EP⑤ 白虎と土竜
「コトリさん何度も確認してしつこいようですが、本当にいいんですね?」
「大丈夫大丈夫!私はまだ元気だよ!寅は優しいね」
「いえ、、そんなことは、、」
「うぬは心配しすぎじゃ!ガッと魔力注いでバッと変身せぃ!!」
「モグ!無理言わないの!!」
4人での会話はとても面白く、召喚士になって良かったと思えた。お父さんとお母さんの家の関係もあり、正直なところ召喚士になることを躊躇したこともあった。そうは言っても、私にはお母さん側の『人を操る眼の力』の素質は無く、召喚士以外の道は無かったのだけれど、、、
「ほれほれ!!早くしないと日が暮れて恐ろしー魔物がでてくるよ!早く早く!、、じゃ!」
なぜ土竜様は老師キャラをしているのだろうか、、、まぁいいか。確かに土竜様が言うのも一理ある。すでに夕刻。間もなく夜の帳がおりそうだ。あまり遅くなると、日中出てくる魔物よりも強い魔物が出てくる。魔物が夜行性というのは何故なのだろうか、、、私は疑問があるとついつい考えてしまうタイプだ。
「だ・か・ら!モグは少し黙りなさい!」
「そんなこと言って、千代も浮かれた顔してるじゃぞ!」
「してないよ!!それに『してるじゃぞ!』ってなに?」
「、、、人の言葉は難しいのじゃぞ」
この老師キャラはいつまで続くのだろうか。
「コトリさん!土竜様がいう、魔物が出るっていうのも一理あるので、急ぎましょう!」
「わかった!えっと、、前回みたいに胸に手をあてて魔力を注いだらいいのかな?」
白虎の姿を見せると言ったものの、この少年寅くんを白虎に変える方法を私はまだ知らない。
「大きくは変わりませんが、胸では無く、俺の背中に手を当ててください」
あれ?寅って自分の事を『俺』って言うこともあるんだ。なんか以外だな。少年姿なのに不覚にも私は少しドキッとしてしまった。
「どうかしましたか?」
「いやいや!なんでもないよ!、、背中ね!」
私は何を動揺してるんだろうか。恥ずかしい。少し顔が赤くなってる気がする。背中で良かった。私は動揺を隠すように寅の後ろにまわりこむ。
「よし!じゃあ魔力注ぐからね!準備はいい?」
「はい!大丈夫です。あまり一気に注入せずに、ゆっくり入れてください!入れすぎると言動が荒くなることもあるので気を付けてください」
「うん!わかった!」
私は、寅の背中に手をあてて、少しづつ魔力を注いていく。
「こんな感じ?」
「いい感じです!もう少し量を増やしてみてください」
「こうかな?」
「いいです!いい感じです!」
私達がゆっくりと魔力を注入していると、土竜様が苛立ったテンションで話始める。
「じれったいのぅ…」
「モグ!あなたが見たいって言ったんだから我慢しなさい!」
「、、、あー!もう無理!トラキチ!ガッと魔力貰ったらいいんじゃよ!!!」
そう言った土竜様が私の背中を強く叩きつける。ビックリして私は魔力を入れすぎた。
「うぐっ!?ちょっと土竜様。やめてください!危ないから!」
「すまんすまん!ワザとじゃ!!」
「モグっ!!!」
「ごめんね寅!ちょっと慎重にいくね」
「コトリさんは悪くないです」
いつもは温厚な千代が、鬼の形相で土竜様に駆け寄る。
「モーグー?次やったら召喚解除するからねぇー!!」
口元は笑ってるのに、禍々しい黒いオーラが千代の肩から出ているように見える。
「フハハハ!やれるもんならやってみい!一度召喚したら最後、我ぐらいの神様になったら、強制送還なんて無意味じゃ!自分の魔力で滞在するんじゃもん!」
「モグーーー!!…もう、、、ごめんねコトリ、寅さん」
私は『大丈夫!』と千代に微笑む。寅も同じように問題ないという顔で千代に向って会釈をした。
が、、、頭を上げた寅の顔が急に険しくなる。
「んぐ………」
「寅どうかした?」
「いえ、、大丈夫、、です、、ガハッ!!」
「様子が変だよ!一旦やめようか?」
「いえ、、、だ、、い、、じょ、、う、、、」
寅が突然蹲り、動かなくなった。顔色も悪い。私は一旦魔力供給をやめて、寅の様子を見た。今日初めて会ったばかりでよくあることかどうかもわからないが、明らかに異常事態であることはわかる。その様子を土竜様がやニヤリとした顔で見ている。
「あれぇ~?トラキチ~?どうしたのじゃ~?具合でも悪いのか~?」
何かに気付いたように寅が土竜様を睨みつける。
「、、、何かしましたね」
「何もしておらんよ!ちょっとお前の主様に力を貸しただけじゃ!」
「モグ!!!!なにしたの!!?」
「そう怒るな千代!じれったいからワシの魔力を主様を介して入れてみただけじゃ!」
「土竜様、、、神に別の神が魔力供給するとどうなるかわかってますよね、、」
「当り前じゃ!!なに、、ワシはちょっと本気のトラキチと戦ってみたいだけじゃ!」
「……やはり私はあなたが苦手です」
「吾輩は好きであるぞ」
「ぐぅ…はぁ…しっかり責任取ってくださいよ」
寅が土竜様にそういうと、目を閉じる。すると前に変身した時同様に、寅が光に包まれた。だが、前回とは光の色が違う。神々しく金色に輝いていた今朝とは違い、禍々しい紫色の光に寅が包まれていった。
「まかせておけ!自分の尻ぬぐいは自分でする!じゃあ、、またなトラキチ!」
「………」
神様の二人には、これから何が起こるかわかっているかのような会話だった。
「寅!大丈夫なの?返事して!」
紫色の光に包まれた寅に話しかけたが、返事は無い。少しずつ、そして着実に寅を包む光は大きくなる。中でパチパチと雷が鳴るような音がして、そして、ついに紫色の光が弾け、寅が姿を現す。
「おぉー!!成功ではないか!!!」
そこには、今朝見た白虎の姿があった。しかし前回は赤いオーラを纏った、神々しい見た目の白虎だったが、今ここにいる白虎は、目の下に黒いラインの入った禍々しいオーラのお姿だ。土竜様が成功と叫んだが、正直どのあたりが成功なのだろうか。
「寅?大丈夫?」
「………」
「寅?」
「………ガルルル」
「ガルル?…ちょっと変な冗談やめてよ!」
私が寅に近付こうとしたとき、千代が叫ぶ!!
「コトリ!!!!逃げて!!!!」
私は千代の言葉に驚き、考えるより先にすぐに後ろに下がっていた。
「ガルガルガルガァーーーーーーーーー!!!!」
瞬間、寅が私に襲い掛かってきた。千代の声のお陰で間一髪でよけることができた。が、、寅は完全に暴走を始めていた。
「どうしたの?寅!!元に戻ってよ!!」
「モグ!!!なにしたの!!!?」
「ん?さっきも言ったが、本気のトラキチと手合わせしたくて、ワシの魔力をちょっと貸しただけじゃよ!」
土竜様はそういうと、準備運動を始める。『暴走した白虎を止めてあげよう☆』と元気よく言ってはいるが、すべては土竜様のせいである。
「本当に止められるんですか?」
私は土竜様に尋ねる。
「大丈夫大丈夫!ワシに任せとけい!!」
「そもそもモグが悪いんでしょ!!」
「夜の帳までには終わらせるからのう!!あっ!寅の主様!」
戦う準備体操をしながら土竜様が私に声をかけてきた。なんだろう?謝罪でもするのだろうか?
「なんですか?」
「なに、、寅を止める自信はあるが、、、念のために召喚解除の準備だけしといてくれ!」
「え?」
「いや大丈夫なんじゃが、念の為じゃよ!念の為!!」
本当に大丈夫かな?ひとまず私は召喚解除の準備を始めた。