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第四十一話 長い誕生日前夜(5)

 移動中に考えてしまうのは今日のこと。今日はほんとに散々だ。お兄ちゃんには嫌われていたし、お母さんは私のせいで苦しんでいるし、ヴェルクスにも嫌われちゃったし、アルカイドの声で聞きたくなかったことが聞こえるし。


 思い出したら、胸が引き裂かれるほど痛くなり、再び、吐き気にも襲われた。ヴェルクスの手前、あまり心配かけたくなくて気づかないふりしてたが、体の方にもボロが出ていた。

「っう、ぇ、、げほっ、おぇっ、、」

 しばらく、何も食べてなかったのだろう。多分、倒れてから監禁されて目覚めるまで時間がだいぶ経ってる。しかも、朝食もまだだったし。だからか、出てきたのはほとんど胃液だった。

 喉がひりひりするし、何かがこべりついているようでとっても気持ち悪い。せっかくの水をうがいに使ってしまうのは勿体無いが、このままだとさらに、胃液が込み上げてきそうだった。


 気持ち悪く、休憩したいがゆっくりしている時間はない。ペースを少し落としながらもなんとか前へ進む。

  

 しかし、私はほんとにヴェルクスの言うとおり冷たい人間なのかも、いや、もうすでに人間ではないのかもしれない。

 死にたくなるほど悲しいはずなのに、こうして涙も流さずに生きていて動いているのだから。


 でも、悲しいけど、お兄ちゃんのことは納得しているのも事実だ。初対面からあれだけ好感度が高いなんてそもそもおかしかった。だから、お兄ちゃんの話を聞いて、苦しかったのは私のせいでお母さんが病にかかったこと。お兄ちゃんが私のことが憎くて、悲しませるための演技だったと聞いたのはむしろ、すとんとお兄ちゃんの態度が腑に落ちた。これも、ヴェルクスの言うと通りだ。あんなに可愛がってもらっていたのに、憎まれていたことに納得しちゃうなんてもともと家族だと思えてなかったのかもしれない。本当の家族に、なってみたかったなぁ。と浮かんだ思いを打ち消す。呪われたの子が家族なんて傍迷惑な話だろう。


 みんなに呪いのことを自覚せずに関わって悪いことしちゃったな、とも思う。はじめっから、誰とも関わらずおとなしくしてればよかった。きっとこの記憶は忘れてしまう。なので、ノートに私は関わった人も不幸にする。呪いを忘れるな、と書き留める。

 

 そうして、約2日かけて、やっと件の洞窟へと辿り着いた。恐る恐る、と言ったように、以前落ちた場所を押す。

 ここだ。正解だった。岩は崩れ去り、私は重力に引かれるままにぐんぐんと、下に落ちていく。


「い、たぁ、」

 一応、受け身を取ったので以前のように大怪我はしなかったが、高さは高さなのでとても痛い。むしろ、以前も今も死んでいないのが不思議なくらいだ。


 急がなきゃと、前へ進み出す。しかし、以前はどのくらい歩いて、悪癒晶があったところに辿り着いたのかわからない。謎の女の子に引っ張ってもらったから、本来より早くついていたはずだ。それに、以前より幼くなっているので歩幅も短いと言うデメリットがある。間に合うのかなぁと不安になり、駆け出した。


 以前のようにしばらくすると、不気味な音が聞こえた。以前はこの音がただただ怖かったが、今は以前と同じ様子に、安心する。魔境は近づいてるのかもしれない。


 そして、さらに雷のような爆音と光もあの時の再現のように現れた。あとは、あの女の子がくれば、辿り着けるはず。奥から、彼女はやってきた。しかし、以前より大きくなっている?と首を傾げる。


「縺雁ァ峨■繧?s?√☆縺斐>諤ェ謌代□縺ュ縲∵イサ縺励◆縺ゅ£繧具シ√%縺」縺。縺ォ縺阪※繧茨シ」

 

 ニタァと笑い、私の手を引っ張りかけ出す。はやいはやいと口に出しながら、あの時の再現のように上手くいき、喜ぶ。やがて、少女は止まって、どこかへ行ってしまった。


 今のうちだ、と悪癒晶を取り、出口へ駆け出す。魔境探索は今後する予定だが、今は一刻も早くお母さんの元に向かわなければ。


「莉イ髢、蠕?▲縺ヲ、騾?′縺輔↑縺???′縺輔↑縺???′縺輔↑縺」

 ひえっ。後ろから、何かを話しながら、ものすごいスピードで少女がこちらへ向かってきていた。振り返ることはしないが、音がすごい。間に合わない、と思う暇もなく、手を掴まれ、押し倒された。

 しまったっ、

 振り払おうと手に力を込めるが、びくりともしない。これじゃ、文字通り手も足も出ない。急いでるとはいえ、相手は人間じゃない。もっと武装すべきだった。焦りが強くなる。


 ニタニタ、と笑う少女の顔は変形していく。目はドロドロと溶け出し、皮膚は爛れ、口は裂けていく。それでも、少女、いや少女だったものは、にやにやしている。顔なんて認識できないのに、にやにやという表現が当てはまるきみの悪さを纏っていた。


 しかし、突然、不気味な笑いが止んだ。

「逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>縲?蜉ゥ縺代※」

 何かの叫び声のようにそう発し、少女は爆発した。内側から、黒い何かが散り散りに飛び散ったのだ。


「えっ、なに……?」

 突然の様子に唖然とする。とりあえず、助かった、のか?釈然としないが、ここから離れようと立ち上がる。

 一応、目的のものは手に入れたんだ。と帰ろうとすると、とんっと、肩に何かが当たった。


「いつか会うとは、言ったけど。まさかこんなところで会うとはね。お茶会なんてできる雰囲気ではないよね」


 声が聞こえる、と後ろを見ると、真後ろに誰かがいた。驚いて、エビのように飛び退けた。いつの間に。


「面白い動きするね。これはすごい」

 男は呑気に拍手をしている。この声にこの格好、それにお茶会というキーワードを聞き、思い浮かぶ人物が1人いた。前回も助けてくれたが、もしや今回も彼のおかげで無事なのかもしれない。


「村人Aさん?」

「正解。この前あった通り、ゆっくりお話ししたいところだけど、残念だ。君急いでるんだろう?君がこの洞窟に入ってから4日が経っている。あと数時間でゲームオーバーだ」

 4日?だって、1日も入ってないはずなのに。あと数時間と彼は言っているが、お兄ちゃんが言ったタイムリミットが本当なら、それじゃあ間に合わない。来るのに2日経ってるんだ、帰りだってそのくらいだろう。絶望的な状況に血の気が引いていくのを感じる。

 

「この空間は現世と時間軸がずれているからね。でも、安心してよ。ここは僕が手伝ってあげよう。傍観者に徹しようと思ったけど、そうはいかなくなったからね。お母さんの元まで連れてってあげよう」


 彼は、これはお守りだから外さないでねと、私に何かを埋め込んだ。ひえっと声を漏らす。文字通り、埋め込んだのだ。石みたいなものが胸の中に沈んでいった。そして、多分、全部入ったのだろう。石は私の肌に隠れて見えなくなった。これじゃ外さないでねというか、外せない。


 いきなりのことに「何するんですか!?」と抗議をしようとする。しかし、彼が指をパチンと鳴らすと場面が変わった。

 

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