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第38話 美澪の自室にて

「――とりあえず。今後のことをどうするか、あたしの部屋に戻って考えましょう」


「うん、わかった。じゃあ、移動するよ」


 そう言ってヴァルが指を鳴らすと、美澪たちは王城の自室に戻ってきた。


 エクリオに嫁いできて、まだ数日しか使っていない部屋だが、自分の居場所に帰ってきたという感じがしてホッとする。


(『元の世界に戻りたい』って言っておきながら、こうも簡単に適応できちゃうんだもん。こういうのが『住めば都』ってことなのかしらね)


 フッと自嘲気味に笑った美澪は、さっさとソファへ横になってしまったヴァルの姿に苦笑をこぼすと、室内着に着替えるためにメアリーを呼ぼうと呼び鈴を手にした。ちょうどその時。コンコンと扉をノックする音が聞こえて、美澪は呼び鈴から手を離した。


「イリオスだ。……入ってもいいだろうか」


「イリオス殿下……? はい、どうぞお入りください」


「失礼する」


 と言って部屋に足を踏み入れたイリオスは、いささか緊張した面持ちで美澪に視線を向けた。そのなんとも気まずそうな雰囲気に、美澪はテラスでの諍いを思い出し、琥珀の瞳から視線をそらしてしまう。


(あ~、あたしのバカバカッ! 今ので余計に気まずくなったじゃないっ)


 脳内で自分の分身をぽかぽか叩いていると、美澪の視界の端に写っていたヴァルが、緩慢な動作でソファから起き上がった。


 ヴァルは、カウチソファの背もたれに腕を掛け、イリオスに向かって傲慢な笑みを向けた。


「オマエ、やるじゃないか」


 そう言って、フンと鼻を鳴らしたヴァルに、イリオスは眉間にシワを寄せた。


「また覗き見か。神は皆、貴様のように悪趣味なのか?」


「さぁ? どうだろうね。ボクは美澪以外に興味はないから。言っただろう? 神は一途だって。……だからオマエみたいにあっさりと、想脈を断ち切ったりできないのさ」


「えっ」


 ヴァルの発言に驚いた美澪は、気まずさを忘れてイリオスを見た。するとイリオスは、美澪の瑠璃色の瞳を見つめ返して左手を掲げてみせた。


「……グレイスと話はつけてきた。これでもう、そなたを害する者はいない」


 真面目な顔で言い切ったイリオスの言葉に、美澪ではなく、ヴァルが反応した。


「あははっ! オマエ、面白いことを言うね」


 腹を抱えて笑い転げるヴァルを見て、イリオスは不快そうに顔をしかめた。


「……何がそんなに可笑しい?」


 イリオスの剣呑な声に、ヴァルが臨戦態勢をとると、美澪は慌てて2人の間に割り込んだ。


「ちょっと、2人とも! 落ち着いてください!」


「落ち着いているよ」


「落ち着いている」


 お互いから視線を逸らさず、口先だけで態度が伴わないヴァルとイリオスに、美澪はムッとして、


「……2人とも。また、あたしと喧嘩したいんですか?」


 と訊ねた。すると2人は、ハッとした顔で美澪を見つめた。張り詰めていた空気が緩んだ隙に、美澪は口火を切る。


「あたしたち、いろいろと積もる話がありそうですね。……まずは座って話をしましょう」


 そう言って、美澪は再び呼び鈴を手に取り、チリリンと軽やかな音と鳴らす。そうして間もなく扉がノックされ、美澪が入室を許可すると、泣きそうな顔をしたメアリーが入ってきた。それを不思議に思った美澪が首を傾げる。


「どうしたの? メアリー」


 そう訊ねると、メアリーは榛色の瞳に涙を溜めて片手で口元を覆い、美澪に向かって駆け出した。何事かと口を開く前に、美澪はメアリーに抱きしめられていた。


「ミレイさま……ミレイさま……! ご無事で何よりでございます……!」


 美澪をきつく抱きしめたまま泣き出してしまったメアリー。わんわんと泣きじゃくるメアリーに狼狽えながら、美澪の視線は自然とイリオスに向けられる。無言で説明を求められたイリオスは、「そうだった」とたった今思い出したように、ばつの悪そうな顔を浮かべた。


「……実は、そなた達が消えてから、もう3日経っている」


「えっ! 嘘でしょ!?」


「本当だ」


 思わぬ展開に絶句してしまった美澪に、ヴァルは、


「美澪、ごめん! 伝え忘れてた。美澪は3日間眠ったままだったんだよ」


 と両手を合わせて頭を下げた。それを聞いた美澪は、油の切れた機械のようにギギギと首を動かすと、


「そういう大事なことは一番最初に話しなさい!!」


 とヴァルを怒鳴りつけたのだった。





 とりあえず、メアリーをなだめることに成功した美澪は、メアリーの分も含めて4人分のお茶と茶菓子を用意してもらった。準備が整ったあと、メアリーは美澪の向かいのソファに座った。


「……あのぅ……ミレイさま。わたくしなどが、皆様方と同席してしまってもよろしいのでしょうか……?」


 居心地悪そうに訊ねてきたメアリーに、ミレイは眉尻を下げると、申し訳ない気持ちで頭を下げる。


「こんなメンツの中に放り込まれて居心地が悪いと思うけど、メアリーは神殿の関係者だから、話に参加してもらった方がいいと思って。わがまま言ってごめんね」


 するとメアリーはブンブンと首を左右に振りながら、


「ミレイさまが臣下に頭を下げる必要はございません! ミレイさまのお考えは承知いたしましたので、お早く頭をお上げくださいませ!」


 と言って、あわあわと動揺するメアリーにお礼を言って、美澪はさっそく本題に入ることにした。


「あたしは夢の中――正確には、神域の中でヴァートゥルナと出会いました」


 皆が想定していなかっただろう事実を口にすると、イリオスとメアリーは固まってしまった。もともと全てを把握しているヴァルは、うんうんと頷きながらチョコレートクッキーを摘む。その緊張感のない仕草に内心呆れながら、美澪はこれまで2度あったヴァートルナ――トゥルーナとの攻防戦を話して聞かせた。

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