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第四十六話 長い誕生日前夜〜エドヴァルト視点〜 (1)

 母さんが、死にかけている。

 僕がその事実を知ったのは、兄さんの16歳の誕生日パーティーの終盤だった。


 一見、なんの問題もなく進んでいたパーティー。むしろ、大成功を収めていたと思う。しかし、蓋を開けてみたら、裏では信じられないようなことが起こっていた。


 突然に。父さんによって、式の進行やパーティーの進行は極端に早められ、予定より1日早く終わった。場は混沌としていたが、父さんが上手く対応し、表面上はそこまでの問題は起こらなかった。あくまで、表面上。それ相応に不満や疑問を持っている人も多い。そこまでして、なぜ、予定を早めたのか、僕としても疑問だったが、その理由はすぐに判明した。


 その数時間後、僕は父さんに呼び出された。部屋に入ると、兄さんが先にいた。しかし、俯いており、顔は全く見えない。様子のおかしい兄さんに、兄さんが何かしたから、予定が早まったのかと悟った。


 父さんは、僕に腰をかけるように告げると、重い口を開いた。

 

 父さんの話はこうだ。母さんの病気を治すため、妹の魂を捧げるという計画を兄さんは立てていた。そして、その妹ルシアは逃げ出したらしい。ついでに、彼女と仲が良かった兄さんの部下のヴェルクスを殺す予定だったが、彼にも逃げられたとか。


 信じられなかった。

 母さんは遠くの国で仕事をしていると聞いていたから、それを信じ切っていたのだ。思えば、ここ7年ほど姿を見せなかったのには疑問を抱くべきだったのかもしれない。それでも、毎月、手紙が送られてきたし、写真だって添付されていた。これは、兄さんが用意していたものらしい。手紙はメイドに書かせ、写真は偽造工作していたということだ。

 また、兄さんの態度についても、ありえなかった。あんなにルシアを溺愛していたのに、それが全部嘘だったというのか。ヴィルクスに対してだって、あんなに気さくに接していたのに。いや、嘘ではない、と感じた。今の兄さんは明らかに正気ではない。多分、周りが見えなくなっただけなんだ。


 さらに話が続けられる。ルシアが呪われた子だとか、そのせいで母さんが病気にかかっただとか。この話には、それまで黙っていた兄さんも便乗し、ルシアが悪い、あいつが生まれなければ、と僕に訴えてきては、父さんに止められていた。


 兄さんも兄さんなら、父さんも父さんだった。兄さんの計画には、これまで全く気づいていなかったという。兄さんの隠し方が上手かったのもあるだろうが、父さんが兄さんにもっと気をかけていたなら、気づけたはずだ。それに、父さんは母さんが7年ほど前に死んだと思い、それからしばらく、誰とも接触を絶っていたので、兄さんがその頃に荒れていたのも放置していたらしい。

 

 話を聞いて、父さんにも兄さんにも同情はした。2人とも母さんが大好きだったことは知っている。もちろん、僕も母さんが大好きだった。それでも、彼らの行動に納得はできなかった。

 ルシアは普通に生まれて、生きているだけだ。彼女が何かしでかしたわけではない。

 父さんは幼い彼女を隔離し、育児放棄、兄さんは彼女を可愛がる振りをして最後に殺そうとしていた。あんまりじゃないか。

 

 まあ、それで言うなら僕も僕だった。ルシアほどではないとしても、この頃は特に僕は家族との交流が希薄だった。せめて、兄さんや父さんに会いたいと、行動を起こしていれば、彼らの事情を理解していれば、何か変わっていたかもしれない。ルシアに会いたいと、行動を起こしていれば、彼女は使用人たちに嫌がらせをされ、1人で寂しく過ごすことはなかったのかもしれない。


 ここまで、話を聞き終えると、別の部屋へ連れて行かれた。そこには、正気がない女性がベットの上で横たわっていた。彼女は、母さんだと告げられる。しかし、記憶の中の快活で明るい母さんとは、かけ離れていて、そう言われてもピンとこない。


 悪い夢かと思うほど。思いがけないことばかり伝えられ、情報を処理できずに唖然とする。


 この場には、奇妙な空気が流れていた。呆然とその場に立ち尽くす僕に、目を開けず人形のように動かない母さん、その手を複雑な表情で見つめている父さん、入り口付近にルシアのせいなんだ、ルシアが悪い、あいつが生まれたからとぶつぶつ唱えながら俯き立っている兄さん。

 先程、ルシアが呪われた子だとかなんだとか言う話をされたが、僕にとってはこの状況の方がよっぽど不気味だった。特に、ルシアより兄さんや母さんの方が何かよくないものに憑かれている気さえしてくる。薄気味悪い空間に思わず、後退りし、僕は壁にぶつかった。


 何か、声をかけなければ。声をかけて、この雰囲気を

壊したかった。しかし、口から漏れるのは、頼りない息だけだった。何を話して良いのか、何を話すべきなのか僕には見当もつかない。ただただ、時間は過ぎて、僕もこの空間と同化していく。





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