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第三十二話 嵐の前の静寂な日常(b)



 チクタクという音と、本を捲る音が響く。

 

 悪魔退治の本を読む。退治や祓うまで行かなくても、魔境に入って生きて返ってくるためには、悪魔の欠点やいざという時の攻撃方法を知っておいて損はないだろう。

 

 呪文に聖水、十字架。

 ここら辺は使えそうかもしれない。ただ、呪文は私が唱えても効果があるのか、聖水はどうやって作るのか、十字架はどんなものでもいいのかが疑問だが。


 悪魔の前でなぞの踊りを踊り出す方法は見るからに効果がなさそうだし、天使を捕まえて戦わそうと書いてあるのは天使と会うのこそ難しそうだしなんか冒涜的だ。  

 また、幻獣の一部とかが必要と書いてある部分も幻獣を捕まえる時点で不可能だ。

 好きな食べ物で釣ってその間に倒そうとも書いてあるが、悪魔は何が好物なのかは書かれていない。そもそもアルカイドは食事をしてなかった。魂を食べるとか入っていたが、少なくとも私といる間は人間の食べ物は口にしてない。


 その中で目を引く方法があった。悪魔が触ると火傷する石があるという。以前なら、他の方法と一緒で出鱈目だと思っただろう。しかし、そのページには記憶と引き換えに病気が治る石の記述もあった。きっと、悪癒晶のことだろう。たまたま空想の石を書いたら当たっていた可能性もあるけど、今の私にとって一番信用できる方法だった。

 しかし、これが存在するのも魔境らしい。魔境に入るときのための対策を考えたいのに、魔境に行かないとと手に入らないとは…。


 ふと、時計を見ると14時半。15時からはお父さんたちとお茶会をすることになっていた。朝から読み始めていたのに気づけばこの時間だ。遅れたら大変と急いで中庭へ向かった。


 ―――――――――



「お父様、今日はお茶会にお招きいただきありがとうございます」


 中庭の真ん中にあるおしゃれな椅子に座っているお父さんに、そう言ってお辞儀をする。


「ああ」

 短く帰ってきた返事を聞き、私も椅子に腰掛けた。

4人用のテーブルだと思ったが、椅子は2つしかない。

 

「あの、お兄ちゃんたちは、ご一緒ではないのですか?」

「…今日はいない。俺と2人では不満か?」


 ぶんぶんと、首を横に振った。

「不満ではありません。少々驚いただけです」

「…そうか」

「はい」


 テーブルを見ると紅茶と小さいケーキがいくつも並んであった。

 

「今日のケーキとっても美味しそうですね」

「ああ」

「いただきます!」

 

 一番真っ先にいちごケーキから口をつけた。

 

「…どうだ?」

「美味しいです!!ほっぺが落ちちゃいそうです!!」

「そうか」

「クリームがお口の中でとろけます!!とろっとろです!!スポンジはふわっふわっです!!いちごはあまっあまっです!!」

「ふっ、…そうか」

 お父さんは、ケーキの感想を言う私に、おかしいというように笑った。


「ほんとですよ?ほら、食べてみてください!」

 そう言ってフォークを差し出す。

「…ああ、とろとろでふわふわであまあまだったな」

 ケーキを食べたお父さんは、いつもよりご機嫌そうな声でそう告げる。

 出会った時に怖がっていたのがおかしいくらいに、穏やかなお茶会だと思う。お父さんに対する警戒はもう解けていた。


「剣の方はどうだ?」

「先生にはとてもよくしていただいてます。それに、身体を動かすのはとっても楽しいです!いつも剣術の日を今か今かと待ち侘びてます」

「そうか」

「お父様が強かったと良く耳にしますが、最近は離れてしまっているのですか?もし稽古とか参加しているものがあったら、見てみたいです!」

「ああ、わかった。機会があったら、お前を呼ぼう」

「わーい、ありがとうございます!」


「あの少年はどうした?」

「ヴェルクスですか?」

「ああ」

「この前アルブレヒトお兄ちゃんと一緒の時に会ったのですが、以前よりしっかりした感じがして感動しました」

「…そうか」

「今はお兄ちゃんにほとんどつきっきりなので、アルブレヒトお兄ちゃんの方がヴェルクスのことに詳しいかもしれません」

「…最近はあまり遊べてないのか?」

「いえ、時間の合間で会いにきてくれますよ!少しですが!おしゃべりしてます!」

「…そうか」


「エドヴァルトはどうだ?」

「以前、お話したようによくしてくれます!アルブレヒトお兄ちゃんもヴェルクスも忙しいので今一番私の面倒を見てくれているのはエドヴァルトお兄ちゃんだと思います。あっそうだ。お父様これを!」

「…なんだ?」

「花冠です!さっきエドヴァルトお兄ちゃんと一緒に作ったんです!これはお父様の分です!」

 と言って一つの花冠をお父さんに差し出す。私の分はお兄ちゃんが作ってくれました。と言って、貰った花冠を頭に被った。

「…ありがとう」

「はい!」



 そうして、話題を弾ませながらお父さんとのお茶会は幕を閉じた。

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