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第65話 パーティーの日は

「完璧ですわ! 最高に、格好いいですわ……!」


 デトルフが選んでくれたという衣服は、ベルンハルトによく似合っている。

 黒を基調としたジャケットやパンツはボタンが洒落た金色で、ゆったりとしたデザインながらも、引き締まったベルンハルトの身体が強調される。

 フリルやレースのついた派手なデザインではないが、一目で上質だと分かるものだ。


 そして何より、黒い毛皮のコート。ボリュームのあるファーは普通の人間が着れば衣装に負けてしまうだろうが、ベルンハルトは違う。

 まるで獣を従える狩人のような勇猛さと、気品あふれる騎士らしさを見事に両立している。


「旦那様! こんなの、世界で一番の貴公子ですわ……!」

「……褒めてくれるのは嬉しいが、言い過ぎだ」

「そんなことないわ。本当に一番格好いいもの!」


 幼少期から、貴族としていろんなパーティーに出席してきた。格好いいと噂される貴公子たちや旅芸人たちの姿も幾度となく目にしてきたが、これほど格好いい男性は見たことがない。


「……じゃあ、王都のパーティーに出席する格好はこれでいいと思うか?」

「パーティー?」

「ああ。ここにも招待状が届いただろう。ドロシーの旦那として出席する以上、それなりの格好をしなくてはと思ってな」

「ああ……! きていますわ、招待状!」


 エドウィンもくるかもしれない、なんて招待状をもらった直後は心配していたのに、最近はすっかり忘れてしまっていた。

 ベルンハルトの帰宅が嬉しすぎて、そんなことはどうでもよくなってしまっていたのだ。


「この格好で参加なさいますの?」

「そのつもりだが……どこかおかしいか?」


 改めて、じっとベルンハルトの姿を観察する。

 おかしいところなんて一つもない。ただ、あまりにも格好良すぎる。


 ただでさえ今度のパーティーは、ベルンハルト様が主役。

 その上こんな格好をしていったら、みんながベルンハルト様に夢中になっちゃうわよね?


「ドロシー?」

「少々、格好良すぎますわ」

「……は?」

「妻としてもちろん、旦那様の魅力は大勢の方々に発信していきたいと思ってるわ。でもさすがにこれは……みんなが魅了され過ぎると思うの」


 あまりにも余裕がない発言だとは分かっている。

 だが、パーティーに出席する貴族の令嬢たちは、華やかに着飾った子ばかりだ。

 ドロシーより美しい娘だっていくらでもいるだろう。その中に、ベルンハルトの好みの娘だっているかもしれない。


 ベルンハルト様を疑っているわけじゃないわ。

 でも、そういう子たちにちやほやされるところを想像するだけで、胸が苦しくなるの。


「……俺の見た目が好きだなんて物好きが、ドロシー以外にいると思うか?」

「いるに決まってるわ」


 ドロシーが断言すると、ベルンハルトは困ったような顔でドロシーを見つめた。


「……困らせてしまってごめんなさい。わたくしはただ、ちょっと嫉妬してしまって」

「ドロシーが嫌だというなら、この服はやめよう。俺はただ、ドロシーに恥をかいてほしくないだけなんだ」


 ドロシーに目線を合わせるようにしゃがみ、ベルンハルトが両手でドロシーの頬を包み込む。


「それにな、ドロシー。パーティーにはあの男もくるだろう」

「あの男って、エドウィンのことかしら?」


 ドロシーがエドウィンの名前を口にした瞬間、分かりやすくベルンハルトの顔が顰められた。


「……みっともない嫉妬だとは分かっている。だが俺は、あいつに負けたくないんだ」

「旦那様……」


 正直なところ、ベルンハルトがエドウィンに負けているところなんて、家柄ぐらいしか思いつかない。

 エドウィンのいいところは顔と家柄くらいだ。だが、ベルンハルトの男らしい精悍な顔立ちに比べれば、女々しくてなよなよとした外見はあまり魅力的に思えない。


 その上高慢で我儘で性格も悪く、いつも取り巻きを引き連れていて、男らしさの正反対に位置するような男だ。


 だけど、ベルンハルト様がエドウィンを意識しているのが、なんだか嬉しいわ。


 出会った当初は、いい相手がいれば離縁すると言っていたベルンハルトが、今は元婚約者のエドウィンに嫉妬している。

 その変貌ぶりに喜んでしまうのは、仕方がないことだろう。


「分かりましたわ。そういうことなら、わたくしも全力で協力するわ。でもその代わり、わたくしも全力でいきますわよ……!」


 着飾ったベルンハルトの隣に並ぶからには、それ相応の格好をしなくてはいけない。

 なにより、会場で一番綺麗だってベルンハルトには思ってもらいたい。


「旦那様! パーティーの日は、わたくしたちが一番、輝いてみせましょう!」


 ぎゅ、と勢いよくベルンハルトの両手を握る。あまりの勢いに、ベルンハルトは困惑した顔のまま頷いたのだった。

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