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流転の國 vol.4 〜エルフの里〜  作者: 川口冬至夜


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流転の國 エルフの里⑯

「ジェイ、今戻ったわ。…具合はどう?」

報告会を終えて、皆に自由時間を与えたマヤリィは、約束通りジェイの部屋に戻った。

「お帰りなさい、姫…。報告会は、どうでしたか?」

「一昨日、任務が終わった後にルーリと話していた通り、『作り変えた事実』を報告したわ。ルーリが作ってくれた報告書も完璧だったし、これで『本当の事実』は隠蔽された。…全ては流転の國の為よ」

マヤリィは疲れた顔でそう言うと、テーブルに報告書の束を置いた。

「あの日の真実に関しては、誰にも口外しないよう緘口令を敷いた。だから、貴方もリスに『流転の指環』を貸したことは黙っていて頂戴。…報告会の最中にリスが小声で口を挟んだ以外、不審な点はなかったから大丈夫だと思うけれど、今となっては彼女の我儘を聞くべきではなかったわね」

マヤリィは『特別任務』を実行する前、リスにその詳細を話しておいた。それを聞いたリスは自らアラタを断罪することを望み、マヤリィに何度も訴えたのだ。

「…姫、あの時のリスの状態では、姫が却下したとしても最終的には第4会議室に乗り込んでいったと思います。そうなれば、許可なく作戦に参加した罪を問わなければならなくなります。さらに一連の作戦を遂行する発端となった当事者が任務を妨害したとなれば、ルーリが黙っていないでしょう。彼女は最高権力者マヤリィ様の側近にして、今や流転の國のNo.2。たとえ仲間だとしても、マヤリィ様の邪魔をする者には容赦なく罰を与えることの出来る人です。彼女がリスの犯した罪を公にすれば、たとえマヤリィ様であっても庇うことは難しいのではないでしょうか?」

ジェイは言う。

「ですから、姫、僕が何を言いたいかというと…貴女がリスに復讐する許可を与えたことは間違いではなかったと思うんです。最終的には貴女とルーリのお陰で、特別任務は滞りなく完了したと皆に報告することが出来たのですから」

気付けばジェイは起き上がり、今マヤリィがテーブルに置いた報告書を読んでいる。

「ネクロの報告書は文字がびっしり…。彼女らしいですね。…これは、エルフの民の名簿…?身体の具合まで書いてあるってことは、シロマが纏めたんですか?…忙しい中でこんなに詳細な名簿を作るとは、彼女も只者ではありませんね。そして特別任務の報告書は…やはりルーリが雷系統魔術を発動したことになりましたか。貴女が禁術を使ったことは本当ですから、真実も多く含まれていますね。…それにしても、書類仕事は苦手とか言っておいてこんな完璧な報告書が書けるなんて、さすがはルーリと言うべきか…」

いつもより饒舌なジェイは報告書をめくりながら感想を述べている。

「…姫。報告会に出席しなかった僕が言うのもなんですが、一番良い結果になったと思いますよ。本当に…お疲れ様でした。流転の國の主様と優秀な配下によって、エルフの民は救われたんですね」

ジェイはそう言ってマヤリィの顔を見ると、彼女はとても悲しそうな顔をしていた。

「姫?大丈夫ですか…?」

「…ジェイ。私、もう何もやりたくないのだけれど、これからどうすればいいかしら…。ここからが本番だと言うのに、疲れちゃったわ……」

マヤリィはその場に座り込むと、それ以上何も言わずに俯いた。

思えば、今回の作戦はどれも精神的に良くないものばかりだった。極め付けがエルフの青年を断罪した特別任務。本音を言えば、ジェイはマヤリィにかかわって欲しくなかったが、リスの我儘を聞いてしまった以上、直前で離脱するわけにもいかなくなり、結果として最後まで第4会議室に留まることになってしまった。

マヤリィにとって『大炎上』と『抹消』という二つの魔術を発動すること自体は難しくなかったと思うが、言ってみればそれは死体処理の魔術だ。魔力消費はともかくとして、かなりの精神的な苦痛を伴っていたことは確かだとジェイは思った。マヤリィは凄まじい魔力の持ち主だが、反面、普通の人間なのだ(しかも精神病を患っている)。

「…姫、お部屋まで送って行きますよ。今度は貴女がゆっくり休んだ方がいい。嫌でなければ僕が傍にいますから、とりあえず横になりましょう」

「…ええ、そうね……」

マヤリィは力なく頷くと、ジェイの手を取り、自分の部屋に『転移』した。

そして、ベッドに横たわると、ジェイの服の裾を引っ張る。

「姫…?」

「行かないで。…私の傍にいて頂戴」

「分かりました。どこにも行きませんよ」

そう言って笑顔を見せるジェイに、

「ねぇ、隣に来て。なんだか寒いわ…」

弱々しくも可愛らしい顔で添い寝をねだる。

「…では、今日はこのまま一緒に寝ましょうか」

「ええ。私から離れないで。不安になるから、ずっと傍にいて……」

マヤリィはそう言うと、目を閉じた。

眠りの世界へ逃げ込みたくなったのだろう。

「…大丈夫ですよ、姫。僕は決して貴女から離れたりしませんから」

ジェイの言葉が遠くなっていくのを感じながら、マヤリィは眠りについた。

第十二話の最後にささやいた独り言。

「ずっと傍にいてくれれば、それだけでいい」

そんなマヤリィの願いはジェイに届いていました。

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