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第二十六話 エドヴァルトの家族事情(4)

「さっきの話だよね?」

 一呼吸を置いて行われた兄さんの問いかけに僕は頷いた。

「特に話すことはない」

 そこで今まで黙っていた父さんに遮られて、怯む。どうして。やっぱり、父さんは僕のこと認めてくれてないから?それとも、僕に聞かれちゃまずいことでもあるの?

「父さん!!」兄さんがそれに対して咎めるように声をあげた。

「お父様には話すことがないかもしれませんが、聞きたいことがあるので答えてくださいませんか?」

 ルシアも会話に入ってきて、そう告げると、「なんだ?」と短く返ってきた。聞いてくれる気にはなったらしい。しかし、相変わらず、僕への視線は冷たかった。

「父さんは、ずっと前から僕のこと嫌いだったのですか?僕と血が繋がってないから…」

 父さんの冷たさに思わず、声が震えた。もうすでに厭われていたのかもしれない。

 その言葉を聞いた父さんは少し驚いているように見える。

「嫌ってなどいない。それに、血の繋がりはお前の気にすることじゃない」


「えっ……?」


「だから、嫌ってなどいない。なぜ、そんなことを問うのだ?」


「だって、僕に冷たいじゃないですか。それに、関心なさそうですし」


「そんなことはない」

 父さんはちょっと困惑しているように見える。すかさず、兄さんが割り込んできた。


「父さんは誤解を与えることが多いけど、ちゃんとエドヴァルトのこと気にかけているよ。食事の時とか、エドヴァルトがじゃがいも料理好きなのに気づいて、それを多めに入れるように料理人に話したり。毎年父さんから送られる誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントもメイドや執事にこっそりエドヴァルトの好きなもの聞き出したり、」


 兄さんから説明されることは、驚くことばかりだったが、どれも心当たりがあることばかりだった。それに、父さんが僕のこと褒めていたとも話していて驚いた。


「でも、血の繋がりは父さんにとって大事なことなのですよね?」


「なぜだ?」

 逆に問われて困惑する。ここでも、兄さんが会話に入ってきた。

 

「もしかしたら、エドヴァルトはシュバルヴォルツ家の子じゃないから家を継ぐべきではない、って父さんが言ったのを気にしてたからではないですか?」

 

「それは、このシュバルヴォルツ家じゃなくて、いつかお前が生まれた家をたて直した方がいいと思って言ったんだ」


「僕が生まれた家?」


「アインシュミット伯爵家だ」


 立て直すと言っていた。では、僕のお父さんとお母さんは今どうなっているのだろう。


 父さんは手短にアインシュミット家について話してくれた。僕の血の繋がった父さんと母さんは火事で亡くなったらしい。その中で唯一の生き残りが僕だったと。たまたまその火事現場の近くにいた母さん(ダイアナ)が僕を自分の子として育てたいと主張。加えて、実の父さんと母さんの親戚もすでに亡くなっているか、仲が悪かったので、僕を育てられる人がいなかったらしい。教会に預けることもできたが、あまりいい待遇は期待できなかったらしい。結局、母さん(ダイアナ)に押される形で父さん(レオンハルト)は僕を自分の子供として育てることを決意。

 父さん(レオンハルト)としては、僕のこともアルブレヒト兄さんやルシア同様に実の子として扱っていたらしい。なんなら、おしゃべりな兄さんやルシアはどちらかというと母さんに近く、口数が少なめな父さんに似てきた僕を少し心配してたらしい。

 

 ちなみにアインシュミット家はエイオラの貴族として必要な家系だから、その血を継いでる僕が立て直した方がいいということだった。そのことに対して、兄さんは僕の意思を尊重した方がいい、なんなら、その家の役割も担いながら、エドヴァルトにシュバルヴォルフ家を継いで貰えばいいと主張していた。



 


 ルシアの言うとおりだった。話を聞かないとわからないことばかりだった。


「じゃあじゃあ、父さんは僕のこと、嫌いじゃなかったの?」


「何度も言わせるな」


 冷たい口調を裏腹に頭に温かい父さんの手が乗ったかった。胸が暖かくなって行き、涙が溢れた。

 父さんの動揺が伝わる。


「なぜ泣く……?」


 そんなのわからない。勝手に流れてくる涙に困る。この前から急に泣き虫になってしまったようだ。


「きっと、安心したのでしょう。父さんは言葉が少なすぎます。それじゃ不安になるのも当然です」


「それは、悪かった。聞きたいことがあるなら、構わず聞け」


 事の成り行きを見守っていたルシアが良かったね!お兄ちゃん!と笑いかけてくる。しかし、その笑顔は少し寂しそうにも見えた。


「ルシア……?」


「あっ、この際だから、アルブレヒトお兄ちゃんにも何かあれば言っちゃうのはどうかな?」


「俺にか…?うん、なんでもどうぞ!」


 寂しそうな顔は勘違いだったのかもしれない。いつもと変わらぬ笑顔で話を続けた彼女に兄さんも同意を示した。


「兄さんと壁を感じるのが、嫌だった」


 この際だから吐き出してしまうことにする。兄さんも少し驚いていて、予想外の言葉だったらしい。


「兄さんは、僕のことよく気にかけてくれるし、話しかけてくれる。けど、なんか、隠されてる気がするし、なんか遠慮されてるみたいで、壁を感じる、から、それがやだ、った」


「………………」

 兄さんは黙り込み、次の瞬間、僕の身体に衝撃が走った。兄さんに勢いよく抱きしめられたらしい。


「そっかそっか!それは寂しい思いをさせちゃってたんだね。エドヴァルトは覚えてないだろうけど、ちっちゃい頃にエドヴァルトを構いすぎで嫌がられたんだ。それで、抑えてたんだけど…、じゃあ、これからは遠慮なく行かせてもらうね!」


 それはもう勢いよく、撫で回された。いきなり、供給過多というか、愛情過多というか、驚いて、ルシアに助けを求める目線を送ったが、エドヴァルトお兄ちゃんよかったね〜!と嬉しそうにほわほわしていた。可愛いけどそうじゃない。


 父さんはこちらに気に留めず、仕事の続きを始めたようだ。一応兄さんにも声をかけていたが兄さんは聞いていないのか、諦めたようだ。


 しばらくして、ヴェルクスという少年が再び入ってきて統計資料を置いてった。彼は、弟にもこうなの…?じゃあ、あんまり心配する必要ないのかな?とよくわからないことを呟いている。兄さんに今日は可愛い弟がデレた記念日だから、仕事はもういいよ!と告げられ、若干引きながら、ルシアを連れて部屋を出てった。ルシアは今度遊びに行くね〜!と手を振ってくれた。


 それからしばらく、構い倒され、疲れでげっそりした気がした。幼い頃の兄さんがこの勢いだったら、当時の僕が嫌がるのは納得かもしれない。



 

 それはともかくとして。今日やっと、みんなに近づけた気がした。衝撃の事実もあったし、それによって今までで一番悲しい思いもしたけど。ルシアのおかげで、父さんや兄さんに大切にされていたことに気づけた。2人に認められていることを知ることができた。自分の生い立ちを知ることができた。

 僕の不安を全部取りさり、ここにいていいんだと思わせてくれた。


 以前にもらった手紙を思い出す。何ヶ月も前のことだけど、返事を出してみるのもいいかもしれない。きっと、彼女は喜んでくれるだろう。兄さんにでも彼女の好きなものを聞き、それを添えて。

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