第三話 絶体絶命!?一筋縄では行かないお父様とのディナー(1)
「もうそろそろ休憩にしない?」
ぱらぱらと、本をめくり、ため息をつく。
アルカイドについても、悪魔についても、魔術についても、言い伝えについても何も見つからない。アルカイドについての情報を探し続けて、3年。この大きな図書室でも関連している本は読み尽くしてしまった。そろそろ、外にも探しに行こうかなぁ。
「ルシア?聞いてる?」
まず、聞き込みかなぁ。でも、6歳の子供相手に答えてくれる人はどのくらいいるだろう。初対面の私の好感度はただでさえものすごく低い。今までの転生歴から言って私に好感を持ってくれた人はいないのではないかと思う。
「朝から何も口にしてないし、そろそろ何が食べない?もう夕方だよ」
やっぱり、先にアルカイドとの思い出の地巡りがいいかなぁ。その間を縫って、書籍でも情報を探そう。
「はぁ…聞いてないな。」
むにっ。突然、頬がつねられた。
「ひゃ。いきなりどうしたの?ヴェルクス?」
「いきなりじゃないよ。ずっと話しかけてたのに、ルシアが無視するから……」
「えっ、そうだったの…ごめんね。つい考え事に夢中になっちゃって」
「考え事もほどほどにね。」
ヴェルクスは、先日私がお父さんから庇った男の子だ。あの時は薄汚れていて痩せ細っていたが、風呂に入り傷の手当をし、ご飯を一緒に食べ、回復してきたように見える。
うんうん、傷も薄くなってきてよかった。ヴェルクスの顔を見つめる。改めて見ると、綺麗な顔立ちをしている。
「ほんとに、ヴェルクスはかっこいいなぁ。瞳はきらきらしてて、本物の宝石みたい。青いからサファイアかなぁ。でも、私はサファイアよりずっとヴェルクスの目の方が好きだな。」
「ル、ルシア…?」
「白銀の髪も、ほんとにきれい。あれ、そういえば、アルカイドの髪もきれいな白銀だったな。」
空中で手が掴まれた。 無意識にヴェルクスの髪に伸ばしていたようだ。
「ごめん、きれいだなぁって思ってたら、つい手が伸びてたみたい。嫌だったよね。ごめんなさい。」
「……、それは気にしないで。それより、アルカイドって誰?」
「アルカイド?なんでいきなり…?」
「さっき、ルシアが言ってた。アルカイドの髪も白銀だったって」
「えっ!?いつのまにか、声に出てたの?」
「うん、それで誰なの?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろう…、尋ね人かなぁ?」
正しくは、人ではないが、いきなり悪魔を探していると言うのも変だ。
「ふぅん。」
あれ?機嫌悪くなった?
「ヴェルクスはアルカイドのこと知ってる?」
「知らないよ」
「そっかぁ、残念……」
そこに、メイドたちが駆け込んでくる。そして、見知らぬメイドが口を開いた。
「ルシア様!旦那様がお待ちですよ、約束をほったらかしてどこへ言ってらっしゃったのですか?」
旦那様とは、この屋敷の主人レオンハルト・シュバルヴォルフ、この前一度だけ会ったお父さんのことだ。
「えっと、私、お父様と何か約束してましたか?」
「まあ、なんてこと!今日のディナーのご招待をすっぽかし、忘れたふりをするなんて!」
「確かにお父様からディナーのお誘いをいただきましたが、日にちは来週だと聞いておりました……」
「ルシア様に日付をお伝えした者は誰ですか?」
「はい、私です。しっかりと今日だとお伝えいたしました」
「アンナもこう言っているじゃありませんか。旦那様との約束をすっぽかした上、嘘までつくなんて………」
ばちん、と勢いよく、頬を叩かれた。
「信じられません!どれだけ無礼なことがわかっているんですか!?旦那様もとてもお怒りですよ!」
メイドたちは、お父さんとの約束を破ってしまった私にとてもお怒りのようだった。怒号を飛ばすメイドを中心に、多くのメイドたちは私の悪口を言っていた。でも、きちんと確認しなかったのは、私が悪い。約束の時間まであとどのくらいかわからないが、約束の場所へ向かい、はやく謝らなければ。
「…申し訳ございませんでした。今後、このようなことが起こらないよう細心の注意払います。約束の時間をこれ以上過ぎるわけには行かないので、ここで失礼致します。呼びに来ていただき、ありがとうございました。」
「いえ、もう行かなくて結構です。それよりも旦那様は罰として、ルシア様を監禁することを命じました」
と、手を掴まれた。そこにヴェルクスが割って入ってきた。
「俺も聞いていたけど、その人、ルシアに来週の日付で伝えてたよ。それに、仮にも旦那様の娘を叩いて怒鳴りつける方が無礼だと思うけど……」
驚いて、ヴェルクスに庇わなくていいから、逃げてと耳打ちしたが、彼は首を横に振った。
「まあ、いつの間にこの屋敷にはドブ鼠が入り込んでいたようね。ずいぶん、ルシア様と親しいようだけど、そうね。せっかくだし、一緒に監禁しようかしら。その方がルシア様にとっても嬉しいですよね?」
「ちょっと、待ってください。この人は関係ありません!」
なんとか、ヴェルクスだけでも逃そうとしたが、結局、2人してよくわからない部屋に閉じ込められてしまった。