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第十六話 迷い込んだ先で(4)

*第十五話に出てくる女の子の名前を間違えてしまっていたので、訂正いたしました。

正しくは、メアリーちゃんです。


混乱させてしまい申し訳ありませんでした。


 誰かを確認するため、物陰からそっと覗き込む。それから、安堵の息を溢した。複数人の足音の正体は、お兄ちゃんとジョンさん、先ほどのもう一方の男の子とメアリーちゃんだった。


 メアリーちゃんがお兄ちゃんのエドゼルさんのところへ駆け寄っていくのが見える。あんなことがあった後だ。それはもうエドゼルさんのことが心配だったに違いない。

 アルブレヒトお兄ちゃんもお兄ちゃんで、私を見るや否やとてつもないスピードで駆け寄ってきた。持っていた血のついた短剣は見つからないように急いで隠す。


「こんなところまで来てたの?

 大丈夫?怪我は?痛いところは?誰かに何かされた?」


「おに、アルベルさん。落ち着いてください!私なんともありませんよ?」


 勢いに圧倒されて、つい、お兄ちゃんと言いそうになってしまった。危ない、危ない。


「よかったぁ、この辺に人攫いが出たって聞いて心臓が止まるかと思ったよ。じゃあ、ルシアはそいつらに会わなかったんだね」


 痛いくらい、ぎゅーぎゅー抱きしめられる。「アルベルさん、ちから、力弱めて、ください」この心配の仕様じゃ、死にかけたことは内緒にしようとそう決心する。元から話す気はなかったが、着替える前の血だらけでぼろぼろのお洋服も見つからないように気をつけないと。そして、できれば人攫いに会ったことも内緒に…。


「いや、俺らを助けてくれたのはそいつ」


 内緒にはできなかった。先程のぼろぼろだった男の子がそう言ったからだ。まあ、ここには当事者が集まっていたので無理だったのかもしれないとは思っていた。すると、ジョンさんが彼に聞き返した。

 

「……ジャック…それは、ほんとか…?」


 男の子は、ジャックというらしい。いや、それよりも。あまりに硬い表情で聞くジョンさんにまた、怒られてしまうのではないかと感じる。1人でいる時に言われるのは別にいい、慣れているし。しかし、こんな大勢の中で雰囲気が壊れるのはいやだ。空気がまた悪くなっちゃう。


 この場から去ろうとするが、お兄ちゃんに抱き抱えられたままなので、それは厳しい。

 

「おろしてください、アルベルさん」

 

 そう言うと、「え、どうして?」と、お兄ちゃんは驚いているが私を離そうとしなかった。

 何やら、ジョンさんとジャックさんが話し込んでいるので、そのうちにここを離れたい。

「用事を思い出して…」と応えるが、「そうなの?俺たちも一緒に行くよ」と告げられた。それでは、意味がないのだ。1人で行きたいと言っても断られてしまった。「じゃあ、アルベルさんと2人で行きたいです」

 とりあえず、ジョンさんは私がいなければ文句は無いと思う。お兄ちゃんを連れて行ってしまうのは、少し申し訳ないが、お兄ちゃんが離してくれないのだ。

 

「……おい、ちょっと待て」

 エドゼルさんたちに別れを告げて、早急に立ち去りたかった。が、問題のジョンさんに呼び止められてしまう。やはり、彼の表情は固く、何を言われるのだろうどう内心焦る。

 

「…悪かった。さっき酷いこと言っちまって」


「……へっ?」


 謝られるなんて想定外で思わず、間抜けな声が漏れた。彼は俯いていて、握られた拳は震えていた。


「えっと、気にしなくて、大丈夫です。先に余計なことをしてしまったのは、わたしなので…。こちらこそ申し訳ありませんでした」


「いや、あんたは悪くねーだろ……」とジョンさんは呆れたようにつぶやき、「うん、ルシアは悪くないよ。ジョンが全部悪い」とお兄ちゃんは付け足した。


 ジャックさんはジョンさんに「兄貴は何やったんだよ」と問いかける。容姿が似ていたので薄々気づいていたが、ジャックさんはジョンさんの弟らしい。


 ジョンさんは、居心地を悪そうにしながらも、偽善者と言ったことやパンやタルトを投げつけていたことを話す。


「はぁ…!?んなこと言ったのかよ……!?」ジャックさんが信じられないと言うように声を上げた。一緒に聞いていたエドゼルさんも彼に文句言いたげな目を向けており、ジョンさんはますます縮こまってしまう。


「まあ、貴族は大概むかつくやつばっかだけどよ。こいつはどう見てもちげーだろ。偽善ならあんな危険な状況で俺らを助けにこねーって。それにこいつ本人が金を巻き上げてるわけじゃねーじゃん。完全に兄貴の八つ当たりだろ」


 それに対して、メアリーちゃんは「貴族はむかつくって酷い…!」とぷんぷんしていた。エドゼルさんは、「そうだね。でも、貴族も貴族で平民を蔑ろにしてる人たちもいるから…、一方的にジャックさんの意見を責めることはできないよ」と言っている。


 ジョンさんは、黙ったまま聴いていた。

 

「それになんだ。目の前でもらった食べ物を投げつけたって?なあ、食べ物を手に入れる大変さなら兄貴もよく知ってんじゃねーの。働いて働いてやっとありつけるって。それをゴミにしたのかよ」


 そこで、エドゼルさんから「ジョンさんに渡したやつも、ルシアさんの手作りでしたか?」と聞かれたので、首を縦に振る。ジョンさんには一層非難の目が集まった。


「あっ、あの。でも、そのパンとかは私が食べるからゴミになってないので大丈夫です!落ちただけですし、全然!流石に踏まれてたら、食べれなかったかもしれませんが、それはなかったので…!味も変わらないですし、」


 あまりに責められている様子に、助け船を出そうと口を挟んだ。


「なんで庇ってんだよ。兄貴に散々なこと言われた上に作ったもん投げつけられてさ」


「私にも非はありましたし、…」


「いや、どう考えてもねーだろ」


「それに、全然気にしてないので」


 ジャックさんは私の返答を聞き、少し考えているそぶりを見せた。


「………………。お前は人が怒られているのを見るのが苦手なんだろ。言いたいことは沢山あるが、兄貴への文句はこんくらいにしてやるよ」


 私のことを考えてやめてくれたようなので、お礼を言う。その後に、後で言えばいいことだし…、と呟いているのが聞こえてきて、ほんとに気にしなくていいのになぁと心の中で呟いた。


「兄貴が叩きつけたパンくれねーか?」


「どうするのですか?」


「食う」


 お腹空いてるのだろうか、それとも申し訳ないと思っているのだろうか、はたまた勿体無いと思っているのだろうか。自分で食べる分には問題ないが、土がついているかもしれないし、人に食べさせるのはどうなんだろう。

 あっ、でも、まだ汚れてないやつ残ってたな。と思い出す。パンとタルトを2個ずつ残しておいて、1個ずつエドゼルさんに渡したのでまだ残っているはずだ。お兄ちゃんに降ろしてもらい、荷物からそれらを取り出した。


「まだ新しいやつ残っていたのでこちらをどうぞ!」


 ジャックさんに渡す。「えっ、これほんとにお前が作ったのかよ!?」彼は、一口食べ驚きの声を漏らした。「えっと…」これはいい反応なのか、悪い反応なのか。しかし、続けて、「うめぇ…」と、聞こえたので安心する。

 お口にあってよかったなぁと思っていると「美味しそう!メアリーも食べたい!!」という声が聞こえた。


「えっ、ご、ごめんなさい。さっきので最後でした」

 

「えー、ずるい!!メアリーだって、ずっとご飯食べてないからお腹空いてるのに!」


 メアリーちゃんが拐われてどのくらい経ったかわからないけど、お兄さんのエドゼルさんも先程お腹を空かせていたので、大層お腹が空いているのではないかと想像できる。すっかり気が回らなかった。でも、まさか落としたものをあげるわけにも行かない。


「えっと、じゃあ、どこか食べに行きませんか?お金は私が払いますし……」


「いやよ!メアリーは今、食べたいの!!」


 どうしよう……と困っていると、「メアリー、家に帰ったら、すぐにご飯用意してもらおう」とエドゼルさんが声をかける。


「いーーやーーー!!ずるいずるい!メアリーもパンとタルト食べたい」


「……パンとタルトはよかったら、今度作ります。でも今は…………、」


「嫌だ、なんでメアリーのないの!!」


 そんな様子のメアリーちゃんにエドゼルさんは、「こら。あんまりルシアさんを困らせちゃだめだよ。それに、ルシアさんよりメアリーの方がお姉ちゃんでしょ?メアリーがこんなわがままじゃ、どっちが歳上かわからないよ」と少し怒ったように告げた。


 ついに、メアリーちゃんは泣き出してしまった。

 

「…アドベルさん、この近くにパン屋さんとかありますか?」


「いや、完全に森の中入っちゃってるからな。しばらく歩かないとないだろう」


「そっか……」


 お兄ちゃんやジャックさんもメアリーちゃんを慰めようとしているが、あまり効果がないようだ。ジョンさんは俺が無駄にしたばかりに…、離れた場所で落ち込んでいた。


 何が食べるものはないか、ダメ元で荷物を漁ってみる。飴とクッキーが出てきた。そういえば、今朝タルト生地だけ余って、クッキーを焼いたんだった。それに、ドライフルーツを蜂蜜でコーティングした飴も作った記憶がある。しかし、作った記憶はあるが、荷物に入れた記憶はない。これらはヴェルクスに渡そうと思っていたが、もしかしたら、ばたばたしていてたまたま荷物に紛れ込んでしまっていたのかもしれない。


「メアリーさん、メアリーさん。あーん!」


 指示通りに口を開けたに飴を突っ込む。メアリーちゃんは、「…おいしい……」と呟いた。「それはよかったです。喉に詰まらせないように気をつけてくださいね」

 そう言うと、おとなしく飴を舐め始めた。


「これの飴はメアリーさんにだけ特別です。今回はこれとクッキーで我慢していただけないでしょうか?」


「特別…?メアリーだけ?」


「はい…!そうです!それもこんなに沢山あります」

 

 いろいろな種類のドライフルーツをコーティングした飴を見せる。


「わかった、我慢する!それ全部メアリーにちょうだい!」


「はい、どうぞ」


 納得してくれたようで安心だ。美味しそうに食べてくれるメアリーちゃんに嬉しくなりながら見ていると、「ルシアをメアリー専用のコックさんにしてあげる!」と言われた。


「それは、光栄です。では、たまに作らせてくださいね」


 メアリーちゃんとの会話が終わると、エドゼルさんから物凄い勢いで謝られた。


「うちの妹が、ごめんなさい。ただでさえ、助けてもらっているのに、わがまま放題で困らせてしまって…」


「いえいえ…、私の方こそ、メアリーさんもお腹空いてるだろうって考えが及ばずに…、」


 そこに、ジャックさんも「いや、元はと言えばうちの兄貴が……。それに、俺もお前の妹のこと考えずにもらって悪かったな。」と入ってくる。


 3人で謝り倒していると、ジャックさんが吹き出した。「あー、もうこれ、何やってんだろうな。みんな謝ってっけど、誰も気にしてねーんじゃねーの?」

エドゼルさんも釣られて笑う。「一番怒っていいルシアさんがなぜか一番謝ってますし」

「ルシアが気にしてねーなら、もう、お互い様ってことでいいか?このままじゃ埒があかねーよ」

 私が怒ることなんて何もないので、「じゃあ、お互い様ってことでこのことは終わりにしましょう!」と言う。


「あー、それにしてもルシアやエドゼルみたいな貴族もいるんだな」


「そうですね、貴族って言ってもさまざまだと思います」


「あのさ、敬語やめにしねえか?エドゼルは同じくらいの歳だろ。あと、ルシアは明らかに年下だろーけど、別に使わなくていーよ」


「うん、わかったよ。」


 エドゼルさんはジャックさんの提案に同意したようだが、私もいいのかなと悩んでしまう。でも、そういえば、ヴェルクスははじめ同じ年くらいと思っていたこともあり、敬語じゃなかったのを思い出す。


「わかった、改めてよろしくね!ジャック!」

 そう言うと、おう!と返事が返ってきた。そこにエドゼルさんからも、メアリー共々敬語じゃなくていいという話があったので、敬語を使うのをやめることにした。


 主に3人で会話しながら森を抜けることとなった。メアリーちゃんは「疲れた、もう歩きたくない!」と言っていて、お兄ちゃんがおんぶすることになった。ジョンさんには、再び謝られた。ほんとに気にしていないことを告げると、今度は弟を助けてくれてありがとうと告げられた。余談だが、ジョンさんは私が去った後、お兄ちゃんに殴られたらしい。温厚そうなお兄ちゃんが人を殴ったことに驚いたが、2人の関係は悪くなってなさそうなので安心した。

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