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第46話 余計なこと

「姉さんって結構性格悪いよね」


 ゆっくりとフォークをテーブルの上に置きながら、ヨーゼフがそう言った。

 ずいぶんと久しぶりの、姉弟二人だけの夕食である。


「そんな言い方しなくてもいいじゃない」

「するよ。めちゃくちゃしつこいし」

「……それはまあ、悪かったわ」


 夕食を食べている間も、散々ヨーゼフのことを『王子様』と呼んでからかった。ドロシーとしては珍しくヨーゼフをからかえて楽しかったのだが、ヨーゼフは違うらしい。


「まあ、ベルンハルト殿の留守中もそれなりに楽しくやっているようでよかったよ」


 果実水を飲んで、ヨーゼフが軽く微笑む。


「で、初の開放日は明後日なんだっけ?」

「ええ、そうよ。どれくらいの人がくるのか、まだ分からないけれど」


 週に一度、開放日という日を設定することにした。

 それが、集会で話した領民たちの意見を聞く日だ。


 屋敷の庭を一時的に開放し、自由に出入りできるようにする。そこにドロシーやマンフレートも待機し、領民たちの意見を聞く……という仕組みだ。

 領民たちがきてくれるかは分からないが、そうした取り組みをするだけでも意義はある……というのはマンフレートの言葉である。


「ベルンハルト殿、今頃忙しくしてるだろうね」

「……ええ」


 無事に目的地へ着いた、という連絡は既に受けてある。

 だが、あとどれくらいで任務が終わるのかは分からない。


 魔法装置の復旧ってどれくらいかかるのかしら? 魔物が完全に破壊してしまっているのなら、修復は大変よね。


 魔物に比べ、人間はほとんど魔力を持っていない。

 魔法騎士や魔法技師のように他の人間より魔力を有する者もいるが、魔物と比べれば魔力量は少ないのだ。


 だからこそ、魔法武具や魔法装置を使う。それらには魔石が埋め込まれており、魔石と人間の魔力が組み合わさることで効果を発揮するのだ。


「魔法技師が、魔石に魔力を込めるのよね?」

「そうだよ。魔石に込める魔力が多ければ多いほど、魔法装置の効果は長持ちする。大規模な修理になればなるほど、かかる時間は長いだろうね」


 魔法の概要については女学校で一通り習ったはずだが、曖昧な知識も多い。魔法騎士の妻になることが分かっていたら、もっとちゃんと授業を受けていたのに。


 ドロシーが溜息を吐くと、ヨーゼフが思い出したように言った。


「ベルンハルト殿、北方に馴染みの女性とかいるのかな」

「……は?」


 思わず低い声が出てしまい、慌ててドロシーは口を手で覆った。


「姉さん。気持ちは分かるけど、愛人の一人や二人、珍しい話じゃないでしょ」

「ベルンハルト様に限ってそんなことはないわよ。言ってたじゃない。他の女性と関係を持つことはないって」


 結婚を申し込まれた日、ベルンハルトは確かに言っていた。妓楼に行かないという約束もしている。


 ベルンハルト様は誠実な方だもの。不安に思う必要はないわ。


「姉さんとベルンハルト殿って、白い結婚はやめたんだよね?」


 改めてヨーゼフに確認されると、返事に困ってしまう。

 愛のない契約結婚……などという状態は脱しているものの、未だに肉体関係がないことは事実だ。


 とはいえ、弟にそんなことは言えない。そうよ、と胸を張ってドロシーは頷いた。


「だったら、白い結婚を申し込んできた時の条件もなくなったりしないわけ?」

「……な、ないわよ、そんなこと。言われてないもの」


 改めて確認したわけではないが、ベルンハルトはドロシーが傷つくようなことはしないはずだ。


「だといいんだけどね」

「……どうして、急にそんな話をするのよ?」

「気になって、ベルンハルト殿のことをいろいろ友達に聞いてみたんだ」


 ヨーゼフの言葉に、ドロシーは身を乗り出した。テーブルの上の食器が揺れて、がしゃ、と危ない音を立てる。


「なんて言っていましたの!?」


 ベルンハルトは魔法騎士であり、貴族でもある。それなりに社交場には顔を出しているはずだ。

 箱入り娘のドロシーより、よほど社交界に知り合いが多いかもしれない。


 社交界でのベルンハルト様……気になるわ!


「悪い噂は聞かなかったよ。堅物でつまらない、なんて愚痴は聞いたけど」

「真面目なのはベルンハルト様の数えきれないほどある長所の一つよ」

「はいはい。あと、恋人とか、愛人がいるって話もなかった。でも……」


 一瞬だけ言いにくそうな表情をしたものの、ヨーゼフは覚悟を決めたように話を続けた。


「過去に関係を持ったと噂されている人って、みんなおとなっぽい感じの人が多かったらしいんだよね」


 以前、アデルが言っていたことを思い出す。アデルも、ベルンハルトの好みはおとなっぽい女性だと言っていた。


 やっぱりそうなの? わたくしって、ベルンハルト様の好みじゃないの?


「だからちょっと僕、姉さんのことが心配になって。でも、安心したよ。白い結婚は終わったんだもんね」


 姉として、ええ、と余裕たっぷりに頷いてみせるべきなのだろう。

 分かっているのに、上手く表情を取り繕えない。


「姉さん……? 顔、真っ青だけど……もしかして僕、余計なこと言っちゃった?」

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