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第43話 会いたいですわー!

「今日からしばらく……って、どういうことなの!?」


 ドロシーが詰め寄ると、ヨーゼフは飄々とした笑顔で答えた。


「学校が冬休みに入ったんだよ。だから、姉さんのところに遊びにきたってわけ。バカンスを兼ねて、ね」

「バカンスって……」


 学校が休みの間、別荘で過ごす貴族の子弟は多い。ドロシーだって、休暇中にヨーゼフと共に旅行したこともある。

 だが、旅行先はここよりもずっと賑やかで華やかな場所だった。


「ここに?」

「そう。ベルンハルト殿がいなくなって、姉さんが寂しがってるだろうしね」

「それはそうだわ。わたくし、ベルンハルト様がいなくてすごく寂しいの」

「……相変わらずお熱いことで」


 呆れたように溜息を吐くと、ヨーゼフは立ち上がった。

 そういえば、いつもよりも質素な服装をしている気がする。


「姉さん、ベルンハルト殿がいない間に、いろいろやってみるつもりなんでしょ? ここの発展のために」

「ええ、そうよ」

「勉強のために、その様子を見たいと思って。書物からは学べないこともたくさんあるからね」


 確かに、ヨーゼフの言う通りだ。同じことであっても、書物から学ぶのと現実から学ぶことは全く違う。


「それに、姉さんのことも手伝ってあげる。僕がいたら助かるでしょ?」


 ヨーゼフが得意げな顔で笑った。ちょっとむかつくけれど、ヨーゼフがいてくれると助かるのは事実だ。

 ドロシーよりもずっと知識が豊富だし、賢い。なにより、家族が傍にいてくれる安心感は大きい。


「派手な歓迎はできないわよ?」

「いいよ、そんなの」


 そう言ってヨーゼフは楽しそうに笑った。





「というわけで、今日からお世話になります、マンフレート殿」


 完璧な角度のお辞儀を披露し、ヨーゼフはマンフレートに挨拶した。


「……よろしくお願いいたします、ヨーゼフ様」


 マンフレートの声に棘はない。しかし、ドロシーを見つめる目はいつもより鋭い。

 勝手なことをするな、とでも言いたいのだろうが、ヨーゼフがくることはドロシーだってしらなかったのだ。


「集会にはヨーゼフ様も参加なさるということでよいでしょうか?」

「うん。でも僕はあくまでも見学させてもらうだけのつもり。まあ、ベルガー侯爵名代として、少し話をしてもいいけど」


 そう言うと、ヨーゼフは得意げな笑みを浮かべた。


「僕がいるってだけで、シュルツ家とベルガー家の関係が良好だって証明になる。領民からすれば、安心する材料になるんじゃない?」

「領民が安心?」

「そう。姉さんがかなりの浪費家でもない限り、ベルガー家との結婚は領民にとっても安心できることのはずだからね」


 ヨーゼフの言葉にマンフレートも頷く。浪費家でもない限り、のところであからさまに深く頷いていたのが彼らしい。


「要するに、離婚する可能性が低い、と領民に思わせることが大事だってこと」

「離婚する可能性?」

「そう。田舎だから二人の婚約の流れについての噂は知らない人が多いだろうけど、大貴族の娘がこんなところに耐えられるものか、って思ってる人もいるだろうし」


 なるほど……ヨーゼフの言っていることは、合っている気がするわ。


「だとすれば、わたくしとベルンハルト様のラブラブっぷりも見せつけた方がいいのよね?」

「……は?」

「仲睦まじい姿を見せれば、離婚するだなんて誰も思わないもの。まあ実際、わたくしとベルンハルト様はラブラブなんだけど!」


 領民を安心させるため、と強く主張すれば、ベルンハルトだって領民の前でいちゃつくことを拒めないはずだ。

 人前で腕を組んだり、手を繋いだり、場合によってはキスを見せつけることだって効果があるかもしれない。


「……姉さん、ベルンハルト殿に愛想をつかされないようにね」

「心配する必要はないわ! ベルンハルト様はわたくしを大事に思ってくれていますもの!」


 まだ夫婦としての契りは交わしていないが、待っていてくれと言われたし、なにより、国で一番の魔法騎士になった暁には本物の夫婦になろうと言ってくれた。


 それってつまり、わたくしのことが大好きで、愛していて、女として見ているって、そういうことよね?


 そこまで考えて、ドロシーはふと気づいた。


 言われてない……わたくし、ベルンハルト様にちゃんとそう言われてないわ!?


「姉さん? 急に真っ青になって、どうしたの?」

「わ、わたくし、わたくし……!」


 ベルンハルト様はわたくしと夫婦になる意思を示してくれたわ。

 でもそれって、もしかしたら、わたくしがそれを望んでいるからなんじゃ……?


 ふと浮かんだ恐ろしい考えに頭が支配されそうになってしまう。

 そんなはずはないと思ってはいても、不安なものは不安だ。


「今すぐ、ベルンハルト様に会いたいですわー!!」


 大絶叫の後座り込んだドロシーの肩を叩き、ヨーゼフは呆れた顔で溜息を吐いた。


「そういうのいいから、そろそろ時間なんでしょ。もう行くよ」


 ヨーゼフのその言葉を聞いた瞬間、助かった、とでも言いたげな顔でマンフレートとアデルは顔を見合わせたのだった。

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