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第四十五話 長い誕生日前夜(9)

女の子が去った後。

 それは、静かなカオスだった。

 金髪の青年は未だ蹲り、何ごとかを唱えていて、女性は彼に必死に声をかける。

 男性はそんな様子を眺めていて、青髪の青年は私を抱きしめたまま動かない。


 散々な惨状だ。

 でも、こんなに嵐がさった後のような、災害に襲われた後のような雰囲気なのに、部屋はあまり散らかってない。一点、荷物が放りながっているのを除いては。


 気になって、そちらに向かおうとする。

 ……?進まない、あっ、そうだ、私青髪の青年に抱きしめられてたんだった。


「はなして、あれ。みたい」


 青年は顔を挙げ、私を連れて、荷物の方へ向かった。

そして、しゃがみ込み、どれが見たい?と聞いてくる。

私は荷物の中身を広げ、確認する。

 本とノートが数冊と、妙なスプレーや、空の瓶、パン、短剣などが入っていた。


 ノートが気になる。何が書いてあるのか。

 でも、それより先にパンを手に取った。千切って、口に含む。うん、食べれそう。


 私はパンを持って、金髪の青年と女性の元に向かう。この中では、この2人が圧倒的にやつれていた。金髪の青年はみるからに生気を失っており、女性は一見元気そうだが、頬などは痩せこけている。


「これ、たべて」

「パン…?ありがとう!アルブレヒトに食べさせてるわね!ルシアちゃんはお兄ちゃん思いのいい子ね〜!」


 女性は笑顔で受け取ってくれた。青年に食べさせると、言っていて、彼女は食べるつもりないのかな、と思う。

 

「貴方も、食べて」

「まあ!ママの心配もしてくれるの!?ありがと〜!」

 彼女は、私をむぎゅーと抱きしめた。こんなどんよりとした空間で元気に振る舞う彼女は、異質なように感じる。

 しかし、私を抱きしめた彼女の手は微かに震えていた。彼女は、だいぶ無理をしているのかもしれない。多分、私の次に状況がわかっていないのは彼女だろう。それでも気丈に振る舞っていた。


 彼女になんて声をかけていいかわからず、荷物がある場所に戻る。他の人たちも心配だが、状況がわからないので、どうすればいいか分からない。


 とりあえず、ノートを開く。

 この異様な部屋の中で、ぱらぱら、軽く捲っていく。


 一周し終えてなんとなくわかったのは、まず、私が記憶喪失していて自我も失っている可能性が高いこと。文字が読めなかったり、言葉を理解できない可能性もあったらしいが、そこは無事みたいだ。自我を失うまでは行かなかったらしい。

 次に、呪いをかけられていて、それを解かなければならないこと。最後らへんのページには、周りを巻き込むな、人とこれ以上関わらないように、と注意されていた。

 そして、アルカイド、という名前がしょっちゅう出てきていた。はじめの方は彼を探していたみたいだった。彼は人間ではなく悪魔だとか、言い伝えに登場するとか、信じられないことばかりだった。しかし、ほんとに最後の方に、彼を探すべきではないのかもしれない、とも書いてある。特に最後は断片的過ぎて記憶を失う前の私の考えがよくわからなかった。


 後は、この場にいるのは、おそらく私の家族らしい。そして、その家族とは、今後特に関わらないように、と書いてあった。私にかけられた呪いのせいで私は家族を壊してしまったようだ。


 この光景は、私の所為なのか。

 ずきり、と胸が痛んだ。何か、償いたい。でも、私には何もない。彼らにできることが何もない。できることは、これ以上私の呪いをばら撒かないように、この場を離れることだけだ。


 淡々と、散らかした荷物をまとめる。そして、扉の方へ向かう。


「ちょっと、どこ行くの?」

 青髪の青年は慌てて、私の手を掴んだ。

 どこって、あてなんかない。目的はあるけど、場所はわからない。


「旅、する」

「旅…?一人で?だめだよ、どうして……」

「どうしてって、私はここにはいられないから。私の呪いに巻き込んじゃっただから、この場を離れるの」

「ち、違うよ、ルシアは」

「気を遣わなくていい、離して。それとも、今、私を殺したいほど恨んでる?それは、ごめんなさい…、でも私は今死ぬわけには行かない。殺したいなら、猶予が欲しい」

「何、言ってるの?殺したいわけない…!恨んでもない!!」

「優しいね。じゃあ、手を離して?」

「離さない!!」


 掴まれた手をぶんぶん振ってみるが、私より一回りも大きい青年の手は振り解けない。

 なんで離してくれないのだろう。彼も私が邪魔なはずだ。


 まあ、ここから離れるのは今すぐじゃなくていいかな、と諦めて、手を下ろす。


 彼は私を抱え上げ、みんなに声をかけた。

「父さん、母さん、兄さん、ルシア。場所を変えて今回のことを話し合いましょう」と。


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