万引き
私は今までの人生で1度、万引きをしてしまったことがある。
私の通学路、病院の近くに小さなコンビニがあった。品揃えは悪くないが、どことなく暗い感じのするコンビニだった。いつも同じ女性店員がいた。その店員も何か暗い感じがした。時々、母におつかいを頼まれ、食パンや牛乳をそこで買うこともあったが、会計の時にもその女の人はいつも無表情で、声にはりがなかった。
私はある日、コンビニの前に陳列されていた新聞を取ってしまった。
万引きしようとしていたわけじゃない。値札が貼られていなかったのでただであると思ってしまったのだ。そして次の日にもその新聞を取ろうとして店員が私の前にきた。
「それはただじゃないわよ。130円するわ」
わたしは昨日新聞を取ってしまったことを思い出した。
「ごめんなさい。昨日新聞を取っていってしまいました」
私は財布からお金を出した。
「それも大事だけど、それ以前にするべきことがあるでしょ」
私は頭を下げた。
「ごめんなさい、このようなことは2度としません・・・」
「それでいい」
店員は頷いた。
「間違えることは誰にだってある。問題はその時に自分の間違いをすぐに認められるか。
それができるだけで人生は大きく変わる」
店員の女の人は言った。
私は顔をあげた。
あれから親におつかいを頼まれることがなくなり、やがて中学生になって通学路も変わったため、コンビニには寄らなくなっていた。
それからしばらくしてたまたまあのコンビニの目の前を通ったとき、平日の昼間なのにコンビニのシャッターは閉まっていた。別の日に来てみたが、やっぱり閉まっていた。潰れてしまったのだろう。あの店員はどこへいったのだろう。幸せに暮らしているといいが。
私はポケットになにか入っているのに気がついた。取り出して見る。100円玉だった。