表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

第1話

「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」


 もう何度目だろう。

 ジョセフが私とのデートをドタキャンするのは。


 私は小さく「そうですか」と言い、魔法の通信機を切った。


 以前のジョセフは、予定を取りやめる時は、ちゃんと使いの者をよこしてくれたが、最近はもっぱら魔法の通信機を使い、そっけない言葉を述べるだけである。その声色には、もはや申し訳なさそうな様子すらない。


 ちょっと前までは、ジョセフとのデートがダメになるたび、寂しさと悲しみで胸がいっぱいになったが、今ではもう、呆れる感情の方がずっと大きい。


 彼はいつも、病弱な幼馴染――パメラを優先する。


『パメラが熱を出したんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』

『パメラが咳をしてるんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』

『パメラがだるそうなんだ。今日の予定はキャンセルさせてくれ』


 ……とまあ、いつもこんな感じである。


 何故、パメラの体調が悪いという理由で、ジョセフが彼女のもとに駆け付けなければならないのだろう? そんなに体調が悪いなら、お医者様を呼ぶべきじゃない、常識的に考えて。


 だいたい、熱や咳ならともかく、『だるそうだから』って、何よそれ、馬鹿じゃないの。


 私は何度か、今思った通りのことをジョセフに言ったが、ジョセフはいつも面倒くさそうな顔をして『パメラは医者が苦手なんだ。だから、僕が行かないと駄目なんだよ』と繰り返すだけである。


 ……『医者が苦手』か。

 それは、そうでしょうね。


 だって、パメラの病気は仮病なんですから。

 お医者様に診てもらったら、すぐにそれがバレてしまうものね。


 もうずっと前の話だが、私はジョセフと一緒に、調子が悪いというパメラのお見舞いに行ったことがある。その時は、彼女の仮病を見抜いてやろうとか、そんな意地の悪い考えは持っておらず、ただ純粋に、婚約者の幼馴染を気遣っての行動だった。


 しかし、寝室で横になっているパメラを見て、私は小さな不信感を覚えた。彼女が、驚くほど元気そうだったからだ。


 顔色が良いからといって、必ずしも健康とは限らないが、それにしたって、パメラの顔色はあまりにも良好すぎた。少しだが、医学の心得がある私は、『体調が悪いなら、ちょっと私が診てあげる』と言い、パメラを診察した。……最初の印象通り、パメラはまったくの健康体だった。


 パメラは一瞬、私に不愉快そうな目を向けてからニッコリ笑顔になり、『フェリシティアさんのおかげで、元気になったわ、どうもありがとう』とお礼を言った。


 それからである、パメラが私に対して、露骨な敵意を向けてくるようになったのは。彼女は、それまで以上に仮病を連発して、私とジョセフの逢瀬を徹底的に妨害した。私に仮病を見抜かれたのが、よっぽどお気に召さなかったのだろう。


 そしてジョセフは、常にパメラの言いなりである。

 ……正直、この二人に振り回されるのは、もううんざりだった。


 ジョセフへの愛は、とうに冷めきっている。

 ここらが潮時かもね。


 私は魔法の通信機でジョセフを呼び出し、婚約を破棄することにした。


 プルル……

 プルルル……

 プルルルルルル……


 ……ガチャ。


 一分以上もコール音が続いた後、やっとジョセフが出た。


 まったく、ずいぶん待たせてくれたわね。

 私はため息をついてから、用件を述べようとするが、それより先に、受話器の向こうのジョセフが口を開く。


「すまない、今、パメラと一緒にいるんだ。話なら、また今度の機会にしてくれないか?」


 こちらを舐め切った態度に、怒りを通り越して、もう笑うしかない。ジョセフはとうとう、『パメラの体調が悪いから』といういつもの言い訳を述べることすら面倒になったようだ。


 いったい、彼の神経はどうなっているのだろう? 一応は婚約者である私に、『他の女といるから話はまた今度』などと、よくもこんなふざけたことを言えるものだ。


 この愚劣な男との付き合いも、今日で最後だ。

 私は、もはや何の感情も込めずに、冷たく言い放つ。


「また今度の機会なんて、もう二度とないわよ。用件なら十秒で済むから、そのまま聞いててちょうだい」


 いつもなあなあで彼を許してきた私が、厳しい言い方をしたのに驚いたのか、ジョセフはたじろいだようだった。「わ、わかったよ。じゃあ、手短に頼む」と呟いた後、黙ってしまった受話器の向こうの彼に、私は最後の言葉を述べた。


「ジョセフ、あなたとの婚約を破棄するわ。これからは私にいちいち言い訳せずに、心行くまでパメラさんの面倒を見てあげてね。さよなら」


 そして私は、魔法の通信機を切った。


 はぁー、スッキリした。


 くだらない婚約者と、おまけでくっついてきた嘘つきの幼馴染に縛られることもなくなったし、これからはまた自由に、新しい恋を探して生きるとしましょうか。


 そう思い、凝り固まった身体を大きく伸ばしていると、ジョセフから通信が入った。……しかし私は、受話器を取らなかった。だって、彼とはもう何の関係もないんだもの。相手をするだけ時間の無駄だわ。


 さてと、大急ぎで婚約を破棄するために必要な書類を用意しなきゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ