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第二十三話 エドヴァルトの家族事情(1)

ルシアの兄、エドヴァルト視点のお話です。


「兄さんの嘘つきっ!!!」

 シュバルヴォルツ家に珍しくエドヴァルトの叫び声が響き渡った。


――――――――――

  

 僕には、兄と妹がいる。

 

 兄はすごい人だ。何を取っても他人より早くそつなくこなす。父さんが才能の塊みたいな人だから、兄さんはまだまだだと言われているみたいだけど、僕からしたら十分すぎるくらいだ。それに、性格面でもできた人だ。自分の才能に鼻をかけることなく、気さくで面倒見がいい。欠点がないんじゃないかと思ってくる。

 妹も天才型なんだと思う。兄さんの話によると兄さんすら難しくてよくわからない本を読めるらしい。また、少し前の剣術のテストがそれはもうすごかった。絶対無理だと思っていたのに、最年少で騎士団入団の試験をクリアした少年から一本とってしまった。性格面は、可愛らしい感じだと思う。愛想がいいし、礼儀正しい。ほんとにいい子って感じで、人の悪口とか言ったことなさそうだった。

 かくいう僕は、明らかに他人より劣っていた。何をやってもうまく行かない。人の何倍も努力して、やっと人並みだ。加えて、性格も兄や妹のようによくはない。2人と正反対で喋るのが苦手で、無愛想だ。



 僕の家族関係は希薄だ。

 

 父さんは僕にあまり干渉してこない。避けられているわけではないと思うが、多分そういう性格なんだと思う。

 母さんとは年単位で会っていない。遠くにお仕事に行っているらしい。

 兄さんは、ちょくちょく声をかけてくれるので、一番関わりがある。と言っても、連日で会うことは少ないし、何かを隠されているように感じる。

 妹とは、彼女が生まれてから6年間会ったことがなかった。今だって、会った回数は数えられる程度だ。


 と言ってもこれまで特に気にしたことがなかった。比較対象がなかったし、これが普通だと思っていたから。それに、身の周りをお世話してくれる人たちがいたので特に困ることもなかった。



ーー、でも、僕だけは、本当の家族じゃなかったらしい。


 確かに外見の時点で、一緒に暮らしている父さん、兄さん、妹とは異なる。3人は共通して綺麗な金色の髪なのに、僕だけ紺色だ。母さんが黒髪だったから、俺はそちらに似たのかと思ったが、彼らとは血のつながりがないとわかった今、それは関係ない。

 他にも、才能、性格、雰囲気、どれをとっても、なんの特徴一つも彼らに似ていないと思えてくる。


 ――――――――――


 扉の向こう側では、父さんと兄さん、そして、何人かの彼ら部下がこちらを凝視していた。それは、そうだろう。彼らが大事な話をしてる時に割り込み、普段出さない大声で叫んだんだから。


 この部屋の前を通った僕は兄さんと父さんの口論する声が聞こえた。穏やかな兄さんが荒げているのも珍しかったし、口数の少ない父さんがいくつも言葉を返しているのも珍しかった。

 聞こえ、わかったのはこうだった。シュバルヴォルツ公爵家を継ぎたくない兄さんと兄さんが継がなければならないと主張する父さんの対立。

 正直、兄さんの主張は僕も賛成できなかった。長男であり、父さんみたいになんでもできる兄さんが継げば安泰だと思う。地位も財力も名誉も持ったこの家を継ぐのに何の不満があるのだろう。

 兄さんの言い分は教育を受けるのが、仕事が回ってくるのがやだという内容だった。それにより自由がなくなるのが嫌だそうだ。兄さんは勉強が好きなはずだし、そんな理由で嫌がるなんて兄さんらしくないと思った。

 そこで兄さんは僕に家を継がせればいい、と父さんに言った。

 そして、父さんは「エドヴァルトはシュバルヴォルツ家の子じゃないから家を継ぐべきではない」と答えたのだ。


「、それ、どういう、」

 思わず、声を出し、扉を開いてしまった。

「えっ?エドヴァルト、もしかして、聞いてたの?」

 少し動揺を見せながら、兄さんが僕に問いかけてくる。

「ねえ、僕がシュバルヴォルツ家の子じゃないってどういうこと…?」

 兄さんの問いかけなんて、僕の様子を見ればわかることだろう。それよりも兄さんに詰め寄った。

「そんな話してないよ?エドヴァルトの聞き間違えだよ」

 さっきの動揺はどこにやったのか。ほんとに僕の聞き間違えのように平然と、話す。

 それに、エドヴァルトは心配しなくても父さんと母さんの息子で、俺の弟で、ルシアのお兄ちゃんだよ。と付け加えた。


「……、さっきのお前の質問に答えよう。そのままの意味だ。お前は俺たちとの血の繋がりはない」

 兄さんの声を遮って、父さんはそう発した。慌てたように、「父さん!!!」と兄さんが怒る。

「いずれか、知ることになる」

「そうですが、今の必要はないでしょう、もう少し大人になってからでも」


「血が繋がってない…?僕だけ…」


「ああ、」父さんはそう短く告げ、「いや、でもな。俺はお前のことほんとに弟のように、」と兄さんは自分が悪いことをしたように慌てながら、言葉を付け足してくる。


 本当の家族でなかっだことの動揺と悲しさと寂しさでぐちゃぐちゃした心は、兄さんが取り繕ったように弟だと主張することを拒否し、「兄さんの嘘つきっ!!!」と叫んだ。


 静まり返った空間で数人の目に凝視される。途端に血の気が引いていくのを感じる。


 そのまま、真っ白な頭では何も考えられずに、身体は部屋に逃げ込むことを選んだ。途中、何かにぶつかり、「きゃっ、」という声が聞こえたが、なりふり構わず、走り続けた。

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