EP⑦ 夜影、そして消えゆくモグラトラ
夕日がほとんど見えなくなり、空が闇に包まれいく。
「トラキチのやつ、、最後の攻撃って言った癖にめちゃくちゃしよるのぅ」
「いや全部モグのせいでしょ?もしコトリになんかあったら別の神様との契約を考えるからね!」
「なんと!?宮尾家にワシより強い神などおったかのう?」
「強さだけならモグが一番だけど、しっかり言う事聞いてくれる神様は沢山いるよ」
「うっ…痛いとこをつくのぅ」
土竜様がぐうの音も出ないとう顔をしている。
「あのー。そろそろちゃんと作戦を教えて貰ってもいいですか?」
私は千代と土竜様の話を遮り質問を投げかける。死地を走り抜けるのは私なのだ。作戦を知りたいというのは当然の権利である。
「作戦なんて走る以外ないぞ!ただただ走って頭をポンだ!」
「……」
この神様の考えは理解不能だ。千代は土竜様にもいいところはあると言っていたけど、、本当かなぁ。今の私の印象は最悪だけど…そうは言っても寅のためだ。腐っても神!信じて頑張ろう!
「そうですか…わかりました。行ってきます」
「任せとけ!瓦礫があれば、ワシは無敵じゃ!!」
「そうなんですね…よくわからないけどお願いします」
こうなったら信じる他ないか。覚悟を決めた私は寅の正面に立つ。
寅までの距離約80メートル。全力で走れば10秒前後というところだ。
ただ、地面はひび割れ、その速度で走るにはちょっと厳しそうだ。
寅は私には気づいているようだけど、攻撃をしてくる素振りは無い。
寅の周りには人魂のような紫色の炎が8個ほど浮いている。
いつでもこちらに炎の弾を飛ばせる準備はできており、余裕のある表情(虎の表情だからわからないが…)で優雅に徘徊している。
「じゃあ走りますね」
「OKじゃ!では舗装するぞ!」
「え?舗装?」
そう言うと、瓦礫だらけ地面に土竜様がボロボロの鍵爪で触れる。何やらブツブツと呪文も唱えているようだが、声が小さく聞こえない。準備が完了したのか、私の方に向って土竜様が叫ぶ。
「今からワシがトラキチに続く一本道を作るから、できたのを確認したら、真っすぐ走れ!もう何があっても守ってやるから全力で走り向けて、頭をポンじゃ!!」
「そういうのをさっき聞いた時に教えてくださいよ」
「コトりんは細かいのう!いいから走って頭をポンだけ考えとれ!」
「コトりん!?…まぁ今はいいか。じゃあ行ってきます」
私が寅の方に向き直ると、土竜様が後ろで寅に向って宣言する。
「試合に負けて勝負に勝つじゃ!!我にひれ伏せトラキチーーー!!」
自分で売った喧嘩負けて、なんとか集団で引き分けに持ち込もうと必死な神様の遠吠えが響いた。
負け惜しみを言うと、土竜様が鍵爪を思いっきり地面に刺す。
すると、私を中心に寅まで続く魔法陣が地面に浮かび上がった。
何事かと思わず私が後ろを向く。
「土竜様これは…何ですか?」
「コラコラ!コトりん!寅に集中せい!」
「あっ…ごめんなさい」
なんだろう…言ってることは正しいのだが、さっきまでふざけ倒していたこの神にだけは言われたくない。いけないいけない。今は寅に集中しよう。
私が寅の方に向き直ると同時に、瓦礫だらけの道が見る見る舗装され、走りやすそうな一本道が現れた。これが土竜様の魔法の力かと感心をしていると、『早く走れ!』とまた土竜様に注意された。
複雑な思いはあったが、私は寅に向って走り出す。
走りだした私を見て、寅も反応する。
寅の周りに浮いていた炎の一つが、まっすぐに私に向って飛んできた。
「土竜様ーーー!!炎が来てます!!」
「見えとる見えとる!!お任せあれじゃ!!」
真っすぐ走っている私には、後ろで土竜様が何をしているかわからないが、突然道の外に転がっていた瓦礫が宙に浮き、炎に向って真っすぐ飛んでいくのが見えた。そして前方の炎と飛んできた瓦礫がぶつかり、大きな音をたて、粉砕して塵となった。
「この調子であと7個全部撃ち落とすから、コトりんは安心して『頭をポン』のことだけ考えておれ!!」
「わかりました!!」
案外頼りになるなと思い、安心した私は真っすぐ全力で突き進む。その後も襲い掛かる3つの炎の弾をあっという間に土竜様が瓦礫で撃ち落としてくれた。残り40メートル。あと5秒ほどで頭に触れることができそうな時だった。
寅が残り4つの炎を1つの大きな弾に変え、真っすぐ私に向って放ってきた。
「うぐ…トラキチめ!なかなかやりおるのう」
「モグ!!コトリは大丈夫なの!!?」
「大丈夫じゃ!ワシにお任せあれじゃーーー!!!」
土竜様の叫び声とともに、走り抜ける私の視線が空に向く。
ん?私は浮いているのか…いや違うな。私が浮かび上がったのではなく、地面の方がせり上がったのだ。せり上がった道は当然坂道になる。
「はぁ、、はぁ、、坂道キツイ」
「コトりん!!ジャンプせい!!」
「はぁ、、はぁ、、え?ジャンプ?」
土竜様の言葉が聞こえてすぐに地面から大きな轟音が鳴り響く。
先ほど寅が放った炎の大弾と、まさに今走ってきた坂道の根本がぶつかり道が粉砕している。
ん?そうなると、今私が走っているこの道はどうなるのかな?
私の嫌な予想は的中し、地面と切り離された先っぽだけの道が 地面に向って落ち始めた。
「ちょいちょいちょい!!土竜様!!落ちてます!!」
「大丈夫じゃ!!もうナイト様が下で待っておる!受け止めて貰えい!!」
「ナイト様?」
下を見ると、ボロボロの服のナイト様がいた。
「コトリーーー!!助けに来たよ!!」
「え?千代?なんで?」
落ちる道の横を並走するようにトロッコのような乗り物に乗った千代がいた。
「コトリ!!こっちに飛んで!!」
「え?……うん。わかった!!」
寅に集中していたことと、坂道で疲れたことで私の思考力は停止していたのか、私は何の躊躇も無く崩れ行く道から飛び降りた。そのままトロッコに乗りの千代に抱きかかえられる。
「ふぅー!間に合った!」
「ありがとう千代!ところでこれは何?」
「モグが作った瓦礫トロッコだよ!寅さんに気付かれないように少し遠回りしたけど間に合って良かった」
「こんな乗り物作れるなら私走らなくて良くなかった?」
「そ、、そんなことはないよ!!ほら!あと少しだよ!頑張って!!」
私は囮にされていたのだろうか。まぁいいか。残り10メートルというところでトロッコは止まった。
あと少し、ラストスパート。私は無心で寅に向って走り出す。もう少し、あと5メートル!私は思いっきり手をのばす。が、、あと少しで手が届きそうなところで、寅が口を開く。口の中にはまたも大きな炎の弾があり、今にも弾き飛ばされそうな状態だった。
「うぐーー!トラキチめ!!まずいな。間に合わないぞ」
「モグ!!なんとかしなさいよ!!」
「ぐぬ、、すまん!コトりん。。作戦失敗じゃ」
「ちょっと諦めないでよ!!コトリーーー!!よけてぇーーーー!!!!」
目の前の炎の弾を私はかわすことができない距離にいた。まさに絶体絶命だ。
でも…
違和感がある。
なぜ寅はさっき道の根本を狙ったのだろうか。私に直接炎の弾をぶつけた方が効率がいいのに。
そもそも私が走り出した時に大弾を飛ばさずに一つ一つ放ってきたのも変じゃないかな。
穴の中の構造を咆哮で確認するほど用心深い寅が、ガラガラと音をたてて走るトロッコに気付かないなんてあるかな。私の頭の中は違和感でいっぱいになる。
そして
ついに寅の口から炎の大弾が弾き飛ばされた。
私の違和感は、炎の行方で解決した。
私を狙ったはずの炎の大弾は、私に着弾せずに通り過ぎたのだ。
私の後ろにいた、トロッコに乗った千代にもぶつかることなくもっと遠くにまっすぐ飛んでいく。
そして少し遠くで、ドカーンともの凄い音が鳴った。
振り向くと、そこには丸焦げの土竜様が立っていた。
「ちょいちょい!!トラキチ!!どういうことじゃ!!!?」
土竜様の声が響く。丸焦げでも元気な神様だなと感心しながら、私は寅の方に向き直る。
向き直ると、目の前に大きな虎がいた。少しビックリして立ちすくんでしまった。
が、その虎は私の手を持ち上げるように自ら頭を差し出し、私の手を頭の上に置いた。
「コトリさん!迷惑かけてごめんなさい!」
「え?え?寅?…正気なの?」
「はい!」
「いつから?」
「コトリさんが走って来る前には、、」
「えーーー!!もう少し早く言ってよ!!」
「ごめんなさい!ちょっと土竜様に一泡吹かせたくて…」
「それは、、いいと思う!ナイス寅!グッジョブ!!」
「ありがとうございます!」
正気に戻った寅を見て安心した私は膝から崩れ落ちた。すかさず寅が背中を貸してくれて、ひょいっと私を背中に乗せて土竜様の方に向っていった。
「土竜様…大丈夫ですか?一応手加減はしたつもりですが…」
「大丈夫なわけないじゃろ!!もう半分ぐらい消えかかっとるわ!!」
土竜様の言う通り、確かに足の方からジワジワと消えている。
「召喚された神の魔力が低下すると、成仏するように消えていくんです。ほら!俺ももう消えかかっているでしょ!まぁ俺の場合はさっきコトリさんの手を頭に置いたことによるものですが」
そう言われて寅の方を見ると、確かに消えかかっていた。
「神様が成仏ってなんだか面白いね」
「モグは早く消えてしまっていいよ」
「こら!!神様をもっと大事にせい!!!!」
「コトリさん!もうあたりが暗いので、俺が消える前にコトリさんと千代さんを村まで送らせてくだい!千代さんも早く俺の背中に乗ってください!!」
「ありがとう!お言葉に甘えて背中に失礼します!モグは、、、まぁいいか」
「まぁいいとはなんじゃ!!…とはいえ、村に行く必要はないからここでサヨナラじゃ!またな主様!コトりん!」
土竜様の言葉聞いて、私たちは寅の背中に乗り、猛スピードで村に帰った。
途中、夜の森に獰猛そうなモンスターを見かけたけど、流石に虎の姿の寅にひるんだのか、襲ってくるモンスターはいなかった。
門番の人が虎の姿に驚いたけれど、私が召喚した神様ということをしっかりと説明したのと、寅自身も丁寧に挨拶をしていたので、すんなりと通してくれた。
「ではコトリさん!千代さん!俺も限界なので、そろそろ消えますね!」
「ありがとう寅さん!」
「ありがとう寅!次召喚するまでに私も召喚士としてもう少ししっかりしておくね!」
「コトリさんは今のままでも素晴らしい召喚士ですよ」
「えへへ。じゃあまたね!寅!」
「はい!また!」
そういうと寅の姿も完全に消えていった。
「なんか…いいね」
「え?何が?」
「寅さんとコトリの関係だよ!」
「そうかな?千代と土竜様もいいコンビに見えたよ」
「う…うん。ありがとう」
お互い疲れていたのか、少し話をしてすぐにそれぞれの家路についた。
そういえば、さっくり別れたが、土竜様はすぐに消えたのかな?
まぁ、私が気にすることでもないので、あまり考えず私は眠りにつく。
長い一日だったなぁ。。。おやすみなさい。。。
◇
時は少し遡り、消えゆく土竜は何者かに話しかけられていた。
「わぁー!こんなところに消えかけの神がいる!」
「ん?誰じゃ?森の中だと姿が見えんから出てきてもらえんかのう?」
「なにその話し方!全然似合って無いからやめた方がいいよ!!」
「失礼な奴だのう!何者じゃ!!」
「え?私のこと知らないの?」
「神に向かって大口叩くやつじゃのう!で誰じゃ?もう消えるから名前だけ聞かせてくれ!」
「ミカヅキ!って言えばわかるかな?」
「ミカヅキ!!!?魔王のミカヅキか!?」
「わぁ!神でもわかるんだ!嬉しいな!」
「魔王『ミカヅキ』が神になんの用じゃ?」
「え?君には何も用は無いよ!私の興味は別にあるから」
「嫌な言い方じゃのう!まぁいい。せっかく魔王に会えたのに姿が見れんのがおしいのう…」
魔力切れで土竜は消える。
「君があの子の近くにいるならまたすぐに会えるよ!またねモグラさん」