第四話 絶体絶命!?一筋縄では行かないお父様とのディナー(2)
「ヴェルクス、ごめんね…、私のせいで一緒に閉じ込められちゃって……」
「別に、ルシアのせいじゃないよ。」
「でも…、ごめんね」
「大丈夫、ルシアは悪くないから。それより怖くないの?」
「え?あっ、そうだよね。こんな場所に閉じ込められたら怖いよね…、」
全く不安がないわけではないが、この状態が死に直結するわけでもなさそうだから、私は恐怖よりも心配や罪悪感の方が上回っていた。
むしろ、恐怖で考えたら、目に見えた危険がなさそうなこの部屋は前世で拷問部屋や牢屋、奴隷部屋、猛獣のいる檻に入れられた時よりずいぶんマシだと思う。
しかし、ヴェルクスにとってはとても怖いのかもしれない。初対面の時、震えていた姿が思い浮かんだ。私が落ち込んでいる場合じゃない。恐怖を取り除こうと彼の手をとる。
「でも、大丈夫!何があっても私がまもるから!」
「……………………」
ヴェルクスは、こちらを見たまま黙り込んでしまった。
「……信用、ないかな?一緒に捕まっちゃったもんね…、で、でも!次こそは、ちゃんと守るから!」
「……、そう言うことじゃなくて、」
「まずは、ここから出なくちゃね!外に繋がるところないかなぁ…」
何かないかあたりをきょろきょろ、見渡す。鍵のかかった出入り口が一つあるだけで、窓などは見つからない。目立つのは、古い机と椅子に、大きな棚だろう。
棚には何を模っているのかわからない変な置物がずらっとならんでいる。それらは、奇妙な不快感を放っていたが、同時に、どこか人を惹きつける雰囲気を持っていた。私は導かれるように手を伸ばす。
が、触れることはなかった。息を呑んだ音が聞こえた後、手を引かれ、目を隠されたからだ。
「ヴェルクス…?」
不思議に思って振り返ると彼の顔からは血の気が引いていた。
「ど、どうしたの!?具合悪い…?」
彼は何も答えずに、私のことをくるっと回転させ、抱きしめてきた。
「……?、大丈夫?」
あの変な置物が、怖かったのだろうか?もう一度、見てみようとしたが、ヴェルクスは離してくれなかった。
むしろ、先程より力いっぱいぎゅーぎゅーとしてくる彼に困惑するが、なんとなく、頭を撫でたり、背中をとんとんと一定のリズムで叩いた。
そして、体制を変えようとしても嫌がるし、声をかけても返事をしてくれないので、心配だが、彼の腕の中で大人しくすることにした。
彼から聞こえる心臓の音や彼のぬくもりはなんだか心地よくて安心するなぁと思った。
体感で数十分後。
「…落ち着いた?」
「……まだ」
「そっかぁ。…あの、何があったか聞いてもいい?」
「………」
無言で首を振られた。
「わかった、聞かないことにする。」
どうしたのか気がかりだが、返事があったことに安心し、脱出方法を頭で考えることにした。
もし、どこかに針金みたいなのがあれば、それで開けることができる。これが今のところ、最善かなと思った。次に、扉を壊す方法だ。強力そうな置物を選んで投げつければ壊せるかもしれない。壊せずとも、騒いでいたら、この部屋の前を通った人がうるさいと怒りに入ってくる可能性がある。その隙をついて逃げればいい。あとは、壁が薄いところを探すとかしてみよう。
ある程度考えがまとまってくると、ヴェルクスの腕の力が緩まった。
「…もう、平気。急にごめん。」
顔を覗き込むとさっきよりは良くなったが、まだ、本調子ではないようだった。
「全然いいよ!心配にはなったけど、ぎゅーは嬉しかったよ!むしろ、いつでもどうぞ!」
私は、そう言って、にこっと笑って腕を広げる。
「じゃあ、お言葉に甘えて、毎日お願いしてもいい?」
「えっ、あ、うん、いいよ?」
断られるか、流されると思っていたので、少し、いや、だいぶ驚いた。
驚いたのが面白かったのか、楽しそうにくすくす笑い、ありがとうと返ってきた。
「ここから出る方法なんだけど、まずは、針金みたいなもの探そうと思う。ブローチとかピンでもつけてくれば良かったけど、今つけてなくて」
「針金みたいなもの?」
「鍵穴、開けようと思って」
「わかった。棚のあたりは俺がみるからルシアは机と椅子あたりを探してよ」
「えっ!?棚は私が見るよ!ヴェルクスが机の方見てよ!」
「だめだ、これは譲れない」
「私だって、譲りたくないよ!私は不気味な置物、別に怖くはないよ、だから大丈夫!」
「俺も怖かったわけじゃ…」
「うーーん、じゃあ、こうしよう!先に棚以外を探して、見つからなかったら、後で考えましょう!」
その後、結局、針金のようなものは見つからず、棚を探す前に、第二候補のドアを壊す方法を取ることにした。ただ、置物を投げると言ったら、全力で反対され、椅子をぶつけることになった。
ドンッ、ドンッ!
私より力があるだろうヴェルクス何椅子を何回もドアに打ちつける。すると、
「誰か、いるんですか?」
青年の声が聞こえた。やったと、喜びながら助けを求める。女の人の声だったら、おそらくメイドで助けてくれない可能性が高いが、男の人でかつ私だとわかっていないなら、助けてくれる可能性は、充分ある。
「すいません、閉じ込められてしまったみたいで、ここを開けていただけませんか?」
「なんでこんなところに…、わかりました。少し待っててください」
と言って、足音が離れていく。
数分後。
ガチャとドアが開く。
ドアを開いた青年は、びっくりしたような表情をし、「ルシア…?」と尋ねてきた。