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EP② 契約と呼び方

 古小烏ふるこがらすの家系は干支神えとがみを司る。


 『(ねずみ)』『(うし)』『(とら)』『(うさぎ)』『(たつ)』『(へび)』『(うま)』『(ひつじ)』『(さる)』『(とり)』『(いぬ)』『(いのしし)』の十二の神様が存在する。


 召喚する神様は召喚する召喚士のレベルで使役する神の質や見た目が変わる。

 例えば、召喚士としてのレベルが高ければ、召喚した神も強力な魔力を持ち、容姿も如何にも威厳のある最高神という見た目になるらしい。が、逆に召喚士のレベルが低いと、少年や青年ぐらいの見た目になる。

 ただ、これは、コントロールすることも可能で、あえて弱い状態で召喚することもできる。


 話は戻るが、今日は私の召喚士としての第一歩。『寅』の神様との契約の日だ。


 「あの、、寅さん!これからよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしくお願いします」

 「呼び方はとらさんでいいんですか?」

 「ええ。とりあえずそれで大丈夫です」

 「あらためてよろしくお願いします」


 そう言うと、私と寅さんは右手でがっちりと握手をした。

 

 「一応、あとでわかることなので先に言っておくと、今日は契約の為にさとりさんがあえて弱めに召喚してくれてます。今は青年の見た目ですが、より強い魔力で呼び出されると、虎の本質が強く出て、言動が荒くなってしまうかもしれません。多少失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、その時はごめんなさい」


 見た目のワイルド感から想像もつかない素敵な紳士。寅さんの第一印象は、控えめにいって好印象だった。


 「いえいえ!こちらこそ慣れると口が悪くなるかもしれないので、お互い様です!」

 「そう言ってもらえると安心です!」


 私と寅さんがにこやかに話しをしていると、話に混ぜて欲しい父が、仲間になりたそうにこちらを見ていた。


 「父…寂しい」

 「お父さんがふざけてばかりだから、話に入れないんだよ!」


 私のツッコミで父が少しだけおとなしくなった。と、思ったら急に寅さんの方を向き、強めの口調で話し始める。


 「やい!寅!うちの娘のはじめての契約ひとなんだから、手取り足取りちゃんと教えてあげろよ!」

 「……………さとりさん、、それセクハラですよ」


 本当に恥ずかしい。顔から火が出るとはこんな時に使う為の言葉なのだろう。本当にこの父は使役する神様に何を言わせてるのか。


 「お父さん本当に恥ずかしいから!」

 「わかったわかった!冗談はこれぐらいにして、そろそろ契約を始めるか!」


 そういうと父が寅さんの前に立ち、寅さんの赤い迷彩柄のジャケットを脱がせ始める。


 「だからお父さん!」

 「いやいや!これは本当に契約に必要なんだって!」


 私が激昂していると、上半身を露わにされた筋肉バキバキの寅さんが私の方を向く。正直どこに目を当てればいいのかわからず、私は髪の毛で顔を隠す。


 「コトリさん!これは本当に必要なやつなので気なしないでください」

 「そうそう。お父さんだって真面目にする時はするんだからね!」


 たまにツンデレになる父。とてもうざい。こんな時、母がいれば『さー君!わかるように説明して』とボケ殺しの発言をするので、いつも助かっている。


 「よし!こんなもんだろう!」


 父が満足そうに寅さんの身体に何やら紋章のようなものを刻んでいた。


 「コトリ!寅の身体に手をあてろ!一般的には拳を握って紋章の真ん中に当てるけど、別に拳を握る必要はないから、手のひらで寅の身体を触ってもいいぞ!」

 「…………お父さんと口きくのやめようかな」

 「ごめんなさい!ごめんなさい!冗談が過ぎました!」


 お父さんの平謝りをよそに、私は寅さんの身体に拳を握りその拳を紋章の刻まれた胸あたりにあてる。


 「……これでいいのかな?」

 「大丈夫です!では、契約しますね。コトリさんの魔力を拳に集中させて貰っていいですか?」


 魔力とは、血液のように体中を流れてるもので、私たちはこの魔力量で召喚士としての資質が決まる。とはいえ、魔力量は生まれた時に決まっているわけでは無く、成長すると増えるし、老化すると衰える。人の生命力と因果関係にある。私は、同年代の中では魔力量がかなり多い方だ。


 「では、、行きます!」


 私は拳に今持ってる魔力を思いっきり注ぎ込む。


 「凄い魔力量ですね!これならわざわざ青年の姿にしなくても良かったかもしれないな」

 「おい!寅!娘を褒められて嬉しい気持ちもあるけど、なんだかディスられてる気がするぞ!」


 そっか。私との契約の為に、お父さんがわざと寅さんを青年の姿にしてくれてたんだっけ。あまり強い状態で寅さんを呼んでしまうと契約ができないこともあるのだろう。そういった父の気遣いは素直に嬉しい。


 「よし!これだけ魔力共有ができれば十分です。では契約を始めます。準備はいいですか?」

 「はい!」


 今日、契約をするという事は決まっていたが、私は何をするのかまでは正直なところわかっていなかった。これには理由がある。

 私たちが済むこの世界は、『モンステラ』という世界なのだが、この世界では、今3人の魔王が戦争をしている。私の住む、召喚士の村『サマニエ』は魔王ミカヅキの領土になる。魔王ミカヅキは気まぐれな魔王で、『自分の身は自分で守ればいい』が心情らしく、自分の領土が攻められようが、一切関与しないという方針なのだ。たまに気まぐれで助けられたという話も聞いたことはあるが、、全ては気まぐれだ。

 そう聞くと、薄情な領主と聞こえは悪いが、他の魔王の領土と違い、自由はある。自分達で防衛することができれば、特に魔王ミカヅキに奉納したりするわけではないので、自由な暮らしができるのだ。

 話がそれたが、まさにその自己防衛という意味で、この村では、召喚の契約の内容を外部に漏らすことを固く禁じている。本当はお母さんも一緒に私の晴れ姿を見て欲しかったけど、お母さんは外部のものという位置づけなので、この契約の儀式に参加ができなかった。

 

 私の返事を聞いた寅さんが、両手広げる。寅さんの胸に拳を付けたままの私は、このまま抱きしめられるのかと、少し肩が震えた。が、、そんな私の気持ちを無視するように、淡々と寅さんが儀式の言葉を語りだした。


 「我、第三干支神だいさんえとしん寅。汝に召喚されし時、いついかなる時もその召喚に応じる」


 まるで結婚式の誓いのような内容に、私は少し高揚する。


 「第三干支神にして、西の四獣の化身、白虎。このものとの契約を宣する」


 なんだろう、、ドキドキする。なんて思っていると、本当に鼓動が早くなり、私と寅さんの魔力が溶け合うのを感じた。金色に輝く光が私たちを取り巻く。その光は徐々に寅さんの身体をつつみ、寅さんの身体が見えなくなった。


 「お父さん…これあってる?」

 「今は契約中だから話さない!儀式としてはビックリするほ順調だ!」

 「よかったぁー!」

 「しー!!!!」


 お父さんの言葉で、私の心は落ち着きを取り戻す。その瞬間、寅さんを取り巻く光が、一気に放出され、寅さんの姿があらわになった。


 「お父さん…」

 「よし!契約成立だ!!おめでとう!!」

 「お父さん……」

 「流石俺の娘だ!!まさかこんなに魔力量が高いとわ!!」

 「ねぇ…お父さんってば!!」


 私は、光の中から現れた寅さんの姿に動揺を隠せずにいた。さっきまで好印象を抱いていた紳士青年寅さんが、、、寅さんが、、、虎さんになっていた。


 「大成功ですね!まさかいきなりこの姿になるなんて!コトリさん流石です!」


 見た目こそ、威厳と貫禄があり、勇ましい姿で白黒の毛をなびかせた、白虎の姿をしているが、中身はそのまま紳士の寅さんだった。

 

 「寅さん、、この姿はなんですか?」

 「私の本来の姿です。干支神は動物の化身なので、本来は動物の姿なんです。でも、普通に街中に虎が出ると騒ぎになるし、何より不便なので、基本的には人の姿をしてます。人の姿でもそれなりに戦えますが、この姿の方が、何倍も強いです!」

 「そういうものなんですか?」

 「そういうものなんです」


 人は慣れる生き物である。いきなり白虎が出て来てビックリしたものの、少し言葉を交わしただけで、すぐに安心した。そして、驚いた私を見るニヤケ面のお父さんの視線を感じた。


 「これでコトリも召喚士の仲間入りだな!」

 「お父さんはこうなるのわかってたの?」

 「まぁ、、ちょっとは、、」

 「もう!!!!!!」

 「いやでも、お前の魔力がここまでのものとは思って無かったから!」

 「褒めてもダメ!!本当にビックリしたんだから!!」

 「悪かったって!!寅もいつまでその姿のままなんだよ!」


 親子の会話を聞きながら、虎の寅さんが笑っている。


 「仲良しですね!」

 「寅さんも!!わかってたでしょ!!」

 「ごめんなさい」


 そう言うと、寅さんは元の姿に戻った。


 「これで契約は完了です」

 「………ありがとうございます」

 「さっき拳に込めた魔力共有の感覚覚えてますか?」

 「うん。覚えてる」


 私は、さっきの一件で寅さんとの距離が少し近づいた気がして、だんだんと敬語が崩れてきた。


 「その魔力共有の感覚が、私とコトリさんを繫ぐチャンネルのようなものなので、私を召喚したいときは拳にその感覚で魔力を込めてください」

 「わかりました。呼ぶときはなんか叫んだりした方がいいのかな?『寅さーーーーーん!!』みたいな、、」


 私の発言を聞いた寅さんは口を手で塞いで笑いをこらえているような素振りをする。


 「私、なんか変なこと言ったかな?」

 「いいえ、、ただ『寅!!』とか『第三干支神!!』とか呼び方は色々ですけど、『寅さーーーーーん!!』はちょっと面白くて、、」


 寅さんが何にツボったのかわからないが、なんとなく馬鹿にされた気がした。


 「寅さん、、、」


 私の訝しんだ視線に寅さんがはっとしてこたえる。


 「ごめんなさい。でもこれで契約成立した訳ですし、私とコトリさんは使役されるものと使役するものになった訳です。なので、今後は『とら』と呼んでください」

 「え、、、でも、、」

 「いいんです!むしろそっちの方が自然なので、お願いします」

 「わたったよ、、よろしくね、、寅、、」

 「はい!よろしくお願いします!コトリさん!!」


 私たちの契約は成立した。和やかに、、、でも一人だけ和やかでない人もいた。


 「何が寅って呼んでくださいだ!!お前に娘をやる気はないぞーーーー!!!」

 「はいはい」


 丘の上に楽し気な3人の声が響く。こんな穏やかの日がずっと続いていくかのように。

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