EP⑥ 白虎 vs 土竜
ところで、召喚の解除ってどうやってするんだっけ?
たしかお父さんが言ってたような…
◇回想◇
「コトリ!万が一にでも寅が自分の手に余ることがあればすぐに召喚を解除して強制送還しろよ!」
「強制送還?」
「召喚士には強制的に召喚をやめる手がある!召喚した神の頭に手を触れるだけだから簡単だぞ!そうすると、繋がった魔力が断ち切れて強制的に魔力供給が無くなる」
「そうなんだ、、魔力供給が無くなったらすぐに神様は消えるの?」
「大抵の神様は消える、、が、魔力量の多い神様が自分で滞在を望めば、魔力切れになるまでは消えないこともある」
「寅はどうなのかな?」
「寅は魔力量はめちゃくちゃ多いけど素直でいいやつだから大丈夫だろう!まぁ、、自我を失ったりするような緊急事態で無ければすぐに消えてくれるだろう!」
お父さんが寅と肩を組み笑っている。『たとえ緊急時でもなんとか消えるから安心してください!』と寅は私に微笑んだ。
◇回想終◇
寅はああいってたけど、本当に消えてくれるのかな。それに『召喚した神様の頭に手を触れるだけ』って今のこの状況で簡単にできるとは思えないけど。とはいえ、いざという時は頑張るしかないか。少し不安だけど、土竜様がなんとかしてくれることを祈ろう。
、、、そもそも土竜様って強いのかな?
見た目はそんなに強そうには見えないけど、自分で暴走させるぐらいの強気の姿勢だし、寅も土竜様の事を認めてた感じはあったし、、きっと強いんだろうな。
「我がこの戦況を覆してやろうぞぉーー!!ハハハハハ!!!」
土竜様はもの凄く楽しそうだ。自分で『この戦況』にしておいて、何を覆すというのだろうか。そもそも覆してやるということは、今の現状は、劣勢ということなのか?
私の心配そうな顔をみて、千代が土竜様に聞く。
「モグ!本当に大丈夫なの!?」
「ふむ!普通に戦ったら、十中八九負けるのう!アハハハ!!」
「「え?」」
清々しいほどの敗北宣言に、私と千代の心の声が思わず漏れる。
「え、、え?ここまで場を荒らしておいて負けるとかあるんですか!?」
私はかろうじて神様相手なので、敬語は崩さなかったが、内心は、この神様を強制送還してやりたい気分だった。
「そう焦るな! ”普通” に戦ったらと言っておろう!」
「モグ!もったいぶらないで!!」
千代がしびれを切らして土竜様に詰め寄る。
「よし!!じゃあ説明するかのう、、おっと!!!!?」
「ガルガルガルガァーーーーーー!!!!」
しびれを切らしたのは千代だけでなく、暴走した寅も土竜様に向って攻撃を仕掛けてきた。寅の口から人魂のような紫色の炎の大弾が土竜様に向って力強く放たれる。
「待て待てトラキチ!!作戦会議ぐらいさせてくれ!!」
「ガルガルガルガルガルガルガルガルガルガァーーーーーー!!!!」
暴走しているのだ。普通の会話なんて寅には聞こえていない。寅は土竜様にお構いなしに、次から次へと炎の弾を飛ばしてくる。私と千代はそそくさと土竜様から離れ森の奥に避難する。
「ちょっ、、逃げたらワシだけ狙われるであろう!!」
「全部モグのせいなんだから、モグが一人で爆ぜればいい」
千代が害虫を見る目で神様を見ている。私も神様に使うのは変だけど、この神様には一度天罰がくだればいいと思った。
「あぁーもう、、仕方ないのう。ちょっと本気をだすかのう」
そう言うと、土竜様が胸にかけていた薄紫色の透けたサングラスを外し、目元に装着する。そして両手を広げ寅の方に向き直る。
「トラキチーー!!ワシと本気の『土竜叩き』をしよう!!!」
「ガルガルガァーーーーーー!!!!」
「よしよし!では始めるぞぉーーー!!」
今の『ガルガル』は了承を意味していたのだろうか?それに本気の土竜叩きって、、叩かれる土竜様に勝ち目があるとは思えない。私は千代と一緒に少し離れたところから二人の神様の戦いを見ていた。両手を広げた土竜様の手が大きな鍵爪のように変化し、身体の周りに竜巻が起こる。瞬間、土竜様は宙に舞い上がり、一直線に鍵爪で寅に切りかかる。
と、思われたが、寅が火の玉を大量に飛ばしてきたのを見て、地面に潜りこむ。
「モグラたたきに飛び道具は卑怯だぞ!!」
「ガルガルガァーーー!!」
暴走した寅に卑怯も何もないだろう。そもそも私の身体から勝手に魔力供給する方がよっぽど卑怯だとも思う。しかし、この神様は楽しそうに戦うなぁ。。。
「ごめんねコトリ」
「え?千代は悪くないよ!気にしないで!」
「でも私の家の神様だし、、」
「そんなこと言ったら、あそこで暴走してるのもうちの神様だよ」
私と千代は神様二人が『土竜叩き』をしている側でクスクスと笑いあう。
「そもそも神様同士が知ってる仲なら、寅さんと私が挨拶するだけで良かったね」
「ううん。私も土竜様と顔合わせしたかったし、、でも千代と寅が召喚に躊躇した気持ちは、なんとなく理解した」
「でしょ!モグは悪い子じゃないけど、、めんどくさいの!!」
悪い子じゃないんだ。千代の顔は申し訳無さそうだが、なんとなく楽しそうだ。そういえば、私もこんな状況なのに、少し気分が高揚している。もしかすると魔力供給で神様と繋がってる間は神様の気持ちがこちら側に流れてくるのかもしれない。ん?だとすると、暴走中の寅も楽しんでるのかな?
「ところで、一つ聞きたかったんだけど、なんで土竜様は老師みたいな話し方をするのかな?見た目としゃべり方が全然あってないし、なんだかブレブレでぎこちないよね?」
「あぁ…あれね。モグの憧れの神様の真似だよ。少しでも近づけるようにって真似してるみたい。あんなのだけど可愛いとこあるでしょ!」
意外な理由が返ってきた。なるほど。少しでも憧れの人に近づけるように、多少無理してでも強くなりたいということなのだろうか?
「なるほど。我が道をいくタイプかと思ったけど、、意外と健気なんだ。憧れの神様か。どんな神様なんだろう?」
「詳しくは教えてくれなかったんだよね、、、もしかしたら干支神様の誰かかもね!」
「まさか!」
「でも寅さんとモグが知り合いだったぐらいだし、、案外、神界も狭いかもよ」
「たしかに。ありえるかも」
神界の事は神のみぞ知るだ。私たちにはわからないことだらけで、『召喚』というこのスキルも人間があみ出した技なのか、神様側から持ち掛けられた技なのか、今の私達世代にはもうわからないことだ。
「しかしこの戦いはいつ終わるんだろうね」
私と千代が話している間も、轟音を鳴らしながら二人の神様は戦っていた。
真正面から力のぶつかり合いをすると、土竜様には勝ち目が無いらしく、土竜様は無数の穴を掘り、ランダムに穴から飛び出し、寅を少しづつ鍵爪で切り付け、また穴に潜るの繰り返しをしていた。
「ハハハ!トラキチ!お前の力はこんなものかぁ!!」
「ガルガル」
「フフフ。そうだろう!これが私の戦い方じゃーー!!」
なぜ『ガルガル』だけで会話が成立してるのかわからないけど、二人の神様の間では何かが伝わってるらしい。
「ガルガルガァー!!」
「ん?次が最後の攻撃と?では全力でかかって来るがよい!ワシがうぬの全部を受け止めてやろう!!」
そう言いながら、土竜様は自分のあけた無数の穴の中に隠れる。
「モグ、、受け止めるって意味わかってる?」
「隠れちゃったね…」
「まぁモグらしい戦い方だけど」
隠れてしまった土竜様を探すでもなく、寅は無数の穴のまわりをウロウロしていた。一つの穴の前で足を止め、穴の中を覗き込む。何かを確認したのか、覗いた頭を一度戻し、空を見ながら大きく息を吸う。そして、再度、頭を穴に突っ込み、耳鳴りがするほどの咆哮を穴に向って放つ。
「「「「ゴルガルグガァーーーー!!!!」」」
穴の中にいた土竜様がたまらず外に出てくる。
「うるさーーーい!!鼓膜が破れる!!トラキ、、チ、、、え?」
ドスッ!!!
どこから土竜様が出てくるかわかっていたかのように、出てきた穴の前に寅が待ち構えていた。そして、土竜様の脇腹に強烈な強打が炸裂する。たまらず土竜様が吹き飛ばされる。
「ガハッ!一発でこれは…キツイのう、、」
思わず千代が駆け寄る。
「モグ!!大丈夫!!?」
「来るな千代!!まだ攻撃が終わっとらん!!」
寅は容赦なく、無数の炎の弾を穴の中に放つ。先ほどの咆哮で、障害物の位置を探るソナーのように穴の中を把握したのだ。寅の放つ炎の弾は土竜様の近くの穴から飛び出し、全弾土竜様目掛けて飛んでいく。
「離れろ千代!!」
「こんなの受けたらモグもタダじゃすまないでしょ!!」
「私は神だから大丈夫!だから早く離れて!!!」
土竜様も動揺しているのか、話し方が普通の女の子に戻っている。
「くっ、、仕方ない、、」
寅の放った炎の弾が全弾、土竜様と千代を襲った。
「千代ーーー!!土竜様ーーー!!」
私の言葉に反応は無い。着弾した場所は土煙と爆炎で何も見えない。もう夕暮れで間もなく夜が訪れようとしている中、私は一人森の中にいた。すると、後ろからガリガリと地響きが聞こえてきた。私が振り返ると、ドカーンと音をたててボロボロの土竜様と、ボロボロの抱えられた千代が出てきた。
「危なかったーーーー!!死ぬかと思った!!」
「、、、モグは、一度これぐらい痛い目見た方がいいよ、、」
「こんなにボロボロなのに悪態つくとは、、流石我が主様じゃ!!」
私は『ふぅ』と安心して溜め息が漏れた。二人とも無事で良かった。
「寅の主様、、作戦変更じゃ。悔しいが強制送還に切り替えよう」
「モグももうあまり無理できなさそうだしね」
「作戦は?流石に今の寅の頭を触るのは簡単じゃない気がするんだけど…」
「作戦のぅ…まぁ、、トラキチの近くまで新しい穴を掘って近づいて、ポンじゃろうな」
ありきたりだけど、確かにその作戦が一番無難だと思った。
「そうだね、、、それしかないよね!」
私たちの作戦が聞こえていたのか、寅が穴に向ってまた無数の炎の弾を放り込む。
「土竜様!早く逃げないとまたこの穴から炎の弾が来ちゃうよ!!」
「大丈夫じゃ!この穴はどこにも繋がっておらんからのう!今逃げるためだけにあけた穴じゃ!」
土竜様が自信満々に胸を張っている。土竜様の言った通り、近くの穴から炎の弾が飛んでくることは無かった。けど、他の穴からも炎の弾が出てくることも無く無数に飛んだあの弾は一体どこに消えたのだろうと私が思っていると、地面の下から『ボカン!!』というもの凄い轟音が聞こえた。次の瞬間ジリジリと地面がひび割れていく。
「しまった!!」
「どうしたのモグ!!」
「トラキチのやつ、、地面の下のワシの穴の中で爆発させておるじゃ!」
「、、、そうするとどうなるの?」
「まず地面の下が大火事じゃから潜れないのぅ。あとは、、、」
「あとは?」
「大きな地割れがおきるのぅ…」
土竜様が言った途端に、私たちのいる場所を含めて、大きな地割れが起きた。森に生えている木の何本かが地割れに飲み込まれるほどの被害だ。私たちは地割れに気付くことができたので、近くの木の上に避難した。
「うーむ。。しまったのぅ。。『こっそり近づいてポン作戦』が使えなくなったのう。トラキチのやつ、、暴走しても四神というところじゃのう。天晴じゃのぅ」
「もうモグ!感心してる場合じゃないでしょう!」
「まぁ待て待て!作戦が無い訳じゃない!…というか、こうなったらワシらの勝ちが確定したぞ!喜べ主様!!」
「急に強気ですね。私は何をしたらいいですか?」
「簡単じゃ!寅の主様は真っすぐ寅に向って走って、頭をポンと触るだけじゃ!」
ん?この神様は何を言ってるのかな?それは流石に無謀なのでは?
「私に寅にやられろと?」
「なんだったら目をつぶって真っすぐ走るだけでもいいぞよ!」
「私を囮に逃げる気ですか?」
「騙されたと思って走り抜けてみてくれぞよ!」
「…その言葉を信用できるほど、土竜様に信用が無いのですが、、」
「寅の主様は手厳しいぞよ!」
段々『~ぞよ!』がうざく感じてきたぞよ。
「コトリお願い!変な神様だけど、ここまでモグが言うならたぶん大丈夫だから今回はモグを信用して貰ってもいいかな?」
「変な神様とはなんだぞよ!」
「モグはちょっと黙ってて!」
ボロボロの二人が真剣に話してる姿を見てなんだか笑えてきた。
「フフフ。まぁ千代が言うなら信用してもいいかな!」
「ありがとう。コトリ!」
「よし!じゃあもう夜になるし、ひとっ走り行ってこいぞよ!」
ぞよ。。。うん…私もこの神様苦手だ。
とはいえ、暴走してるのは寅だし、助けたいのは私の気持ちだ。
「わかった!!じゃあ全力で走るからサポートお願いします!」
「土竜様の真の力を見せるときが来たな!!さらばだトラキチ!!」
土竜様は勝ち誇った顔で、寅を睨みつけていた。