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2.通行人S②


28歳の私が突然現れた日でも日常は大して変わらない。

いつも道り教会の清掃を行い、ムーアさんとアンさんの愚痴に聞き耳を立てる。

そして、教会の清掃の仕事を終える頃に私の好きな人がいつも道りの笑顔で迎えに来る。

私は嬉しさでいっぱいになりながらも、好きな人にもムーアさんとアンさんにもバレないように澄ました顔で好きな人の横に並ぶ。


「ソフィア、なんか嫌なことでもあった?」


1日の中で1番大好きな時間。オリバーが私を家まで送ってくれるそんな時間。

台無しにしたくない、だから普段通りを意識しながら話していたはずなのに。


「どうして?」


思わず質問返しをしてしまった。

今日の朝、28歳の私に質問返しをされて嫌な気持ちになったばかりなのに。


「いつもと違う気がしたから。」


「…すごいね。さすがお幼馴染。隠し事はできないね。」


私は少し誤魔化す様に笑いながら言った。


「だろ?隠しても無駄だぞ。」


オリバーは揶揄うように言った。

残念だけど、10年という年期の入った隠し事には気づいてないみたいだけど。


「ソフィア時間ある?」


唐突にそんなことを聞かれ、少し戸惑いながらも軽く頷きながら返答した。


「え?うん…。」


「よし!行こう!」


「え!行こうって…。どこに?」


「内緒ー!!」


オリバーは嬉しそうに笑った後、私の手を握り走り始めた。

私はオリバーに手を引かれながら、走るオリバーの後ろ姿を見つめた。

優しく握られた手が熱くなる。その熱が徐々に体中を巡り、夕日のせいだと誤魔化せるか怪しいほど顔が火照っているのが自分でも分かった。

走りながらも私に歩幅を合わせてくれること、本当はもっともっと早く走ることができるあなたが私に合わせて走ってくれること。

その優しさ全てがどうしようもないくらい大好きだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


オリバーがようやく立ち止まった時、私は既に体力の限界で、息切れが止まらなかった。

思わず膝に手をついて、下を向く。

いくら走るスピードを合わせてくれたといえども、いかんせん距離が長すぎた。


「ソフィア無理させてごめん!」


オリバーが心配そうな声で私に謝った。


「だいじょう…」


”大丈夫”と顔を上げながら言おうとした。

でも最後まで言葉を紡ぐことができなかった。

目の前に広がるあまりにも綺麗なその景色が私から言葉を奪う代わりに、涙をさそった。

水平線に溺れる夕日は水面全体を赤く染め、まるで海に魅了されたかのように少しずつ海に飲み込まれていく。

そんな夕日と海の恋路を邪魔するような障害物は一切なく、瞳に映る景色は赤一色に染まっていた。

オリバーが連れてきてくれた場所は高台にある小さな広場のようなところ。

生まれ育った故郷にこんなにも素敵な光景が見れる時間と場所があるなんて知らなかった。


「この前偶然見つけた穴場。誰にも言うなよ?ソフィアには絶対見せたかったんだ。」


オリバーは涙ぐむ私を一切気にせずに話し始めた。


「オリバー…、ありがとう。」


思わず声が震えた。

嬉しさと感動で伝えたいことが上手く言葉にできない。


「俺、ソフィアが落ち込んでいるときどうやって慰めればいいか正直分からない。でも、ソフィアがどうすれば喜んでくれるかは分かるんだ。ずっとソフィアの側にいたから。」


オリバーはそう言って私の前へと立つ。


「オリバー…?」


オリバーのあまりにも真剣な表情に思わず期待しそうになる。

そんな期待は裏切ることなく、オリバーは私が望む言葉を口にする。


「ソフィアのことが好きだ。俺の恋人になってほしい。」


いつの間にか夕日は完全に海のものとなっていた。

赤く染まっていた景色は薄暗い景色へと一変し、少し肌寒い風が頬を撫でる。


手が痺れるように震え、心臓がまるで強く絞られた雑巾のようにギュッとなる。

嬉しいよりも、感動よりも、それよりももっと素晴らしくて心に羽がついたような高揚感、この感情には名前があるのだろうか?

ないのなら私がぜひ名前をつけよう、LOVEオリバーと。


「ソフィア?なんか言ってくれないと不安になるんだけど?」


オリバーはニヤニヤした顔で全く不安を感じられない余裕な声で言った。

愛しのオリバー、どうやら私の表情で告白の答えを察したのだろう。


「私も…!オリバーが大好き…!」


私は泣きそうになりながら、というか正直大号泣しながらオリバーに気持ちを伝えた。

オリバーはそんな私を優しく抱きしめ、私の頭を撫でる。


「これからは幼馴染としてじゃなくて、恋人として側にいさせて。」


「うん…!」


私はオリバーのあまりにも素敵なセリフを心に刻みながら、力強く返事をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それじゃあ、また明日。」


オリバーが私を家まで送ってくれた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。


「うん!遅いのに送ってくれてありがとうね。」


「遅いから余計に送っていくんだろ。じゃあな。」


「ありがとう…!明日ね!」


うーーーーーーん、かっこいい!!!!!!かっこよすぎるよ、オリバーーーーー!!!!

今バイバイしたばかりなのに、もうオリバーに会いたい!!!

明日がこんなにも待ち遠しい!!

オリバーのことが好きすぎてこわい!!!!!


「あら、おかえりなさい。ずいぶん遅かったけど…その様子だとオリバーと付き合ったのね。」


オリバーと別れ、家の中へ入った瞬間からルンルン気分でジタバタしていたところに、聞き覚えのある声に話しかけられた。

聞き覚えがあるのは当然か、だって私自身なのだから。


「まだ私の家にいたの?」


「そりゃあ、私の家でもあるから。」


さすが私だ。私をイラつかせることに長けている。


「もう10年後に帰れば?あなたが何を言おうと私はオリバーが好き。」


私ははっきりと言った。

せっかく実った恋。誰にも邪魔されたくない。


「それはできない。今すぐにでも別れなさい。このまま付き合っていると、あなた不幸になるわよ。」


「今が幸せならそれでいい。それに…オリバーを好きでない私のほうがきっと不幸よ…。」


「それはあなたが未来を知らないからよ。」


「じゃあ教えてよ。どうしてオリバーを好きでいると不幸になるのか。」


私がそう聞くと、28歳の私は黙り込んだ。

我ながらイライラする。好きなのをやめろ、別れろとか散々なことを言うくせに、理由はすべて抽象的で具体的なことはなにも話してくれない。


でも…本当にこの人が10年後の私ならば一体未来になにが起こるというのだろうか?

今目の前にいる28歳の私も恐らくかつては私のようにオリバーに恋をしていたはずだ。

それなのにどうして…?

オリバーを好きになったことを後悔し、18歳の私の気持ちを否定したくなるくらいの出来事とは一体なんなのだろうか?


いや…、考えても無駄だ。

起きるかもわからない未来を憂うよりも今の幸せが続くよう努力しよう。


結局その後も28歳の私は黙り込んだままだった。

そっちの方が都合がいいと思った私は特に話しかけることもなく、その日は就寝した。


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