表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/83

第59話(デトルフ視点)一番の男

「ベルンハルト、まだお土産買うの?」

「……どれをドロシー様が気に入るかどうか分からないだろう」


 一時間前と全く変わらない親友の返事に溜息を吐き、デトルフは部屋に並ぶ商人たちを眺めた。

 明日の朝、この宿を出る。そのため今晩はゆっくり身体を休めたり、最後に街で遊んだり、団員たちはそれぞれ自由に過ごしているのだ。


 そんな中ベルンハルトは、近隣の商人たちを何人が呼び寄せ、妻への土産を吟味しているのである。


 センスがいいからプレゼント選びを手伝え、って言われたけどさあ……。


 商人たちが並べたアクセサリーやらドレスやらを、ベルンハルトは真剣な表情で選んでいる。

 寒い地域なだけあって、毛皮を使った物も多い。


「おい、デトルフ。これはどう思う?」


 ベルンハルトに手招きされ、毛皮のコートを見せられる。真っ白のロングコートはふわふわで、確かにドロシーに似合いそうだ。


「……白ってすぐ汚れそうだけど、どうなの?」

「俺やお前とは違う。返り血の心配はいらない」

「いや別に、返り血は気にしてないけど」


 今まで見てきた貴族の中では、たぶんドロシーは動きまわる方だ。大貴族なだけあって高価な衣服を大事に……という気遣いがない分、すぐに汚しそうな気もする。


 でもベルンハルトが好きそうなコートだもんね、これ。


「似合うと思うよ。それにこれから、領地や王都も寒くなっていくだろうし」

「そうだろう。これは買うか。後は……」

「ねえ、そんなにたくさん買わなくてもいいんじゃない?」

「……多ければ多いほど喜ぶだろう」

「そうかなぁ。ベルンハルトが帰るってだけで、喜んでくれそうだけど」


 無言になり、ベルンハルトはゆっくりと頷いた。


 うわ、なにこの幸せを噛み締めてる顔……。


 ベルンハルトの親友兼部下のデトルフから見て、シュルツ子爵家夫妻はあまりにも仲が良すぎる。

 貴族社会ではもちろん、一般的な夫婦でも、ここまで仲のいい夫婦はなかなかいないのではないだろうか。


 それなのに初夜はまだ迎えていないという、なんともアンバランスな二人だ。


「それより、ベルンハルトの服や装飾品を買ったら?」

「俺の? そんなもの興味ない。その金でドロシー様にプレゼントを買った方がいいだろう」

「ドロシー様の旦那として相応しい格好をしないと」


 ぴくっ、とベルンハルトの眉毛が動いた。百戦錬磨の騎士のくせに、ドロシーに関することだけは本当に分かりやすい。


 ドロシー様には、必要以上に自分をよく見せようとするしね。

 お金とか地位とか、男女関係においてはそれだけじゃないって分かんないのかなぁ。


 貴族の子弟のような優雅さはないが、ベルンハルトは端正で男前な顔立ちをしている。おまけに鍛え上げられた肉体は美しい。

 デトルフから見ても、ドロシーはそんなベルンハルトにべた惚れなのだ。


「ドロシー様が目移りしないように、ちゃんと着飾らないと。舞踏会なんかには、着飾った貴公子もたくさんいるだろうし」

「……デトルフ」

「ああ、そうそう。エドウィンの奴も、見た目だけはいいしねぇ」


 びくっ、びくっ、とまたベルンハルトの眉が動く。


「俺に似合う服を見繕ってくれ。ドロシー様が好きそうな、流行りものがいい」

「了解」


 ベルンハルトとは長年の付き合いだが、まさかこんな恋愛をする男だとは思っていなかった。

 女体はともかく、女にはろくに興味がない人間かと思っていたのに。


 本当、ドロシー様が我儘な性悪女じゃなくてよかった。





 北方の宿を出発し、ろくに休憩もせずひたすら駆ける。馬に慣れた騎士団には容易なことだが、皆、妙にそわそわとした様子の団長には落ち着かない様子だ。


 そんなにドロシー様に早く会いたいなら、さっさと物にしちゃえばいいのに。


 ベルンハルトを見ていれば、手放す気がないことは分かる。だったらすぐに子供でも作ってしまえばいいと思うのは、平民の野蛮な考えなのだろうか。


 ドロシー様がずっと、ベルンハルトに飽きなきゃいいけど。


 ドロシーはまだ若い。その上、世間知らずの乙女だ。今は恋心が燃え上がっているのかもしれないが、時が経ち、平民上がりの夫が嫌になる日はこないだろうか。


 そうなったとしてもたぶん、ベルンハルトはドロシーを恨まないだろう。


 でも、僕はそうは思えない。

 ドロシー様がベルンハルトを裏切るような日がきたらたぶん、一生ドロシー様を恨む。


「ねえ、ベルンハルト」

「なんだ?」

「お土産、喜んでもらえるといいね」

「ああ。もし気に入らなくても、すぐに気に入る物を取り寄せる」

「……本当、君はさぁ」


 笑っちゃうくらい真っ直ぐで、馬鹿で単純で、一途な男だ。

 でも間違いなく、僕が知っている中で一番格好いい男でもある。

 だからもう、さっさとちゃんとくっついちゃえばいいのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ