様々な思い 3
「マリン。そっちに、行ってて」
シルベットは、彼女の背中を押す。
その背中を見送って。
「ごめんなさい。いきなり、変な話をして」
「いいえ。僕も、人の役目になれて、嬉しかったです」
「そう」
そう言った切り、しばらくの間。
互いに黙っていた。
「貴方は、優しい人ですね。貴方と、話せて良かった。ありがとう」
沈黙を破ったのは、シルベット。
「いえいえ」
「そういえば、都市の丘ってありますよね?」
…都市の丘。よく、レーネやジャックと遊んだ場所。レーネを傷つけた、軍人に捕まった所。
「はい、有りますね。それが何か?」
彼女は、笑った。とても嬉しそうに。
「今日は、何の日か知ってますか?」
え、いつも通りの日。なんか、あるハズない………。そう言いかけ、頭に何か引っかった。
否、1つだけ合った。僕らが作った、1大イベントが。曇りで、夏本番の眩しい日じゃないから忘れていた。
「今日は、8月13日。
僕が王を倒して、全て終わった日」
ボソリと、呟いた。
「…そこは、神話の天使が…」
「ま、待って!言わないでっ!」
シルベットの話を中断させて。何だか、心の中が明るくなった。今まで憂鬱だったのに。
「…そんなに元気になったら、死んだ人に迷惑ですよ。まぁ、暗いよりマシか」
低く呟く彼女。「でも」と、また呟いて。
「私達は…生き残った者は、死んだ者の思いを引き継ぐ役目がある」
「僕は、引き継ぎます。みんなや、レーネの思いを」
くるりと、振り返る。そのまま、走ろうとした時。
「どこに行くの?」
「僕、約束した場所があるんです。神話の話
モデルとした丘の上っ!!
前…昔に好きな子に告白されて、答えられなかったっ!!居なくても、伝えたいっ!!もう、後悔したくないっ!!絶対にっ!!」
その瞳は、いつかの少年の瞳。揺るがない意志の強い……強い思いの炎を灯していた。
*…*…*…*…*
その青年が去った後。
シルベットは、静かに微笑んだ。
「幸せが、貴方の上にも有りますように」
上を向く。憎たらしい程、青い空を見上げる。
遥か昔、都市ドミニカの丘の上。
こんな神話がある。
数多の『世界』を、自国を、守った天使がいた。
なぜ、そういう風にいたったか?彼女は…天使は、許されない恋をした。
天使は、青年を愛した。
青年も、天使を愛した。
だが、神々はソレを許さなかった。それで、若者を生かしておく事が許さなかった。
ついでに、数多の『世界』を世界を国々を、壊し始めた。
その事を聞き、天使は苦しんだ。
自分が愛した青年は、この「アレッシィ世界」を守る者。自分は、人の為に働く天使。
数多の『世界』、国々、
青年の愛する国を救うか?
それとも、神々の言う通りにして愛した者を皆殺しするのか?
迷わなかった。天使は決めていたから
。自分の愛した青年の為に、この命を…捨てようと。青年の愛した物を、すべてを守りたい。ただ、それだけ。
神々に刃向かい、自らの死を持って死んだ場所…それが、都市の丘とされる。
それで、天使が死んだ事によって、
消えた事によって、全てすくわれた。
だか……。8月13日に、驚くべき事が起きた。その為、その天使を祭る『聖天使祭』。