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第2話「ママ、ごはんないの?」

金はある。でも、自分には使わない。

その哲学で“貧乏暮らし”を送る悠馬。そんな彼が、公園で出会ったのは空腹を抱えた幼い女の子と、途方に暮れた母親だった。

助けたい――そう思った瞬間、彼の「本当の力」が静かに動き出す。

朝の公園。ブランコがきしむ音と、カラスの鳴き声だけが響く。五反田悠馬は、ベンチに座りながら昨日買った30円のにんじんをかじっていた。もちろん、生のまま。


「……硬っ」


しかし、それが今日の朝食だ。ポケットの中には、あと973円。今月の生活費3万円まで、あと6日。


そのとき、公園の隅から小さな泣き声が聞こえた。


「ママ……おなかすいた……」


見ると、ブランコのそばに座り込む5歳くらいの女の子と、顔色の悪い若い母親がいた。二人の服はくたびれ、女の子の靴は片方だけ穴が開いている。


「すぐ、なんとかするからね……もうちょっとだけ、我慢しようね……」


母親は必死に笑顔を作るが、その目は泣きそうだった。


悠馬は迷わず立ち上がった。


「よかったら、これ……にんじんだけど」


母親は驚いた顔でこちらを見る。


「あの……いえ、大丈夫です」


「遠慮しないでください。僕も貧乏暮らしなんで、お気持ちわかります。にんじん、甘いですよ。生でもけっこういけます」


女の子が、おそるおそるにんじんを手に取り、かじった。


「……おいしい」


その声を聞いたとたん、悠馬はスマホを取り出した。


財団の支援アプリを起動。「母子支援 緊急対応」メニューから、保護住宅・生活費・医療費・教育支援を選択。対象者情報は匿名登録に設定し、支援金額に「5,000,000円」と入力。


送信ボタンを押すと、即時で支援が確定した。母娘には気づかれない。


「おふたり、もしよければ……この近くの『陽だまりこども食堂』、毎日無料であたたかいご飯が食べられます。今日はおでんの日だったはず」


「そんな場所、あるんですか……」


「ええ。案内しますよ。僕も、たまに行ってます。にんじんだけじゃ、さすがに足りなくて」


悠馬はウインクした。


食堂までの道すがら、母親は少しずつ事情を話し始めた。夫のDVから逃げ、頼る実家もなく、アパートは解約寸前。仕事を探しても子どもがいるとなかなか雇ってもらえず、所持金はもう300円だった。


「支援って、誰に頼ればいいのかわからなくて……役所に行くのも、怖くて……」


「大丈夫です。必要なことは全部整います。あなたは、ただ休んで、娘さんと笑っててください」


その夜、母娘は提携シェルターに移された。3食の食事、保育所、就職支援、住まい、医療費……すべて、悠馬の見えない手によって整えられた。


人を助けるのに、名前も立場もいらない。ただ「助けたい」と思う心があれば、それだけで十分。

第3話では、かつて悠馬が助けられた“ある日”の出来事を描きます。

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