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EP④ 寅と土竜

私達は村の外に来た。サマニエ村の門番に召喚の訓練をするからと、村の外れにある森に行くことを伝えた。日暮れ前には戻ると言ったので、もし万が一でも森で襲われても、お父さんや村の人達が探しに来てくれることになっている。


 「では早速寅を呼んでみようかな!!」

 「なんだか申し訳ないなぁ…」

 「え?なにが?」

 「こんな森に顔合わせの為だけに呼ばれる神様にだよ。私の方は、、たぶん喜ぶから全然いいんだけど、、」

 「喜ぶんだ、、」

 「ちょっと変だから、、」


 千代がここまで言うのなら本当に変なのだろう。どんな神様なのだろうか。『ワタクシの言うことが聞けないのかしら!』みたいな令嬢タイプか、はたまた『マスターの言うことなんか聞いてあげないんだからね!』みたいなツンデレタイプ、、、それとも『あぁん!使役?うるせぇな!』みたいな使役する側のレベルが足りなくて言うこと聞かないタイプか、、、いや、呼ばれたら喜ぶって言ってたしそんな変な感じではないか、、、


 「コトリ?どうかした?」

 「いやなんでもない!ちょっと変な神様を想像してた」

 「あぁ…なるほど。まぁ後で呼ぶから、、ね」


 含みのある発言が逆に恐い。


 「ではでは召喚しますか!あっ、、千代は気にしてるかもだけど、寅が『いついかなる時もその召喚に応じる』って契約の時に言ってたから気にしなくていいよ!」

 「、、それは契約の口上みたいなもので、本当にいかなる時も呼ばれたら迷惑だよ」


 呆れ顔で千代が私を見ているが、そんなことはお構いなしに私は召喚を始める。


 「よし!集中!集中!」


 たしか、拳に魔力を込めるって言ってたな。あの時の感覚で、寅と私の魔力を繋げるようなイメージで。私は、拳を高く掲げ、魔力の感覚を研ぎ澄ます。確かこのぐらいの魔力量だった。その時、私の魔力が寅につながる感覚があり、身体の中でカチっとチャンネルがあった。前回は全開まで魔力を注ぎ過ぎて虎の姿になったから、、、とりあえず7割ぐらいの魔力量で呼んでみよう。


 私は、森中に響き渡る大きな声で叫んだ。


 「寅ーーーーー!!」


 すると、私の拳から、魔法陣のような紋章が拳の先の空に映り、その紋章を中心に白い煙幕が広がった。ゴゴゴゴと音を鳴らし、煙幕の中から、寅が出てきた。


 「こんにちわ!まさかこんなにすぐ呼ばれるとは思ってなかったです」

 「うん、ごめんね、、、あの確認なんだけど、、寅だよね?」

 「はい!寅です」

 「だよね、、んーちょっと魔力が弱かったかな…」


 前回お父さんが呼んでくれた紳士イケメンの青年寅をイメージして呼んだのだけれど、どうやら私の魔力不足なのか、私よりも年下ぐらいの少年寅くんがやってきてしまった。


 「寅さん!はじめまして!コトリの友達の宮尾千代です」

 「こちらこそはじめまして!干支神の寅です。よろしくお願いいたします」


 見た目はなんだかなぁという感じだが、中身は寅のままだった。


 「寅、、ごめんね!私の魔力不足で少年の姿になっちゃった」

 「いいですよ。でも今から戦闘訓練をするとなるとこの姿だとちょっと、、厳しいです」

 「大丈夫大丈夫!今日は千代の紹介と千代の召喚する神様との顔合わせで呼んだだけだから!」

 「なるほど。先々共闘することもあるかもですし、いい考えですね!で、千代さんの神様は誰なんですか?」

 「私の家は土竜を祀ってるから、土竜の神様だよ!」


 千代が土竜を祀ってると言うと、寅の顔が少しひきつった表情に変わった。


 「あぁーーー、、、土竜様ですか…」

 「知り合い?」

 「知り合いと言えば知り合いですね…」


 寅の含みのある発言が気になり、私は寅にもう少し聞いてみる。


 「ちょっと気になる言い方だな。土竜の神様ってどんな神様なの?」

 「んー、、明るい、、にぎやか、、捉えどころがない、、絡みにくい、、みたいな感じです」

 「、、それ褒めては無いよね?」

 「そうですね。。なんというか、、ちょっと苦手なタイプです」


 社交的な寅が苦手とするタイプとはどんな神様なのだろう。逆に興味がわいた。

 そんなことを考えていると、千代が寅の事を気にかけ話し出す。


 「寅さん大丈夫?今日は呼ぶのやめようか?」

 「あーいえいえ!会うのも久しぶりなので、全然問題無いです!」


 問題ありすぎそうな表情で寅が答える。


 「そう?私もできれば呼びたく無いんだけど、、コトリは本当に呼んでいいの?」

 「もちろん!その為に村の外まで来たんだから!!」


 ここまで二人が嫌がる神様って、逆に気になる。私は興味を惹かれていた。


 「わかった。じゃあ本当に呼ぶからね、、、あぁ…憂鬱…」

 「そんなに変な神様なの?」

 「違う違う、、、いや、違わないけど、私が嫌なのは召喚をすること自体が嫌なんだよ」


 召喚自体?、、何が嫌なんだろうと思い、私は小さく首を傾ける。


 「うーん。よし!観念した!じゃあ召喚するね!」


 そう言うと千代は、地面を掘る。


 「え?千代?どうしたの?」

 「しーーー!今集中してるから!!」


 千代は黙々と土を掘る。掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る。

 掘ること10分。かなりの深さを掘った千代が今度はその穴に入る。大体千代の膝が隠れるぐらいの穴だった。これを素手で掘るのだから、、確かに嫌だな。


 「よし準備できた!あぁー憂鬱、、」

 「え?まだ嫌なことあるの?」


 私は思わず心の声が口から出てしまった。素手でこんなに深く地面を掘るだけでも嫌なのに、このあともっと嫌なことってある?私の心の中の気の毒ゲージは既に満タンだが、千代は集中してるのか私の言葉を無視して召喚を続ける。


 「地を荒らす神『土竜どりゅう』、、、、」


 召喚の口上を述べた千代は、そのまま掘った土を掴む。ここからどうするのかな?と私が思っていると、そのまま千代はその土を思いっきり頭からかぶり『降臨!!』と叫ぶ。。。確かにこの召喚方法は嫌だな。最初に召喚した人は何をどうしたらこんなヘンテコな召喚の儀式になったのか、、、私は千代に同情する。


 「はぁ、、終わった」

 「終わったの?」

 「こんなに召喚の儀式が長いと隠れて召喚しないと召喚する前にやられちゃうよね」

 「そうだね。で、モグラ様はどこにいるの?」

 「成功はしたからそろそろ出てくると思うよ」


 千代の言葉通り、地面が唸りを上げる。大規模な地震でもきたのかと思うほどの揺れ。立っているのもやっとだった。すると一部の地面がせり上がり、森の中に石の柱ができた。


 「フフフフ、、」


 どこかから声が聞こえる。


 「現世現世、、現世じゃぞーん★」


 何をどこから言ってるのかわからないが、とても嬉しそうな声色だ。せり上がりできた石の柱がメリメリと音を鳴らす。石の柱の岩肌に亀裂が入り、大きな音をたてて砕ける。柱の中から神様が降臨するのかと、私は息を飲んで見つめる。、、、がそこには誰もいなかった。

 あれ?誰もいない。私は頭に雨粒が落ちてきて驚いたカエルのような表情になり力が抜ける。すると、私の後ろで誰かが声を上げた。


 「サーープラーーーイズ☆」

 「え?へ?何?誰?」

 「喜べ人類!私が来たからには、この戦況を覆してやろうぞ!我が世界の守り手!土竜様もぐらさまなり☆」


 私の想像する土竜様とは、近からず遠からずな神様が出てきた。私たちと歳は変わらない見た目で、髪は茶色のハーフアップ。モグラの手をイメージしたような独特な大きな髪飾りを付けている。胸のあたりに、サングラスがかかっている。やはりモグラは太陽の光が苦手なのかな。健康的な女の子といった見た目の神様だが、、なんだろう、、一人称が私やら、我やらブレブレだな。


 「土竜様もぐらさまですか?」

 「いかにも!だぞよ☆」


 やはりキャラが定まっていないようだ。


 「ん?、、人類の匂いと、、神の匂いがするな、、」


 土竜様が当たりをキョロキョロと首を振り見渡す。


 「…久しぶりです。モグラさん。。」


 見つめた先に寅を見つける。土竜様は、欲しいものを手に入れて高揚する子供のような顔で寅に駆け寄る。


 「おおおおおおーーーー!トラキチではないか!!しばらく見ない間に小さくなってーー!!倦怠期けんたいきか?」

 「倦怠期の使い方間違ってますよ」

 「そうなのか?人の言葉は難しいなぁ!」

 「、、、そうですね」

 「なんだトラキチ!久しぶりの再会だぞ!もっと喜べ!!」

 「、、、はい」


 寅が明らかに嫌がっている。社交的な寅がここまで嫌がるとは、土竜様恐るべし。


 「ところで、、敵はどこにいるのだ?」

 「モグ、、ちょっと黙って、、」


 土竜様がある程度落ち着いたタイミングで千代が話し始める。、、千代は『モグ』って呼んでるのか。


 「千代!おったのか!」

 「いないわけ無いでしょ」

 「まぁ、、そうなのだか、、お主は影が薄いのう!せっかくいい体してるんだからもっと派手な格好をしたらいいのにのう」

 「、、おじさんみたいなこと言わないでよ」

 「神様なんて無駄に生きてるだけじゃ!全員おじさんみたいなものよのう!なぁートラキチ?」

 「、、、巻き込まないでください」


 千代と寅の嫌がる気持ちがなんとなく分かる気がする。見た目は美少女という感じなのに、中身が老師キャラか。。しかもこのキャラは作ってる気がする。とはいえ私は初めて会うので、改めて『はじめまして』と挨拶をした。


 「トラキチの召喚士様か!今度の召喚士様は随分と若いのぅ!」

 「はい。でもコトリさんの魔力量はとても凄いです」

 「そのようだのう。ここまで小さなトラキチは初めてみた」


 ん?今のは皮肉かな?


 「今日が初召喚だったので、どのぐらいの力で召喚したらいいかわからなくて、、7割ぐらいの魔力で呼んじゃって、、ごめんね」

 「いえいえ!7割でこの姿は凄いですよ」

 「そうかなぁ」


 お世辞だと思うけど、寅に褒められて嬉しい。


 「ちょっといいかな?全力だと本来の姿で召喚できると?」


 老師キャラをやめたのか、普通の口調で土竜様が聞いてくる。その質問に対して寅が少し自慢げに答える。


 「今朝初めて契約した時は、魔力の注入量が多すぎて、白虎の姿になりましたよ!」

 「なななんと!!それは凄いのう!!ワシもたまには白虎みたいのーー!」


 あっまた老師だ。それに一人称が今度はワシになった。やはりこの神様はキャラがブレブレだ。


 「見たいのう見たいのう!!」

 「モグ!!無理言わないで!コトリと寅さんが困るでしょう!!」

 「千代はあの干支神えとがみで四神の白虎を見たくないのか?」

 「う、、それはまぁ、、見たいけど、、でも無理は言っちゃダメ!」

 「別にいいよ」


 私は、断れない性格なのか、期待をされるとついつい応えてあげたくなる。私の言葉を聞いて、思わず寅が割って入る。


 「コトリさん!1日2回は流石に、、、」

 「いいよいいよ!せっかくの顔合わせだし、お互いの全力がわかってた方がいいでしょ?」

 「トラキチ!本人がやれるって言ってるんだし、ええじゃろう?」


 土竜様はノリノリだ。土竜様というより、私は千代が見たいと言ってくれたのが嬉しくて、大好きな親友の為に一肌脱ぎたくなった。


 「まぁ、、コトリさんが良ければ、、」

 「うん私は大丈夫だよ!」

 「本当にいいのコトリ?モグの事は無視していいよ!」

 「無視とはなんじゃ千代!せっかく本人がやる気になっとるんじゃ!水を差すのは野暮じゃー!」

 「大丈夫だよ!千代に寅の本気を見せてあげる」


 そう言って、私は全力の魔力を再び寅に注ぐことになる。 

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