表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/83

第60話 おかえりなさいませ、旦那様!

「姉さん、さすがにこれは派手過ぎじゃないの?」


 煌びやかに飾られた広間を見て、ヨーゼフが呆れたように溜息を吐いた。

 広間は無数の花や装飾品で飾られ、テーブルの上には続々と豪勢な料理が運ばれつつある。


「だって、ベルンハルト様が帰ってくるのよ!?」

「いや、それは分かってるんだけど。ここまでする?」

「帰ってきてよかったって思ってほしいもの!」


 騎士団のみんなも久しぶりに帰ってくるため、盛大な宴を開こうと大量の酒も用意した。通常のメイドたちだけでは手が回らず、一部の領民たちにも協力を依頼したくらいだ。


「それにマンフレートさんだって、雇用の機会が増えるのはいいことだ、って言ってたじゃない」

「……そうかもしれないけど。本当姉さんって、ベルンハルト殿が大好きだよね」

「ええ、大好きよ!」

「まあよかったよ。その様子なら、今度の舞踏会も心配ないね?」


 招待状をもらってから、ヨーゼフはドロシーを心配してくれている。

 ドロシーにとって婚約破棄はとっくに過去の出来事になっているが、社交界ではそうではないらしいのだ。


「みんなに、わたくしの素晴らしい旦那様を自慢してあげるわ」


 ドロシーが独り身なら、婚約破棄された哀れな令嬢として笑われ、馬鹿にされていただろう。

 だが、今のドロシーは既婚者だ。しかも、ただの既婚者ではない。


 世界一格好良くて素敵な殿方を夫に持つ、最高に幸せな妻なのよ!


「……本当、幸せそうでよかったよ」





 日傘をメイドにさしてもらい、正門の前でベルンハルトの帰りを待つ。

 アデルにもヨーゼフにも中で待てばいいと言われたが、一秒でも早くベルンハルトに会いたかったから。


 風は冷たいが、昼間はまだ外に立っていられるくらいの寒さだ。


 それにベルンハルト様は、ここよりずっと寒いところで働いていたんだもの。


 肩を抱いて寒さに耐えていると、遠くから馬蹄が轟く音が聞こえてきた。そしてすぐに、馬に乗った騎士団の姿が見える。

 ようやく、ベルンハルトが帰ってきたのだ。


 そして先頭を走る黒馬が集団を抜け出し、スピードを上げて駆けてきた。


「ドロシー様!」


 馬から下りたベルンハルトは、別れた時よりもさらに立派な身体つきになった気がする。

 ドロシーを見つめる瞳は相変わらず優しくて、とびきり甘い。


「おかえりなさいませ、旦那様!」


 勢いよく抱き着く。ぎゅ、と腕に力を込めると、ベルンハルトはドロシーの頭をそっと撫でた。


「……ただいま、ドロシー」


 約束していた通りの呼び方が照れくさい。しかしどうしてもベルンハルトの表情を見たくて顔を上げると、日に焼けた肌が赤く染まっていた。


「やっぱり愛おしすぎますわ……!」


 話したいことも聞きたいこともたくさんあるのに、喜びで胸がいっぱいで、上手く言葉が出てこない。


 だけど今、真っ先にすべきことは……。


「旦那様!」


 ぐいっ、とベルンハルトの腕を引く。それに応え、ベルンハルトはしゃがんでドロシーに目線を合わせた。

 すぐにベルンハルトの頬を両手で包み込み、そっと唇を重ねる。

 かさついた唇も、努力の証だと思うと愛おしい。


「ずっとずっと、お会いしたかったわ」

「……ドロシー」

「ねえ、旦那様。今度は旦那様からキスをしてほしいわ」


 そう言って、口づけをねだるように目を閉じる。ベルンハルトの唇を感じた瞬間、姉さん! とヨーゼフの叫びが響き渡った。


「騎士団のみんなの面前でなにしてるの、本当に!」


 腰に手を当てたヨーゼフが鋭い目でドロシーを睨む。

 慌てて周りを確認すると、いつの間にか騎士団のみんなも到着していた。


「まあ……! わたくしったら!」

「わたくしったら、じゃないよまったく」


 ベルンハルトに夢中になってしまったが、団長の妻として団員達をねぎらうのもドロシーの仕事だ。

 コホン、と軽く咳払いし、団員たちを真っ直ぐに見つめる。


「皆さん、ご苦労様。今日は皆さんのために、宴の用意をしてるの。お酒も料理も、たっぷり用意したわ!」


 団員達から歓声があがる。用意した甲斐があったわ、と思いつつ、ドロシーは再び視線をベルンハルトへ向けた。


 何度もベルンハルト様……いえ、旦那様のことを思い出していたけれど、やっぱり実物は最高だわ。


「旦那様も、今日はたくさん食べて、飲んで、ゆっくり休んでくださいね」

「ああ、ありがとう、ドロシー」

「わたくしも今日は一緒に楽しみたいですわ」


 ベルンハルトは酒に強い。だが、いくら飲んでも酔わない、ということはないだろう。

 ドロシーが上手くやれば、きっと酔わせることはできるはず。


 旦那様を酔わせて初夜を決行作戦、始まりよ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ