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第50話 おかしいこと

「ヨーゼフ様。どうしてあの娘を食事に招待したんです?」


 ヨーゼフにそう問いかけるマンフレートの眼差しは穏やかだ。ドロシーが同じことをしたら、特別扱いをするなんて……と呆れられそうなのに。


 マンフレートさん、結構ヨーゼフのことを気に入ってるのよね。

 ヨーゼフも、マンフレートさんのことは一目置いているみたいだし。


「あまりに質のいい葡萄だったので、いろいろと話を聞いてみたくなってね。彼女ならたぶん、素直にいろいろ教えてくれそうだし」

「……確かに、そうかもしれませんね」


 別に、コリーナ以外の領民が嘘をつく、だなんて思っているわけじゃないだろう。

 ただ、目上の人間にあれこれと尋ねられたら、たいていの人は気を遣って本音以外も喋ってしまうかもしれない。きっとヨーゼフはそれを気にしたのだ。


「そんなこと言って、本当はコリーナのこと気に入ったんじゃないの?」


 からかうようにドロシーが言うと、ヨーゼフはわざとらしい溜息を吐いた。


「僕を姉さんみたいな恋愛脳と一緒にしないでくれる?」

「れっ、恋愛脳……!?」

「そうでしょ。婚約破棄された直後にされたプロポーズに応じて、白い結婚……なんて言ってたわりに、今はもうベルンハルト殿のこと大好きなんだから」

「うっ……!」


 ヨーゼフの指摘はなかなかに耳に痛い。客観的な事実としては間違っていないからだ。


「でも仕方ないじゃない! ベルンハルト様が最高な殿方なんだもの!」


 優しくて格好良くて思いやりがあり、しかも強い。ベルンハルトほど素晴らしい男は国中を探しても見つからないだろう。


「本当、婚約破棄されてわたくしは幸せだったわ!」


 もしエドウィンとあのまま結婚していたら、幸せな未来なんてなかっただろう。

 家柄と顔だけしか取柄がなさそうな男だ。まあ、エドウィンのことは実際、よく知らないのだけれど。





 夕食時にやってきたコリーナたち家族は、明らかに緊張していた。おそらく彼女たちなりの一張羅を着て、真っ直ぐに背筋を伸ばしている。

 とはいえコリーナは無邪気な部分も多く、初めて入る屋敷の内装に目を輝かせていた。


「すごい、お城みたい……!」


 ドロシーにとっては質素に見える屋敷内も、コリーナには華やかに見えるらしい。


「奥方様、今日は本当にありがとうございます」


 コリーナの父が深く頭を下げる。どういたしまして、と微笑んで広間へ進んだ。





「それで、葡萄を王都へ出荷してる、って聞いたんだけど」


 一通り食事を終えた後、ヨーゼフがコリーナに問いかけた。


「はい! 集荷場に運んで、葡萄を王都へ運んでもらってるんです」

「なんで王都なの? ここから王都へ運ぶのは時間がかかるし、鮮度も落ちそうだけど。王都以外にも、人が多い都市はあるでしょ」


 確かに、言われてみればヨーゼフの言う通りだわ!


 王都で物を売る、という発想が一般的すぎて疑問にも思っていなかったが、なにも王都である必要はない。

 たとえば、以前ドロシーがベルンハルトと出かけた近くの町にだって人はたくさんいたし、レストランだってあった。


「なんで? そ、そんなこと、考えたことなかったです……」


 コリーヌは困ったような顔で両親を見つめた。彼女に見つめられた両親も、コリーヌと似たような顔をする。


「……私たちはずっとそうやってきたんです。ですから、他の選択肢なんて考えたこともなく……」

「ずっと?」

「はい。ベルンハルト様が領主になられる前から、ずっとです」


 そう、と呟いたヨーゼフの表情を見てひやひやする。


 みんながみんな、ヨーゼフみたいにいろいろと考えられるわけじゃないわ。

 わたくしだって同じ状況なら、別の選択肢なんて考えないもの。


「お金の受け渡しはどうなってるの?」

「私たちが葡萄を渡し、次に運搬を依頼する日に、前回分の売上から輸送費を抜いたものをもらっています」

「それ、ちゃんと帳簿とかで管理してる……わけないよね」


 ヨーゼフの言葉に、夫妻は申し訳なさそうに頷く。


「姉さん。どう思った?」

「……ええっと……」


 一度目を閉じて、ヨーゼフが言いたいであろうことを考える。


 わたくしはヨーゼフほど賢くはないけれど、姉だもの。弟の考えなら、少しは予想できるはずだわ。


「……輸送している人を信用できない、ということかしら?」


 しっかりとした帳簿があれば、お金の流れは理解できるだろうし、違和感にも気づける。しかし帳簿もないようなやりとりでは、売上を減らされていたとしても分からないだろう。


「そういうこと」


 はあ、とヨーゼフが溜息を吐く。その姿に委縮したのか、コリーナたちはなぜか頭を下げた。彼女たちは全く悪くないというのに。


 コリーナも他の領民たちも、必死に働いて生活しているわ。それに、できあがった葡萄だってとても美味しかった。

 それなのにこれって、おかしいことなんじゃないの?

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