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第二十一話 ヴェルクスの決意(5)

前回同様、ルシアが第六話で倒れてから第八話の目を覚ますまでの間の時間軸のヴェルクス視点のお話です。

「おはよう。まさか君まで倒れてしまうとはね」

 目を開けると、アルブレヒトの声が聞こえる。

 でも、安心して。君の原因は毒じゃなくて疲れだろうって。しばらく休めば治るらしいよ。と続け様に聞いた言葉に飛び起きた。


「っ、ルシアは……?」


「状態が落ち着いたみたい。今は静かに眠っているよ」


 その言葉を聞き、一安心した。それよりも、と彼から話が続いた。

「ルシアの状況が好転したのは、君が倒れてからすぐ後のことだ。俺にはーー…。いや、何でもない。聞きたいことは、何か心当たりはあるかな?」

 

「疲労の…?別にないよ。

 強いて言えば、アンナってやつに閉じ込められたことだけど」


 だけど、以前より、格段に疲れる原因がなくなっているのだ。ルシアのおかげで、食べ物を死に物狂いで探す必要はなくなり、安心して寝れる場所もある。だから、ここにきて、疲労なんてと驚いた。落ち着ける場所を得られたからこそ、今まで溜まっていた疲労が爆発した可能性もあるが。


「アンナのことは…………、ごめんな。もっと使用人たちを気にかけおけばよかった。……ルシアのことも。俺お兄ちゃんなのに」


 アルブレヒトは明らかに気を落とす。俺のことはどうでもいい。むしろ、ルシアが許可し、レオンハルトが黙認したとは言え、居座っていた俺が悪い。

 だが、確かに俺も彼もルシアのことをもっと気にかけるべきだったと思う。もちろん、彼女の父でアンナの雇い主のレオンハルトもだが。

 

「そのルシアは今どこに?」


 状況が良くなったとは聞いたが、この部屋には彼女らしき人物がいない。しかもこの部屋がどこだかよくわからない。

 

「自室に移動したよ。君も同じところに運ぼうとしたけど、父さんに止められたんだ」


 自室という言葉を聞き、ルシアの部屋向かう。彼も一緒に着いてきて、話し続けている。そこで、今日から、あの部屋が君の部屋だよ、と告げられた。はぁ…?、と思わず返してしまう。


「以前君と出会った時から、父さんに交渉してみたんだ。君をルシアのお世話係にしてはどうかって。反対されてたけど、今回の事件で許可が降りたよ。君がいなければ、ルシアの発見が遅れてたからね。

 お世話係って言ってもたいそうなものじゃないよ。主に友達として、話し相手、遊び相手になってあげて欲しいんだ。ルシアはこの敷地の外に出たことがないし、友達がいないからね。父さんとしてはこれからも社交界とかに出すつもりはないらしい。そうなると、同年代ごろの知り合いができないから、君が友人の役目を担って欲しいんだ。まあ、父さんはルシアに甘いところがあるから、彼女が駄々をこねれば意思が変わるかもだけど。

 もし、引き受けてくれるなら、衣食住を正式に保障するし、ちゃんと給料も出すって。」


 提案は大変魅力的だった。しかし、気に入らない点がある。ルシアと話すのに、遊ぶのに、金銭が発生するということだ。ほんとの友達なら、それをしたからお金をもらうというのは、おかしい。もうすでに、ルシアからはもらってばっかりだけど、そのぶんいつか返す予定だ。友達として雇われてお金をもらうのとは少し違う。

 

「……」


「何か気に入らなかったかな?」


「…友達がすることをしたからと言ってお金をもらいたくない、」


「わかったよ、じゃあ、俺の補佐を受けてくれないかな?父さんにはこっちでもう一度掛け合ってみる。

 給料は俺から払うよ。お金がないとこれから先困るだろ?まあ、部下になるから、俺の指示には従ってもらうようにはなっちゃうんだけどね。でも、他の所に働きに出るより、ルシアと一緒にいれる時間が増えるよ」

 

 更なる提案に驚く。初対面で嫌悪感を抱いていたことがきまり悪くなるほど、いい条件を提示してくれた。兄妹揃って、お人好しだ。父親はお人好しとは程遠いので、もしかしたら、母親がそうなのかもしれない。

  ……、でも、アルブレヒトのは何故が優しさというには、引っ掛かりを覚えた。まあ、優しさと言っても種類があると思うし、ルシアの優しさもそれはそれで、無償のものすぎて引っ掛かりを覚えたので、大した問題じゃないのかもしれない。

 

「…、いいの?」


「俺がお願いしたんだから、もちろんだよ」   





 


 ルシアの部屋の前に着くと、じゃあ俺用事あるから。もし、ルシアが目覚めたら呼んでね。と言いどこかに言ってしまった。


 部屋に入ると、彼女は穏やかに眠っていた。倒れた所を見つけた時とは大違いで、心なしかとても幸せそうに感じる。


「……、幸せそうなのは、いいけどさ。早く起きてよ」


 そのタイミングで彼女から可愛らしい笑みが漏れた。

その表情に、ため息をつき、起きてという気持ちも込めて、彼女の頬をつねった。


「……、夢の中じゃなくて起きて笑ってよ。いくら楽しいからってずっと寝てるつもり?」

 

 あまりに、至福そうな顔に、もう夢の中に閉じこもって出てこないのかとさえ思えてくる。


「ねえ、起きてってば」


 それから、どれだけぼうっと彼女を眺めていたのだろう。彼女の様子に突然と変化が現れた。「…っ、ごめん、なさい」と声を溢し、とても辛そうな苦しそうな表情を作った。それからは、諦めたような笑みを浮かべた。

 その笑みは、どうしようもなく怖かった。歪で怖いとかそういうことではなく、ルシアが何かを諦めたということ、それによって作り出された表情ということが、怖かった。その何かはきっと彼女が手放すべきではない。


 ルシアは、っ!?!?、と息を呑んだかと思ったら、徐々に彼女の目が開かれた。

 


 

 

倒れた衝撃による記憶の混濁により、ヴェルクスは倒れる前の自分の発言を覚えてないです。

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