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第42話 本当の気持ち

「助けてくれてありがとうございます。と、言うべきなんでしょうけど……これからどうすれば……。あたしは元の身体に戻れるんですか? それとも一生、このままの姿で神として……?」


「美澪はどうしたい?」


「え? あたし、ですか?」


 まさか決断を自分にゆだねられると思っていなかった美澪は、目を見開いたまま固まってしまう。


 どう答えたらいいのか分からず、ヴァルから視線を外して、寝間着の胸元を握りしめた。


 俯いて考え込む美澪の横顔をじっと眺めていたヴァルは、両腕を頭の後ろで組むと、


「まぁ……いきなり選択を迫られても困るよね。美澪が自分の意思で決めたことでもないし。人間に戻るか、神として生きていくか、なんてさ。ま、ボクだったら人間になるなんてごめんだけどねー」


 そう言ってカラカラと笑った。


 通常運転なヴァルの姿を見て苦笑した美澪は、再び俯いて膝上のシーツを握りしめる。


「……イリオス殿下はあたしを……トゥルーナを、その、本当に……」


「孕ませるつもりでヤりまくるんじゃない?」


 こともなげに言ったヴァルの言葉に、美澪は自分の顔がかあっと熱くなるのを感じた。


「どうして突然、そんなこと……」


 美澪が眉根を寄せて奥歯を咬みしめると、ヴァルは組んでいた腕を解いて足を組み、膝の上で両手の指を合わせた。


「焦ったんじゃないかな?」


「焦った? 何をです?」


 美澪は首を傾けながらヴァルを見た。するとヴァルは、美澪の心を射抜くような視線を向けてきた。


「――美澪の心がボクの方に向きはじめているから」


 美澪が息を飲んだ瞬間、ヴァルの身体を大量の水の泡が包み込み、そののち幻のように消えていった。そうして美澪の目の前に、本来の姿を取り戻したヴァルが現れた。


 パラディンの白い軍服が、ヴァルの紺青の髪色と瑠璃色の瞳に合っていて、思わず美澪の心臓がドクンと跳ねる。


 思わずぼうっと見惚(みと)れていると、美澪の熱い視線に気がついたヴァルが、ニッと口角を上げて(あで)やかに笑った。


「美澪と初めて会った時にも思ったんだけど、美澪はボクの容姿が好きみたいだね? これまで自分の見た目を気にしたことなんてなかったんだけど、美澪がボクの姿に見惚れる姿を見るのはとても気分がいいよ。……でも、美澪はトゥルーナに近い魂の持ち主だからかボクたちと容姿が似ているよね。もしかして美澪って、ナルシスト?」


 そう言って、からかいの色を滲ませた瑠璃色の瞳に、さっきとは違う意味で赤くなった顔の美澪が映る。


「なっ、何言ってるんですか! 確かに髪や瞳の色は似てますけどっ。ヴァルの顔は彫像みたいに精巧でかっこよくて、お肌なんて陶器みたいにツルツルだし、同じ髪色でもあたしとヴァルとじゃ輝きが違うし、それに……」


 指を折りながら、ヴァルがどれだけ秀でた容姿をしているのかをつらつらと上げ連ねる美澪の姿を見て、ヴァルは耐えられないとばかりに吹き出した。


「な、なんで笑うんですかっ」


「ふっ、あははっ! だって美澪、ボクのこと大好きなんだもん。それに、ボクの好きなところを一生懸命話す美澪のことが可愛くって可愛くって」


「べ、別に好きなわけじゃ、」


「だったらどうしてキスしたの?」


 急に真剣な顔つきになったヴァルの瑠璃色の瞳に見つめられ、美澪の鼓動がドキドキと速くなる。


 美澪はヴァルの真っ直ぐな視線に縫い止められ、視線をそらせないまま、緊張で震える唇を動かした。


「そ……れは、緊急事態だったからで、」


「緊急事態だったから、鋭い刀を握りしめて、あんな大怪我までしたの?」


「それは、その……」


「じゃあ、質問を変えるけど。相手が王太子だったら、同じことをした?」


 そう問われて、美澪はハッとした。


「……しない、です。あたし、ヴァルじゃなかったら、あんなこと出来なかった……」


 美澪は自分の口から出てきた真実に、呆然となった。


(でもあたしは、イリオス殿下に惹かれてたんじゃないの? だからあんなに苦しくて――)


 そこまで考えて、美澪はある違和感に気づき、信じられない思いでヴァルを見つめた。


「ヴァル……あたし、ドキドキしない。イリオス殿下のことを考えても、なんとも思わない……。あたしが惹かれてるのは……殿下じゃなくてヴァルだったの?」


 ――だったら今までの葛藤は?


「全て、ねぇさん……トゥルーナの強い想いに引っ張られていただけだったみたいだね」


 まるで美澪の心を見透かしたようなヴァルの言葉に、美澪は「そんなことって……」と囁くように呟いた。すると、椅子から立ち上がったヴァルがベッドの端に腰掛けて、震える美澪の右手を握った。


「……ボクのことが好きだって気付いて、そんなにショックなの?」


 ヴァルの静かな問いかけに、美澪はふるふると頭を振った。


「ちがう。違うの。あたし、この気持ちに気づいちゃったら、イリオス殿下の子どもなんて産めない。使命を果たすことなんて出来ない……っ!」


 両目からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出し、美澪は両手で顔をおおった。


「どうしよう……っ、どうしたらいいの? ヴァル、あたし、こんな中途半端な気持ちで……!」


 簡単に男に身体をゆだねた自分に激しい嫌悪感が襲う。それと同時に、使命を果たすことができないかもしれないという思いを抱いたことに、酷い罪悪感を覚えた。しかし――


「大丈夫だよ、美澪。エフィーリアは別にいる」

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