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第三十六話 嵐の前の静寂な日常(c-4)

馬車に向かうと、誰もいなかった。しかし、馬車はあるので、帰ってはいないということだ。わぁ……、どうしよう……、落ち着きなく馬車の周りをぐるぐると回る。お兄ちゃんたちを探しに行って、すれ違ったら大変だし、うーん。


「っ、ルシア!!どこ行ってたんだよ!!」

 しばらくぐるぐる回っていると、ヴェルクスの声が聞こえた。

「あ、ヴェルクス、ごめんなさい、待たせちゃって」

「ほんっとに、ルシアは俺に心配かけるのが趣味なの?」

「違うよ、でも、ごめんなさい」

「許さない」

「えっ……、」

 ヴェルクスは、相当怒っているみたいだった。それはそうだろう。あんなに忙しいって言ってたんだから、私に割く時間なんてないはずだ。先に帰って貰えばよかった…。


 しばらくすると、エドヴァルトお兄ちゃんも帰ってきた。息切れしていて、走って探してくれたことが分かる。

「…よ、かった。戻ってきてたんだ」

「あ、エドヴァルトお兄ちゃん、ごめんなさい。時間取っちゃって」

 

「そうじゃないよっ!!」

 ヴェルクスが途中で割り込んでくる。

「えっ…と」

「時間がどうとかじゃなくて、何があったんじゃないかって心配してるんだよっ!!」

「…、心配かけてごめんなさい」

「ルシアはほんとにわかってるの?」


「ちょっと待って。そんなに強く言わないであげて」

 エドヴァルトお兄ちゃんが私とヴェルクスの間に入ってきた。

 

「だって、言わないとわからないんだよ、ルシアは!

 まあ、言っても分かってないみたいだけど」

「だからってそんなに怒鳴ることない。しかも、ヴェルクスはルシアにも兄さんにも当たりが強すぎ」

「いまそれは関係ないよね?」

「関係ある。ヴェルクスこそ自分の立場分かってる?」

 

 いよいよ、2人の空気が険悪になってきた。

「ヴェルクス、今度から心配かけないように気をつける。できるだけ……」

 

「信用ならない」

「ルシア、もうほっとけばいい」


 さーっと血の気を引かす。もう喧嘩になってしまう。私がなかなか帰ってこないせいで。短略的な行動をしすぎたのだ。先に帰ってもらうとか、後日1人で来るとか他の方法はあったのに。劇の内容が気になって、3人にまで気を回せなかった。

 せっかく、みんなで楽しくお出かけだったのに。そういえば、アルブレヒトお兄ちゃんと前に出かけた時も、多大なる迷惑をかけてしまった。

 

 考え込んでいる間に、2人の言い争いはヒートアップしている。もはや、内容が今回のこととは離れてしまってもいる。


 2人の声をかき消すように、膝をつき、顔を伏せ、全力で謝った。

 

「申し訳ありませんでした。今後、みんなといるときにどこかにいかないように気をつけます。そもそもみんなとお出かけするは今後控えます。それなら、きっと雰囲気を悪くするようなことにはならないはずです。全部私が悪かったです。どうか、喧嘩はやめてください、もう、しない、から…………」


「ちょっと、ルシア!?何やってるの?立って立って」

 アルブレヒトお兄ちゃんの声が聞こえ、顔を挙げる。お兄ちゃんは、私を持ち上げたたせた。その後、服についた泥をぱたぱた、払う。


「お兄ちゃん、ごめんなさい…」

「どうしたの?何か悪いことしちゃったの?」

「その、時間無駄にして、心配もかけちゃったから」

「俺のほうこそごめんね。1人にしちゃって」

 アルブレヒトお兄ちゃんは、私をぎゅーと抱きしめる。よ、汚れちゃう…、と逃げようとするが、いいから。と言われ逃げられなかった。

「怪我はない?」

「…、ない」

「それはよかった、けど。そんな顔して何があったの?」

「そんな顔?」

「悲しそうな顔」

「してないよ?」

「お兄ちゃんには話してくれないの?頼りない?」

「そうじゃない、けど」

「うん」

「また、迷惑かけちゃった……」

「迷惑はかけていいって言ったよね?遠慮されたら寂しいよ。家族なんだから」

「迷子みたいになっちゃった…、ならないように言われてたのに」

「それは、俺たちの注意不足もあるよ。俺だってルシアとだいたい同じくらいの時よく迷子になってたし、さすが俺の妹だね」

「それは、さすが、なのかなぁ……」

「俺としては自分と似てるとこ見つかって嬉しいよ。まあ、欠点?みたいなのが似てるのは良くないかもだけど」

 アルブレヒトお兄ちゃんは、必死に励まそうとしてくれているのが分かる。

「それに、ルシアはいい子ちゃんすぎるから。たまにはどーんと迷惑かけてお兄ちゃんぶらせてよ。こんな迷子なんかじゃ全然足りないよ。俺の8歳ごろなんてすごかったよ。高そうな絵画に落書きしたり、花瓶壊したり、窓割ったり、……」

 あまりの話についつい質問をしてしまう。

「お、お兄ちゃん、それは、お父様とか怒らなかったの?」

「父さんは他のことで手一杯って感じだったかな。

 びっくりしたかな?」

 こくんと頷く。今のお兄ちゃんから全然想像つかない。

「ルシアもエドヴァルトももっと俺を見習うべきだよ。2人とも俺にも父さんにも壁を作りすぎだよ。ほらほら、遠慮しない。俺じゃなくてもヴェルクスを見習うのでもいいよ。返事は?」

 私が頷くと、エドヴァルトもだよとアルブレヒトお兄ちゃんは振り向いた。エドヴァルトお兄ちゃんもアルブレヒトお兄ちゃんの話にびっくりしてたようでかたまってたが返事を求められて、こくりと頷いていた。


「うん、2人とも返事できてえらいね。じゃあ、帰ろうか」

 

 お兄ちゃんにつられて馬車に乗り込む。しーんとする馬車内で、アルブレヒトお兄ちゃんは私を膝の上に乗せながら、今度は正面に座るエドヴァルトお兄ちゃんとヴェルクスに問いかけた。


「それで、2人は何をしていたの?ルシアが泥だらけだけど、まさか2人があんな体制させたわけじゃないよね?」


 問われた2人は引き攣った顔をしていた。


「違うよ、お兄ちゃん。2人は悪くないの。私が悪くて……」

「でも、少し2人の意見も聞きたいかな」そう言いながら、アルブレヒトお兄ちゃんは、私の頭を優しく撫でている。黙っててという圧を感じ、口をつぐむ。


「2人とも話せないほどつかれちゃった?じゃあ、今はゆっくり休んでね。明日じっくり話を聞くことにするよ」

 

 エドヴァルトお兄ちゃんがこちらを見つめ、声をかけてくる。

「ルシア、ごめん。怖がらせちゃった」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「私の方こそ…」

「僕も怒ってない。気にしてないから。人混みすごかったんだから、近くまででもついて行くべきだった」

 再び、首をぶんぶんと横に振る。

「兄さん、僕もルシア抱っこしたい」

 そうエドヴァルトお兄ちゃんがいうと私はエドヴァルトお兄ちゃんの膝の上に抱えられた。

「ルシア。怖がらせちゃって、ごめんね。でも、ルシアももうあんな格好しないでね。ルシアは僕たちの奴隷じゃないよ。それと、無事に帰ってきてくれてありがとう。誘拐とか事件に巻き込まれてなくてよかった」

 エドヴァルトお兄ちゃんにそう言われて、私もぎゅーっと抱きついた。

「ごめんなさい、ありがと、お兄ちゃん」


 この後、馬車に揺られながら寝てしまったらしい。起きた時には、自室の布団の上だった。起きると横に置き手紙があった。「言いすぎてごめん、しばらく用事があるから会えなくなる」と置き手紙があった。

 そして、この日以降、しばらくヴェルクスと会うことはできなかった。





 


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