導く光
*…*…*…*…*
何もない暗い空間。どこまでも、続く暗闇。そこに、1人の少女が立っていた。
何1つ身につけない裸身をさらし、ユラユラと漂う少女。…透き通る自身の身体が、水面の中心に立っていた。波紋が生まれる度、波が黄金色に輝く。
『レーネ……レーネ…』
頭の中に響く声。聞いた事のない女性…アルトの声。頭が痛い。痛みと同時に忘れていた記憶が、徐々に蘇える。…そうだ。私は、確かに死んだ。あの時。でも、何故ここにいる…?
『…レーネ……レーネ』
繰り返さる自分の名前。顔の見えない相手
、知らない相手から言われるのは…何故だろう。なんだか、怖い。
「…あなた、だぁれ?」
そう問うと、見えないその人が笑った気がした。
突然、目の前が明るくなる。そこに浮かぶ、黄金色の光の塊。
『私は、貴女達の世界で言われる「神話」の天使と言う者…。だけど、私は天使ではない。その呼び名は、ただのあだ名』
あ…聞いた事がある。『神話』の天使…。自国を含めた『世界アレッシィ』の為に。…嫌、大切な者の為に。
その身を投げ出して…数多の“世界”を救った天使。確か……ルーの銃に、その天使の像が彫られたハズ。
その存在が、目の前の光…?…天使の姿ではないの?
その天使と言われた者が…その存在が…
、笑ったように瞬く。
『それより、私には望みがある。
だか、それはお前にしか出来ない役目。
それを、やってくれないか?』
「…なんで?……なんで、私なの?
だって、私は…死んだ。あの時…」
途切れ途切れに、答える。
脳裏に、自身の身体が炎に焼かれる映像…。死んだ存在に、何か出来る訳がない。
仮に生きてたとしても、そんな大役…自分なんか絶対にムリだ。
首を左右に振る。
「私には、出来ません。第一、そんなの、あなたがやれば良いのに。それに、私は身体がない。…どうやって」
『確かに、私に出来ない事はない。そう言い所だが、コレばかりはお前にしか出来ない事なのだ』
黄金色の光の塊が、私の周りを飛ぶ。
『私は、数多の“世界”と“命”を創りだした存在だ。だから、私に出来ない事はない。と言いたい所だが、コレばかりはお前にしか出来ない事なのだ。
身体なら、もう一度与えよう。耳も聞こえるようにしよう。天使ではないが…それなら、私にも出来る。
だが、私は、私自身の願いを叶えられないのだ。だから、叶えてくれる者を選んだ。頼む…レーネ』
「……私なんかが、なぜ?」
普通に言ったつもりが、声が少し掠れてた。
『お前は、強いから。お前程の意志強くて、綺麗な心持ちの子供を見た事がない。
私の望み…それは貴女にとっては「果たすべき使命」』
ピキピキと、頭痛が走る。目の奥が、熱い。頬に暖かい物が、流れた。…そんな気がした。
「…強くなんかないっ!!
何も、分からないくせに…。
分かったような口調しないでっ!!」
自分でも驚く程、悲鳴じみた声。
その声に対して、その光はまた笑ったように輝く。
『…私は知っている。
お前は常に絶望していた事、耳が聞こえない不安・悲しみ・苦しみ・挫折した事。絶望し自害しようとした事。
だか、それでも立ち向かい、血のにじむような努力して生きようとしてきた事も。
希望と言う名の炎を、誰よりも心に灯していた事も。私は、全部知っている』
心に響く言葉。母親を思わせる優しい声
。本当の母親って…こんな感じなのかな…。嫌、本当とか偽物なんて関係ないのかも知れない。
深呼吸。この光…神話の天使の願いを叶えてあげるのも、悪くないだろう…。
「……分かりました。私も、また頑張ってみる。あなたの言う私にしか出来ない事を…頑張ってみる」
『ありがとう、レーネ』
「いえ…。私こそ辛く当たって、ごめんなさい」
フフと笑うように、瞬く光。それが、私を包む。目を焼くような光。それが、収まって。目の前には、何事もなかったように光の塊が浮かんでいた。
ハッとして、自らの姿を見つめる。半透明な身体ではなく、ハッキリとした自身の肉体。かつての自分の身体。だが、腰まで流れような髪は、亜麻色の髪ではなく淡い黄金色の髪。
それに白いドレスを着て、背中には白い翼が生えていた。まるで教会に描かれる、『神話』の天使のようだ…。
「…何…コレ…」
背中のソレを指差し、光に問う。
『それは、約束の証。
私の願いが叶うその時…。貴女の使命を果たせば、それは消えるわ』
光を見つめ、ボソリと呟く。
「『神話』の天使…」
『それは違うと、さっきから言っている。
私の名は、“希望や奇跡を運ぶ者”。
失われた古語の言葉で、「ユミィ」と言う。私の真実の名前、昔彼が与えてくれた名前。貴女だけに、私の名前を呼ぶ事を許可しよう』
「ユミィ…?」
その声に答えるように、その光の塊が強く輝き出す。優しい黄金色に。その光が、頭上を照らした。まるで、煌々と輝く太陽のように。
照らされると同時に、ドクンと胸の奥で音がした。力強い心臓の脈音。かつて五月蝿いくらい、何度聞いたソレが、胸の奥で鳴り始めた。
『…さぁ、お行きなさい』
「ま、待って!!なぜ、ユミィ!私は、ただの人よ。そんな私は、何をすればいいの?」
私に…。私に…何が出来るのって言うの?
光は悲しそうに、言う。
『…どうか、苦しんでいるレーシェを助けて欲しい。何に苦しむか…それは、彼らにしか分からないから。分かってもらう為に、貴女をレーシェに転生させた。力の象徴である髪色にしてしまった。
…すまない』
レーシェ…遥か昔に、数多の“世界”を創造した神々の血を引く子孫。とされる珍しい者達。
そんなスゴイ人達の関係は、今まで一切なかった。だが今の私は、その者達の1人になってしまった…。お母さん…ランさんが、知ったらなんて言うかな。脳裏に、母親と叔母の姿が写る。
『どうか、彼らを助けてやって欲しい。
そして、いつかお前は私と同じ名を持つ子供と出会うだろう。その時、その子供を励まし、支えてやってくれ。私の望みは…ただ、それだけ。
私の望み…嫌、貴女にとって「果たすべき使命」』
「…分かりました」
コクンと、首を縦に振る。
『ありがとう、レーネ』
彼女の嬉しそうな声。その声を聞いて、私も嬉しくなった。
『…その翼は、お前が行きたい所に連れて行ってくれるハズだ。』
「ありがとう、ユミィ」
私は黄金色の光を浴び、闇から抜けだした。そして、見覚えのある青空を飛んだ。
その先にあるだろう…懐かしい丘の上を目指した。




