罪を償う為に、神々に仕えた。私は人々に“希望や奇跡を運ぶ者”として働いた。何億年と。あの暗い場所で、ただ1人…働き続けた。
やがて解放された。が、自分では、彼の愛した国に戻れない。神々は、そんな愚かな私の為に、私の願いを聞く者を与えた。その使命を持つ者…それが、お前なんだ。レーネ』
「……それが…私…?」
『私のせいで、貴女が死ぬ運命になってしまった。すまない。なんと、礼をすれば良いか…』
「良いよ」
見えない光に対して、微笑む。
『ありがとう、許してくれて』
優しい口調。おそらく、安心したのだろう。
「ただ1つだけ、教えて。神話では、貴女は彼に抱かれて死んだ。だが、彼女が夢に出て来て、『他の人を愛せ』と言った。それでも、彼は貴女だけを生涯愛して続けた。
その神話と今の話と違うのは、何故?神話と聖天使祭は、何を伝えようとしているの?貴女の話と違い、終わりが良くない。なのに、神話では何故…」
『…それは、彼が後世に残した遺言。こうであって、欲しいと言う願い。
だけど、お互いに願いは叶わなかった。だから、神話には幸せな終わり方であるように。事実は変えられなくとも、物語なら変えられるから。
……いつか貴女にも、すぐ分かるわ。そして、神話が現実になる事を」
最後の方は、聞こえなかった。というよりも、黄金色の光の塊が、自分の身体から出てきたからだ。
嫌…もう光ではなかった。輝く金の光を纏たった、1人の美しい女性…。
いつか見た、旗に描かれた聖天使の姿にソックリだった。
タイミングを計ったように…。どこからか白銀の光が、彼女の側に来た。その白銀の光も、眉目秀麗の男性の人に変わる。
光の塊だった2つの光は、どちらも人の姿になった。2人は微笑んで、キスをした。
そして、彼女はコチラを振り返る。
『…私…』
困ったように見てくる、光だった女性。
「良いよ。彼の所に、行ってあげて。ずっと、待たしてたんでしょ?」
そこで、光だった女性が笑った。でも、次の瞬間。とても意地悪そうに、笑った。
『ありがとう。
貴女に良いことを教えてあげる。貴女が死んで、あれから22年。
貴女は、誰かの約束を破ったわ。それで、神々はその人に、呪いをかけたわ。そうね…例えば、外見。神の力のせいで、あんまり変わってないんだから』
「…?」
あの人…?私のせいで?
クスクスと笑う声。
『ごめんなさい、驚かせてしまったようね。大丈夫、安心して。呪いではないわ、ちょっとしたプレゼントよ。受け取って
あげて」
「えっ……?」
ビックリした。この人、何考えてるのだろう。よくわからない。
『今分からなくても、その内分かるわ。
ありがとう、レーネ…。さようなら。
私達に出来なかった事を、貴女達は受け継いで欲しい…』
そう言い残し、去って行く光の女性。
男性と女性は、抱き合って天に帰って行った。
「…行っちゃた」
これから、どうしょう…。帰る所なんて、ない。もう…22年経ってるなら。…ルーフォスはどんなになったんだろう。他の女性と、生きてるのかな…。
それより、私…誰と約束を破ったんだろう。思い出せない…
首を左右に振る。…嫌な事は、考えたくない。
「歌でも歌おうかな…」
とは言え、レーシェみたいには歌えない。
「良いもん、しょうがないもん」
大きく息を吸い、深呼吸。それで、神話の歌を歌う。
『…ありがとう
どんな時も一緒にいられて
幸せだった
その記憶を糧に
私は生きていこう
例え貴方が他の誰かを
好きになったとしても
私は君の幸福を
願い続ける
永久に…
でも、それでも
君を愛してる…
ずっと 』
その綺麗な歌声は、丘を越え、遠くまで
響いて行った…。




