綿飴 1
「おかあーさんっ!!」
などと、考え事をしてたのに。子供が呼びかけたので、思考を中止する。自分と同じ桜色の髪を持つ子供が、抱きついて来た。
「なぁに?ロッティ」
「おかあさん!見てっ!!天使さまが」
アッチアッチと、指を指差する。
その手の先に、『聖天使』の像を運ぶ大人達。あぁ、ここも飾り付けされるのか。
グルリと、辺りを見渡す。『聖天使祭』が始まろうとしていた。
立派な木々に、シアンブルーと白銀のリボンが付けられて行く。そして、聖天使のシンボルが描かれた旗が、アチコチで飾られる。
その青い旗の中心。手を組み、閉じた目から静かに涙を流す…『聖天使』。
その背中には、白き翼。流れるような淡黄金色の髪。羽衣のような金の輝きが、その細身に纏っている。腰には、銀色の双剣がぶら下がる。
神聖なる彼女の美しさ。
それを、尚さら引き立つように、彼女は両足の間に腰を落としていた。…つまり、祈るような姿勢。
そう言えば…私は、この天使のようになりたかった。腰にぶら下げた、自身の銀色の柄を触る。だけど、真似出来なかった。
「おかあさん…」
ツンツンと袖を引っ張る娘。
「なぁに?」
「神話のおねえさん、どうなったの?」
「まず、死ぬ前に好きな青年の腕の中に。
青年は、泣いてた。許してくれ、と。
彼女は黙って、彼の頭を撫でた。もう、苦しまなくて良い、と。
そのまま、彼女は彼の腕の中で、黄金色の光の輝きになって消えた」
「それで?それで?そのままだと、かわいそ過ぎるよ?」
プゥと頬を膨らませ、猫のような耳を倒す娘。その仕草が、とても可愛い。…私、親バカだ。
「うん。それで…」
「ゴホンっ!!その続きは、また後でっ!!」
いつの間にか、復活したマリン。彼女の不機嫌そうな声に、止められてしまった。
ジッと彼女を見ると、まだ若干目が赤い。それに、金の短髪がクシャクシャに汚れている。
「…マリン、もう大丈夫なの?」
「お陰さまで、バッチリ治りました。見苦しい所、失礼しました」
「嫌。別に良いけど」
ソッポを向くシルベット。それを見て、クスクスと笑うマリン。そんな部下を見て、笑うロッティ。
「よかった!マリンおねえさん、元気になった!」
喜びに満ちた笑顔。ロッティが、マリンの手を掴む。猫のような耳をピンッと伸ばして。
「だいすきっ!!」
物凄い衝撃を食らった、マリンの驚いた顔。…それに、また泣きそうだ。
「わ、私は……汚い…。要らない、さ、触らない方が…良い。だからっ!!…そんな声で、言わないでっ!!」
振りほどく手。マリンの零れ落ちる涙。珍しい、呂律の回らないなんて。しょうがないなぁ…。そう思って。
困ってオロオロしている子供に、耳元で囁く。途端に、パッと明るくなるロッティ。
「マリンおねえさんは、汚くなんかない!
大切な家族だよ!!」
懸命にマリンの手を掴む。誇らしげに、胸を張るロッティ。マリンは目を見開き、上司の顔を見る。すると、上司は口の端を上げ笑ってた。勝ち誇ったように、堂々と。
「ま!そう言う事!血の繋がりなくとも、TMSGの家族さ!!」
ガクッと、転けそうになるマリン。
「…やっぱり、貴女には叶いません」
「だろっ!?」
顔は素敵なのに、笑うと少年ぽっく見える彼女。
「…シルベット先輩」
「ん?どうした?綿飴食べるか?」
指差す方向に、綿飴屋。マリンは苦笑しながら、軽く首を振る。
「食べます」
「おっ!良いね!おっちゃーーん、綿飴2個!」
バカデカイ声、帰ってくる返事。
「…先輩って、なんで元気なんですか?私は、羨ましいです」
「うーん。とりあえず、笑え。幸せと元気は、笑う事でやってくる。だから、無理してでも、笑え。その先に、必ず幸せがあると、信じて」
「わかりました」
クスクスと笑うマリン。いつも無表情顔より、とても良い。吹っ切れたような笑顔に、シルベットは頬を膨らませる。
「なによ?」
「…私は、必ず恩返ししたい。私を助けてくれた人達、貴女にも」
ポリポリと、頭をかくシルベット。彼女の癖だ。
「んじゃ、まず笑いな。それだけでも、人を幸せにさせる力があるからさ」
「それ、分かりましたよ。だけど、ちょっとは目上とか偉い方には、大人しくしてください。見てて、恥ずかしいです」
「ええーー。みんな、平等に接しているのにぃーー??」
「ダメな事は、ダメですよ。先輩」