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第48話(ベルンハルト視点)北方にて

「そろそろ交代だ。久しぶりに飲みにでも行こうよ、ベルンハルト」


 そう言って、デトルフは笑いながらベルンハルトの肩に手を置いた。

 相変わらず爽やかな笑顔は、男ばかりの騎士団では少しだけ浮いている。


「……そうだな」


 北方での、魔法装置修復時の護衛、及び作業前の魔物討伐。

 任務は順調に進んでおり、現在は王都からやってきた優秀な魔法技師たちが必死に修復作業を行っている。

 それを、ベルンハルトたち騎士団が交代で護衛しているという状況だ。


 魔法技師の作業は交代制で、一日中続いている。それと同じく、騎士団の護衛も交代制だ。一日の仕事が終われば、近くの町へ行き宿で眠る。


 とはいえ、騎士団員の体力は有り余っている。大半の団員たちが隙間時間には近隣の飲み屋や妓楼へ繰り出し、北方での生活を楽しんでいるのだ。

 辺境の地とはいえ、魔物が多い場には仕事でやってくる騎士たちも多い。そのため、付近の村にはそれなりに娯楽施設がある。


 こうしてデトルフと飲みに行くのも久しぶりだな。


 昔はよく二人で安い酒屋に入り浸ったものだ。仲間だって、最初はデトルフしかいなかった。


「どうしたの? 年よりくさい顔して」

「……元からこんな顔だ」

「そうだっけ? じゃあなおさら、酒でも飲んで明るくいかないと」


 そう言って笑うと、デトルフはベルンハルトの肩に腕を回した。





 近くにある酒場は上品とは言い難い。店内はやたらと騒がしく、荒っぽい男性客と、上の階にある妓楼からやってきた妓女であふれている。

 酒場の上には妓楼があり、気に入った女がいれば上の階で宿をとれる……という仕組みだ。


「ドロシー様はこんなところにベルンハルトが行くって知ったらどう思うだろうね」


 からかうように笑い、デトルフは大きなグラスに入ったビールを一気飲みした。貴公子めいた容姿とは裏腹に、騎士団一の酒豪なのだ。


「あんな格好をした女たちがいるって知ったら、顔を青くして怒るんじゃない?」


 ちら、とデトルフが他の席についている妓女に目線を向ける。

 半ば下着のような格好をした妓女たちが、甘い笑顔で客を誘惑していた。


「仕方ないだろ。こういう店しかないんだから」

「まあね。こんなところに、上品なレストランなんてあるわけないし」


 以前ドロシーに、今後一切の妓楼通いを禁ずる、と言われた。あれ以来、妓楼へ足を運んだことは一度もない。というか、そんな暇もなかった。

 ここだって、上の階に妓楼があるだけで1階はあくまでも酒場だ。ドロシーとの約束を破ったことにはならないだろう。


 それでもドロシー様は、この状況を知れば怒るだろうか。


 目を閉じなくたって、簡単にドロシーの姿を思い出せる。銀色の髪に桃色の瞳、小さな顔、少し力を込めただけで折れてしまいそうな身体。

 ここにいるような女たちとは別の生き物のようだ、と心底思う。妖精のように愛らしく、人間離れした魅力がある。


「あ。ベルンハルト、今ドロシー様のこと考えたでしょ」

「……」

「睨まないでよ。さっきのにやけ顔見た後じゃ、全然怖くないしさ」


 手を上げ、デトルフは次の酒を注文した。合わせて、ベルンハルトも酒を頼む。


「そういえば前から聞きたかったんだけどさあ」

「なんだ?」

「体格差あるけど、ドロシー様とは上手くヤれてるの?」


 なにを、なんて聞き返すほど察しは悪くない。上品な顔立ちのくせに、デトルフは平気な顔で下品なことを口にする。


「余計なお世話だ」

「親友として心配してるのに。……なーんて。どうせ、まだ手出せてないんでしょ?」


 とっさに嘘をつけずにいると、やっぱり! とデトルフは両手を叩いて笑った。


「今さら隠し事とかしなくていいよ。無駄だから。それよりどう? あの子とかで練習したら?」


 そう言いながらデトルフが指差したのは、背の低い妓女だ。それでもドロシーよりは身長が高いものの、かなり小柄で幼い顔をしている。


「妓楼は利用しない。約束したからな」

「バレないのに?」


 確かに、ここで妓楼を利用したところでドロシーにはバレないだろう。適度に欲を発散したい、という気持ちだってなくはない。

 それでも、ドロシーに対して不誠実な真似をするわけにはいかないのだ。


「ああ」

「本当に、ベルンハルトはドロシー様が大好きだよね。もしあのままドロシー様があいつと結婚してたらって思うと、未だに恐ろしくなるよ」


 あいつ、というのはエドウィン……ドロシーの元婚約者のことだ。

 大貴族の跡取りで、貴族らしい、整った容姿の持ち主でもある。少し前まで、ドロシーに相応しい相手だと本気で思っていた。


「……ドロシー様が幸せならそれでいい」

「本当かなぁ」


 デトルフが疑わしげな視線を向けてくる。腹立たしいが、確かに今のベルンハルトはもう、他人にドロシーを譲る気はない。


 ドロシー様は純粋で美しくて愛らしくて……保護するべき存在だ。

 俺が、命に代えてもお守りしなくては。


「ところでさ、ベルンハルト」

「なんだ?」

「この任務が終われば、たぶん直々に陛下から褒美をもらえる。きっとパーティーにも招待されるだろうね」

「……それで?」

「分かんない? そこには絶対、あいつもくるよ」


 国王に招かれたパーティーに、妻を残して行く選択肢はない。

 要するにドロシーも、あの男とまた顔を合わせることになる。

 大勢の前で婚約破棄を言い渡し、ドロシーを傷つけたあの男と。


 あんな奴がドロシー様の婚約者だったと思うと、今でも腹が立つ。


 婚約者として過ごしている時、二人はどんな風に話をしていたのだろう。ドロシーは、なによりも愛らしい笑顔をあの男に向けていたのだろうか。


「……すごい顔してるよ、ベルンハルト」


 呆れたように呟いたデトルフの声を無視し、ベルンハルトは怒りに任せて酒を一気飲みした。

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