27 王太子の婚約者からの忠告
登城する日が五日後に決まったため、三日目まではオウガ侯爵家がロガンを引き取りにくるのを待つことにした。
三日目の日、ラックス殿下から手紙が届いた。
内容は、ミティ様の件でのお礼とお願いが書かれていた。ミティ様が狙われていたことや、時を戻す前のことはイライアス殿下と陛下に伝えていたので、話を聞いたのだと思う。
その時、今まで以上に、ミティ様の警備を厳しくすることと、リット殿下にも監視を付けると話をしてくれていた。
時戻しの魔法について手紙に書くことは危険だ。そのためか【ミティの件】とだけ書いてあった。
ちなみに、お願いはなんだったのかというと、ミティ様の友人になってほしいということだった。
家族に裏切られるような私と友人になりたいと思うだろうか。
疑問に思ったが、ミティ様も希望していると書かれていた。
私なりに一生懸命生きてきたつもりだが、本当に愛してくれたのはお母様くらいだ。誰かと関わることで、これ以上傷つきたくない。
そう考えもしたが、私が時戻しの魔法を使うことができる条件を思い出した。
自分以外の誰かのためにしか使えない。
使える魔法が限定されているのも、私が心を閉ざす可能性があったからだろうか。
先を読んでこんな条件をつけたのだとすると、お母様はすごい魔法使いだったってことになるけれど――。
「お母様も私と同じように人を信じられなくなったのかしら」
ため息を吐いたあと、心配そうに私の周りを飛び回っているベェに話しかける。
「ベェ」
「ベェェ?」
なぁに?
幼い男の子の声が聞こえた気がした。
ベェはつぶらな瞳で私を見つめている。
使い魔はきっと心が綺麗な生き物なんだろう。心が荒んでいる時は使い魔の声が聞こえないのかもしれない。
「ベェェー!」
突然、ベェが大声で鳴くと、シルバートレイが勝手にベェの右前足に移動した。ベェはシルバートレイを掴み「ベェ! ベェ!」と鳴きながら素振りを始めた。
何かあってもベェが守ると言っている気がした。
「ベェ、本当にありがとう!」
「ベェ!」
ベェは素振りをやめて元気に鳴くと、シルバートレイを背中に戻し、私の頭の上に移動した。
ラックス殿下への返事と、ミティ様宛の手紙の文面を考えることにした。
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四日目の朝、オウガ侯爵自らがロガンを引き取りにやってきた。
朝早い時間だったため、いつもならば聞こえなかったロガンの声が、私の部屋にまで届いた。
「諦めない! 諦めないぞ! これは試練だ! 愛し合っている者は必ず結ばれるんだ!」
私はもう彼のことを愛していないため、愛し合ってはいない。
ということは、結ばれるはずはない。
安心して朝食をとっていると、パンナがミティ様からの手紙を持ってきてくれた。
ミティ様は結婚の目処が立ってきたということもあり、現在は王都内にある、王家が用意した別荘で暮らしている。レイハート邸からそう遠くもないので、私からの手紙が届いてすぐに返事を書いてくれたのだろうと思われる。
部屋に戻り、お気に入りの安楽椅子に座って、ベェと一緒に手紙を読み始めた。
周りは自分のことを王太子妃になる人物としか見ておらず、利益を得るために近づいてくる人しかいなかったと書かれていたことに、ショックを受けた。
社交場では多くの人に囲まれ、笑顔で応対していたから、ミティ様は多くの人に愛されているものだと思い込んでいた。
表面だけでは、本当の気持ちなんてわからないものなのね。
今はまだ話せない秘密があることを伝え、それでも良かったら友人にしてもらおう。
色々なことを考えながら手紙を読み進めていくと、最後のほうに、意味深な文章があった。
【これは、誰にも話をしたことがないのですが】と前置きしたあとに【義理の母になる予定の女性には気をつけてください】と書かれていたのだ。
その部分の文字がまるで震えながら書いたかのように見え、この文章が私への忠告だけではないのではないかと感じた。
そう考えた瞬間、私は一刻も早く、ミティ様と会って話しをしようと筆を執ったのだった。




