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流転の國 エルフの里②

私の病を治す方法は見つからない。

今ここにある難解な医学書は、私を光へと導いてくれるだろうか…。

「マヤリィ様、いかがなさいましたか?…難しいお顔をなさって、何か苦しい出来事を思い出していらっしゃるのでしょうか…?」

まだ眠っていると思っていたルーリがベッドの上に正座するような形で、マヤリィを心配そうに見ている。

ルーリは流転の國一番の実力を持つ雷系統魔術の使い手にして、見る者全てを魅了する美しき夢魔。そして、マヤリィの恋人でもある。

昨夜も彼女はマヤリィの部屋に泊まった。

「あら、ルーリ。起きていたのね。…なんでもないわ。医学書を読んでいたのだけれど、難しくて頭が痛くなっただけよ」

「…そうでございましたか。あまり無理はなさらないで下さいませ」

ルーリはそう言うと、床に降りて跪いた。

「畏れながら、マヤリィ様。この先、貴女様のご病気を治す為、私をはじめ配下の者共は何を致せばよろしいのでしょう…?」

碧い瞳が哀しそうに揺れている。

マヤリィの持っている医学書はこの世界の文字で書かれていない為、書物の魔術師であるミノリでさえ容易に読むことの出来ない本である。

…ならば、自分達はご主人様の御為に何が出来るだろうか?

マヤリィはルーリの言葉を聞くと、表情を和らげ、落ち着いた声で問いに答えた。

「貴女まで難しい顔をしないでいいのよ、ルーリ。その件に関しては、皆にはもう十分に力を尽くしてもらったと思っているの。西の森をはじめ、桜色の都に至るまで、本当によく働いてくれた。だから、ここから先は私自身がこの医学書を読み解いて、どうにか現状を変える方法を見つけなければならないわ。その上で、皆に助けを求めることがあるかもしれないけれど、今の段階では何とも言えないわね」

「マヤリィ様…!そのような…!」

それを聞いたルーリは縋るような目でマヤリィを見る。

「…それでは、私は貴女様に何もして差し上げられず、このまま時を浪費するしかないのでしょうか…?私の存在意義は、貴女様を病からお救い申し上げることにございます。私に与えられし魔力は貴女様のお役に立つ為のものであると心得ております。…されど、私はまだ、何ひとつ役割を果たしておりません」

「そんなことないわ、ルーリ。自分を卑下しないで頂戴。貴女はこれまで、いつも私の傍に控え、私の命令に従い、この國を守ってきてくれた。私が國を離れた際には、最高権力者代理としてその役目を果たしてくれた。そうでしょう?…これからも、貴女には私の第一の側近として、役に立ってもらうわよ?」

マヤリィは優しく微笑む。

「有り難きお言葉にございます、マヤリィ様。そのように仰って頂けるとは…身に余る光栄にございます。お優しい貴女様にお仕えすることが出来て、私は幸せです」

ルーリは第一の側近と言われたことが嬉しくて、ようやく少し笑顔を見せた。

マヤリィはそれを見て頷くと、話題を変えて、

「…今日はリスの様子を見に行こうと思っているの。ずっと体調不良が続いているというし、心配だわ」

腕を組み、再び難しい表情になる。

「そういえば、最近全く姿を見ていません。…マヤリィ様は常に配下の心配をされていらっしゃいますね」

「ええ。流転の國の主として当然のことでしょう?この國の方針は、皆が健康であること。…私が言っても説得力はないけれど、せめて貴女達にはいつも元気でいて欲しいの」

「はっ。マヤリィ様のお優しいお言葉、然と拝聴致しました。貴女様のお役に立つ為にも、体調管理を徹底して参ります」

そして、ルーリは跪いた姿勢のまま、

「では、本日、私は何を致しましょうか?」

マヤリィの命令を待つ。

「そうね…。貴女、地図の解析は出来るかしら」

「地図の解析…でございますか?」

書物の解析が彼女にとって専門外の仕事であることは分かっているが、敢えてミノリではなくルーリに頼みたいと思った。

何より、マヤリィには気になっていることがある。

「貴女が引き受けてくれれば、多少は地図に詳しいジェイも呼ぶわ。まずは地図上から、探って欲しいことがあるの」

ジェイはマヤリィが元の世界にいた頃からの知り合いであり、この流転の國においては風系統魔術を専門とする魔術師である。そして、彼もまたマヤリィの恋人であり側近。

「マヤリィ様直々のご命令とあらば、このルーリ、喜んで引き受けさせて頂きます。地理に関しては専門外ではございますが、ジェイと共に必ずや成果を上げて参ります」

ルーリの言葉を聞いたマヤリィは具体的に指示を出す。

「調べて欲しいのはエルフの里とその周辺よ。リスが体調不良を訴えたのは、里帰りした後のことだから、少し気になっていてね。…場合によっては、エルフの里がどのような所なのか視察に行きたいと思っているわ」

そもそも、流転の國の領土は広すぎて、いまだに把握していない部分が多々ある。

「畏まりました、マヤリィ様。お任せ下さいませ」

「頼むわよ、ルーリ」

「はっ」


そして、ジェイに念話を送り、ルーリを書庫に『転移』させた後、マヤリィは歩いてリスの部屋へと向かった。

ジェイとルーリは互いを恋敵として見つつ、共にマヤリィを支える相棒と認め合う関係です。

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