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妹を溺愛する兄は「来ないでくれ」と言われても彼女の職場の文化祭にコスモスの花束を持って現れる

作者: 小宮治子
掲載日:2023/12/12

 

「早く着きすぎてしまったのか……」


 駅を出てバス停の前に立った一郎は、そう零した。


 遅く来たつもりだった。もう朝九時を過ぎている。

 何せ今日は、文化祭なのだ。

 彼の妹が働いている大学の。


(もっと正装すべきだったろうか)


 水色のワイシャツに紺のブレザー。履き込んだジーパンにスエードのブーツ。

 一郎は今日の自分の格好がTPOに相応しいのか分からなかった。


 時刻表を見ると、あと三十分程でバスが来る。

 大学へはバスで十分弱。徒歩で五十分。


「歩こう」


 鍛錬の為、一郎は宣言した。


 十一月の空気はひんやりしているが、動けば暖かかい。

 一郎はブレザーを脱ぎながら、道端に咲いている花にふと目を留めた。


(コスモスか)


 淡いピンクの花が揺れている。

 一郎はその花を一輪摘んだ。


(この先もあるだろう)


 そう考えながら、彼はまた歩き出した。


 四十分もすると、大学が見えてきた。

 その頃には、一郎の手にはピンクや紫のコスモスの花束が出来上がっていた。

 そろそろ文化祭も開始するらしく、人々がキャンパス内を歩き回っている。


 一郎も妹の模擬店へ向かおうとした。

 その時——


「イベントスケジュールいかがですか?」


 学生に呼び止められた。


「あと少ししたら、ダンスの公演もありますよ! 是非見に来て下さい」


 一郎は普通に受け流すつもりだったが、その瞬間妹の長い黒髪が目に入った。

 女子大生の事はすっかり忘れ、彼は妹の方へ突き進む。


 だが妹は彼を見ると、顔を顰めた。


「兄さん。来なくてもいいって言ったじゃないですか。って言うか私、来ないで下さいって言いましたよね?」


 返事の代わりに、一郎は持っていた花束を差し出した。


「コスモスは、一子ちゃんによく似合うよ」

「兄さん、もしかして歩いて来たんですか?」


 彼が頷こうとした時だった。妹の後ろから、男子が一人大きな箱を抱えて歩いて来た。

 まだ高校生なのか。やけに頼りなさそうに見える。

 その男子がフラつき、妹にぶつかりそうになった。


「一子ちゃん!」


 一郎は咄嗟に妹を抱き寄せていた。

 コスモスの花は散らばり、一子は彼の腕の中で固まった。


 暫くすると彼女はそっと彼の胸を押し、足元を見て呟いた。


「花が……」


 彼女はその場にしゃがみ込むと、コスモスを拾い始めた。


「わざわざよかったのに。まして花まで摘んで来るなんて……」


 そう言いながらも、彼女は兄に伝えた。


「でも、ありがとうございます。守ってくれて」

「それは、勿論」


 一郎は囁いた。


「僕は君のお兄さんだから」


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