23 国王からの提案 ②
メイドに案内されてやってきた場所は、国王陛下の自室だった。
この部屋は防御魔法がかけられているらしく、どんな攻撃を受けてもダメージを負うことはないらしい。魔法使い狩りが行われる前にかけられた魔法だそうだが、いまだに効果は続いているそうだ。
国王陛下の部屋に入ることなど、めったにあることではない。好奇心を抑えられず、失礼にならない程度に部屋の中を観察した。
赤いカーペットが敷かれた室内は、三十人程が寝泊まりできそうな広さだ。右奥に暖炉があり、近くにはコの字型にソファが置かれている。
一人掛けのソファに座った陛下は、私たちには自分の右手側にある二人掛けのソファに座るように指示をした。
言われるがまま腰掛けると、メイドが手際よくお茶を淹れ、部屋から出ていく。静かになったところで、羽音が聞こえた気がして後ろを振り返った。
背後には白い壁に沿って本棚が置かれており、その上に白と黒の大きな鳥がとまっていた。
「あれは……」
「使い魔の鷲で名前はワシだ」
紹介されたワシは、挨拶してくれているかのように片方の翼を広げた。
「種類はオオワシで、名前はワシなんだよ」
「間違えて呼んだ時にごまかせるだろう」
イライアス殿下が苦笑して言うと、陛下は殿下を軽く睨んだあと、私に目を向けて続ける。
「リットがすまなかった。あれは、シャルに似て魔法使いが嫌いなだけでなく、女性蔑視の傾向が強い」
「……王妃陛下も女性蔑視なのですか?」
「表向きにはそんな様子を見せないようにしているが、女性である自分を卑下している」
王妃陛下とは挨拶を交わすくらいで、雑談をしたことはなかった。美しい容姿の持ち主で、いつも微笑んでいるイメージしかない。
「女性であるからと卑下する必要はないと、何年もかけて伝えてきたが、聞く耳を持たない」
貴族の女性蔑視の傾向は酷いが、自分の娘を可愛がる父親は多い。
たまに、娘を産んだ妻を責める男性もいるらしいので、王妃陛下の実父はそのタイプだったとか?
「シャルは女性の権利を訴えるイライアスとラックスとは話が合わないと遠ざけ、女性を馬鹿にするリットばかり行動を共にしている」
「昔からそのようなことをおっしゃっていたわけではないのですか?」
「違う。イライアスを生んで二年後くらいからだ。なぜそんなことを言うようになったのか、問いただしても答えない」
イライアス殿下を産んでからということは、父親という線はないということか。
「魔法使いを嫌っている件はどうなのでしょうか」
「女性の友人がいないシャルは、魔法使いについての話を、何度もお前の父としていたようだ」
「……どんな話をしていたのでしょうか」
「魔法使いをこの世から完全に消し去ること」
「私の父は魔法使いを憎んでいたのですね」
「そうだ」
今のところ、使い魔のおかげで魔法使いが生まれても、気づかれないようになっている。そして、魔法使いだと気づかれた場合、お母様の手紙にあったように、魔法が使えなくなってしまう。
だが、子孫は生きているから、新たに魔法使いが生まれる可能性がある。それが気に食わないといったところか。
そこまで魔法使いを嫌う理由はなんなのか。
「ベェェー!」
ベェの鳴き声と共に何かの気配を感じて上を向くと、ワシが私の頭上に飛んでいた。
ワシは通常のオオワシよりは小さいが、ベェたちの二倍以上はある。ベェはワシを私に近づけたくないのか、短い足をバタバタさせて、ワシに攻撃しようとしていた。
悲しいことに、ふわふわの毛のせいで足はほとんど見えないばかりか、ワシの体にも大して当たっていない。ワシはそんなベェを憐れむような目で見ているように見えた。
こんなことを思うのも失礼かもしれないが、どうしてそんな人を王妃にしたのかしら。
「先代のレイハート公爵が亡くなった時に、爵位をソラリアに継がせるという話を出したが、高位貴族だけでなくシャルも反対した。シャルはソラリアが公爵代理になることも反対したくらいだ」
「そうだったのですか」
そんなことになっていたなんて知らなかった。
「最近はマシになってきたけれど、父上の世代の人間は女性を蔑視したり、魔法使いを嫌ったりする傾向が特に酷い。女性が爵位を継げるように法案を出しても、会議に取り上げられる前に却下される」
「国王陛下が決めても同じなのでしょうか」
イライアス殿下から陛下に目を動かすと、足を組んで答える。
「国王だからといって、何でも意見が通るわけではない。ソラリアの婚姻が無効になったのは、個人的な話だからだ」
「……そうでしたか。本当にありがとうございました」
直接お礼を伝えられていなかったことに気づき、深々と頭を下げた。
「ソラリアには新しい結婚相手の目途はつきそうか」
「公爵の爵位を目当てに寄ってくるような人はいるかもしれませんが、しばらくしてから探してみようかと思っています」
「推薦したい人物がいる」
「……どのような方でしょう」
国王陛下に言われたなら断れることは難しい。
変な人ではありませんように!
祈りながら陛下を見つめると、視線を私からイライアス殿下へと移した。
「イライアスはどうだ? イライアスならお前の味方をしてくれるだろう。他の公爵家に反対されてもわしが何とかする」
「「はい?」」
イライアス殿下も初耳だったのか、私と同時に驚きの声を上げた。




