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第三十九話 長い誕生日前夜(3)

(ここで逃げてはだめです…!死んで楽になりたいなんて考えてはいけません!)

 っ…!痛い痛い痛い!!頭がカチ割れそうな痛みが襲ってくる。

 わたし、のこえだ。


(まだ、アルガイドに会ってません、今世こそ、今世こそは彼を見つけなければ!!)


 私の声はアルカイドを見つけて、と命じる。でも、アルカイドだって、私と会ったら、不幸になってしまうのではないか。


「「出会わなければ、よかった」」

 ふと、頭にアルカイドの声がフラッシュバックした。こんなこと言われた記憶がない。しかし、すとんと納得してしまう。アルカイドは、私と出会わなければよかったと思っているんだ。納得してるのに、どうしたって胸は苦しい。そんな、気持ち知りたくなかった。出会わなければ、なんて言ってほしくなかった。でも、言わせてしまってるのは、私だ…。私のせいだ。

 胃から何かが込み上げてくるのを感じ、手で押さえ、耐える。



 (……もう、終わりにしようよ、私が死んだら少なくとも今世でこれ以上の被害は)


 (そんなのダメです、今世がアルカイドに会う絶好のチャンスなんです、これを逃したらもう……)


 (いいじゃん、そのアルカイドだって私に会いたくないって、会わなければよかったって思ってるんでしょ!?)


 (ちがう!アルは……、)


 (…………何?)


 (アルは、っ、アルカイドのことは一回置いておきましょう。冷静に考えてください。呪いをかけられた記憶がある今世が、呪いが不完全な今世が、呪いを解くのにも絶好の機会です。今世解けなければ、今後も周りに迷惑かけますよ。きっと呪いは来世も続いてしまいますから)


(そ、れは)


(それに、ここで私が死ねばエイオラの滅亡を阻止する方法がなくなってしまいます)


(前も言ってたけど、それってどういうことなの?なんで私なの?)


(これ以上は言えません。いずれ生きてれば分かると思います)


(なんで教えてくれないの?重要なことなんでしょ?)


(そういう決まりだからです)


 っ!?頭痛がさらに強まっていく。もう1人の私の声は遠くなる。

 

 そして、聞こえるようになってくるのはヴェルクスの声だ。

「ルシア、しっかりして!」

「う、ん」


 私と話している間に冷静に頭が回るようになった。それでもやはり、胸が痛むのは変わらないが。

 でも、これからどうしようか。私に言われたことは、一理ある。死ぬなら、呪いを解いてからにしなきゃ。

 ここから、逃げ出すとして、ヴェルクスはどうしようか。私と一緒に連れていくわけにはいかない。今までみたいにアルブレヒトお兄ちゃんに面倒見てもらうなんてもってのほかだし、エドヴァルトお兄ちゃんとは相性が良くないみたいだし、お父さんのことも苦手だろう…。教会に連れていくのが一番かな。でも、素直に聞いてくれるかなと、不安になる。今の生活より、貧しい思いをさせてしまうのは確定だ。将来の幅だって狭めてしまうかもしれない。しかし、それしか方法がないのだ。アルブレヒトお兄ちゃんに狙われている今、ここにヴェルクスを置いていくわけにはいかないし、連れ回るのもダメ、どこかに捨てるなんてできないし。

 


 そうと決まればまずここから出よう。

「ヴェルクス、私はもう大丈夫だよ、心配させちゃってごめんね」

「大丈夫なわけないよ、なんでこんな時まで無理するの…」

 こちらを不安気に覗き込んでいるヴェルクスに、大丈夫だと伝えると、彼は一層表情を歪ませた。でも、私は無理はしてない。してないから。まだ大丈夫。ここから出て、早く終わらなきゃ。

 

「無理してないよ、大丈夫だよ。ヴェルクスの言うとおり、早くここから出ようね」

「だから、そういう顔やめてって。無理に笑われたって、嬉しくない。そんなに俺は頼りないの?」

 そんなことない。彼は充分頼りになる。アルブレヒトお兄ちゃんだって、ヴェルクスが頼りになるって言っていた。お兄ちゃん…、なんで……

 気持ちが沈んで行くがぶんぶんと頭を振って打ち消す。

 

「そんなことないよ、頼りにしてるよ」

「違うよ、だって全然弱み見せてくれないじゃん、苦しいとか、辛いとか、助けてとか、もっと俺に話してよ。吐き出してよ」

「そんな思ってないよ、大丈夫だから」

「だから、大丈夫なわけないでしょ!?大好きだったお兄ちゃんにわけわからない理由で恨みをぶつけられて、こんなところに閉じ込められて、挙句の当てに殺すって言われて、傷付いてないわけないよね。なんで俺にまで隠そうとするの!頼ってよ、助けてって言ってよ!俺に守らせてよっ……!」

「ほんとに大丈夫だから。守ってもらうことのほどじゃないよ。こんな檻簡単に出れるし、心配しないで」

「なんで、なんでルシアはわかってくれないんだよ!!」

「ヴェルクス、落ち着いて。ここでそんな大声出したら、」

「いっつもいっつも、無茶ばっかり、無理ばっかりして、全然頼ってくれないし、」


 彼の瞳には涙が溜まり、それを拭おうと手を伸ばす。しかし、バシッと私の手は払われた。彼によって。


「ルシアなんて大っ嫌い!!!

 アルブレヒトもアルブレヒトだけど、ルシアもルシアだったんじゃないの?結局、どっちもお互い家族だって思ってなかったじゃないの!!今だって涙ひとつすら、見せないなんて、ほんとに傷ついてないの!?ほんと冷たいね、レオンハルトやアルブレヒトと血が繋がってるだけあるね!!みんなして人の心がないんじゃない?」


 彼は、勢いに任せて、感情的に、そう言った。

 っ、わたし、だって。わたしなんて、きらいなのに、

それに、お父さんとお兄ちゃんのこと、わるくいわないで、

 私は言いたいことはたくさんあったのに。膝をついて、下を向くしかなかった。

 それでも、彼の言うとおり、涙は出なかった。反対にヴェルクスはぽろぽろとそれを流している。


「図星なの?なんでいい返してこないの?

……もういい、」


 その言葉をきっかけにこの檻の中は、静寂に包まれた。

 

 私はどこから間違えたんだろう。

 ヴェルクスと仲良くしたこと?アルブレヒトお兄ちゃんと一緒に過ごしたこと?この家に生まれてきてしまったこと?アルカイドと旅をしたこと?呪いを受けたこと?アルカイドと出会ってしまったこと?

 全部間違えだと言いたくないけど、全部間違えだった。

 失敗と間違いだらけの人生に嫌気がさす。


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