第8話(ジョセフ視点)
何がそんなにおかしいのか、パメラはけたたましく笑い続けた。
……確かに、指輪が盗品でないことには安心したが、まさかギャンブルとは……この女は、自分の両親が、ギャンブルまがいの投資話で破滅したことから、なんにも学んでいないのか?
だいたい、我が家に寄生して、いつもひたすら金を吸い上げているだけなのだから、たまに臨時収入が入ったのなら、少しは恩を返そうと思い、うちに生活費を入れようとか、考えないのだろうか?
そこまで考えて、僕は苦笑した。
このパメラが、そんな殊勝なことを考えるはずがない。
……母上の台詞ではないが、この女はまさに、人の姿をした『寄生虫』だ。
恐らく、鉱山の事故か何かで僕が死んだとしても、『あーあ、寄生する宿主が死んじゃった。明日からどうしよっかなー』程度にしか思わず、涙の一滴だって、流してはくれないだろうな。
うぅっ……頭が痛くなってきた……最近、パメラと話していると、よくこんなふうに、ギリギリと締め付けられるように頭が痛む。きっと、ストレスのせいだな。
頭痛に顔をしかめる僕のほうなど見もせずに、パメラは自慢話を始めた。ギャンブルで大勝したのが、よっぽど嬉しかったらしい。
「ふふん、カードにサイコロ、くじにスロット。まあ、色々やったけど、特に面白いのは、賭けボクシングね。二人のボクサーのうち、どっちが勝つかに賭ける、あれよあれ」
「…………」
「体力だけが取り柄の馬鹿男が、血みどろで殴り合う姿を見るだけでもスカッとするし、私、けっこう見る目ある方だから、体格や面構えをじっくり観察すれば、どっちが勝つか、だいたいわかっちゃうのよねぇ。んふふ、凄い才能でしょ?」
もはや、相槌を打つのも馬鹿らしい。
百発百中ならともかく、一回か二回、予想が的中したくらいで、よくもここまで調子に乗れるものだ。
……ちょっと待て。
賭けボクシングだって?
あれは確か、残酷すぎるという理由で、違法だったはずだ。
この町のどこにも、賭けボクシングの興行をやっている場所などない。
僕は、なるべく平静を装って、尋ねる。
「……賭けボクシングなんて、どこでやってるんだ?」
訝しむ僕の内心に気づかず、パメラは上機嫌に語り続ける。
「んふふ、あんまり大きな声じゃ言えないけどね。繁華街の裏通りに、闇カジノがあるのよ。そこで、えっと、ギャングだかマフィアだか知らないけど、裏社会の人間が仕切って、興行をやってるってわけ」
あああああ。
頭痛が、ますます酷くなる。
馬鹿。
馬鹿。
僕も馬鹿だが、こいつはそれ以上の大馬鹿だ。
裏社会の人間が仕切っている闇カジノに出入りするなんて。
いや、でも、これで、小遣い程度の金額を賭けただけで、どうして高級な指輪を買えるほどの大金を手にすることができたのか、その謎が解けた。……闇カジノというだけあって、賭けのレートがとてつもなく高いのだろう。恐らく、合法的なギャンブルの十倍以上は。
こいつ、それがどれだけ危険なことか、わかってるのか?
……たぶん、いや、絶対わかってないな。
パメラの脳みそでは『闇カジノに出入りする私かっこいい!』程度の認識しかないだろう。たまたま勝ったからいいものの、負けていたら、どんな目にあわされていたことか……
すぐ、やめさせないと。
僕はパメラに向き直り、真剣な瞳で言う。
「パメラ、ギャンブルがしたいのなら、合法的な賭場で、自由にやればいい。小遣いの範囲内での出費なら、僕も文句は言わない。でも、闇カジノに出入りするのだけはやめるんだ。ああいうところは……」
説教を最後まで聞くのが面倒だったのか、パメラはつまらなそうに舌打ちをし、僕の話に割り込んだ。
「嫌よ。自分の小遣いをどう使おうと、私の勝手じゃない。偉そうに指図しないでよね」
「そ、その小遣いを渡してるのは僕だぞ!? 僕が毎日、どれだけ危険で、大変な思いをして働いているのか、少しくらいは理解してくれよ!」
あまりにもこちらを舐め切ったパメラの態度に、僕は思わず怒鳴ってしまう。
……怒鳴りながら、思った。
三年前、僕にふざけた態度を取られ続けたフェリシティアも、こんな気持ちだったのかな。
パメラは、僕の怒りを鼻で笑い、グラスに残っていたワインを飲み干してから、言う。
「ふん、危険で大変な思いをしてるわりに、大して稼げてないじゃない。あんた、炭鉱夫に向いてないんじゃないの? もうちょっと安全で給料の良い職場を探して、転職したら? そしたら私のお小遣いも増えるでしょうし」
はあぁぁぁ……
なんて、馬鹿なことを。
昔の僕同様、世間知らずにもほどがある。その『安全で給料の良い職場』で働くことが、どれだけ難しいことか、まったくわかっていないんだな。最近は不景気だし、鉱山で働けるだけでも、ありがたいことなんだぞ。
僕にはもう、パメラをどう説得すればいいか、分からなかった。
しょぼくれてしまった僕を見て、パメラは勝ち誇ったように言葉を続ける。
「だいたいさぁ、あんたが、あのフェリシティアを怒らせたりしなければ、今頃あの女と結婚してさぁ、あんたにくっついてる私も、もっと良い生活ができてたと思うのよね。……そうよ、あんたが馬鹿なせいで、全部ダメになっちゃったんだから、あんたはこれからも、私を大事にしなきゃならない責任があるのよ」




