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第十四話 迷い込んだ先で(2)

 しばらく、走ったところで息を整える。お兄ちゃんにも後でもう一度謝らなきゃな。

 

 ジョンさん、怒らせちゃったなぁ。ほんとに馬鹿にするつもりなんてなかったけど…、態度が生意気だったのかもしれない…のかな?


 一人反省会をトボトボ歩きながらしてると、いつのまにか木に囲まれており、人が見つからない。


 あれ……、もしかして、迷子?


とりあえず、地図を取り出し広げてみるが、周りを意識して歩かなかったせいで現在地が分からずどうしようもない。

 これが家族と会ったことがなく、ヴェルクスもいなかった1年ほど前の状況ならば、「まあ、いいか。このまま旅にでも出ようかなぁ」とも考えられるのだけど。今はおそらく、アルブレヒトお兄ちゃんもヴェルクスも心配させてしまうかもしれない。


 周りを見渡し何が探す。再び、しばらく歩き進めると、一軒、倉庫みたいな建物が見つかった。そこに人の気配も感じられた。

 やった!と思い、声をかけようとする。しかし、子供の泣き声や呻き声が聞こえ、行動を停止する。

 裏に回ってみると、少し高い位置に窓があり、近くに落ちていた樽を引っ張り出して、覗いてみる。


 中には子供が3人ほど柱に縛られている。ヴェルクスと同じくらいの年頃の男女だった。男の子は2人で、一人はそれなりの身分の格好をしていて、もう一人はさっきあったジョンさんのようにぼろぼろな服装だった。女の子の方も綺麗なドレスを纏っていて身分は高そうだった。

 それに加えて、男が3人。リーダー格の男が、酒を浴びながら不快な笑い声をあげている。残りの男は子供たちに何やら話しかけたり、暴力を振ったりしている。

 

 ぼろぼろの男の子が殴られて、泣け叫び、女の子はそれを見て、恐怖で震えているようだった。もう一人の男の子は、女の子を気遣いながら、唇を噛んでいる。


「もうこいつは、金になんないぜ?殺しちまっていいか?」

 

「あ?まあ、いいぜ。だがな、そこの2人は傷つけんなよ。高く売るんだからよ」


 リーダー格に許可をもらった男が男の子にナイフを向ける。

 助けに行かなきゃ。男の子が殺されてしまう。それに、残り2人も売られてしまうのかもしれない。


 しかし、正面から突撃したところで、私は何倍もある大きさの男に勝てるのだろうか。誰か呼んでくると言っても、絶賛迷子中なのだ。今まで、この森の中で人とすれ違っていなかった。


 いや、不意打ちで行けば勝てるかもしれない。相手はお酒が入っている上に武器はナイフだけだ。そうだ、人数を分散させよう。外で騒いでいれば、出てくる人がいるかもしれない。出てこなくても、男の子を殺すのを後回しにするかもしれない。催涙スプレーを握り締め、足に短剣をくくりつける。そして、残りの荷物をその場に置くと、


 思いっきり息を吸い込み、「きやぁぁぁぁぁ!!!」と叫ぶ。


「おい、子供の声だ。お前見てこい」


「今日はついてるぜ、4人も捕まえられるとはな」

 

「こいつらみたいに上玉だったらどうするよ」


「大金入るぜ、大金」


 私を捕まえることに想いを馳せながら、男2人が外に出て行った。


 その隙をついて、窓から忍び込む。こっそり、入ったつもりだったが、やはり、見つかってしまったらしい。残っていた男が振り向き、にやにやと笑みを浮かべる。

 

「わざわざ、自分から来るとはな。それになかなかの格好じゃねーか」


 酔っ払っているのか、少しフラフラしながら、こちらに近づいてくる。男に見えないように催涙スプレーを握りしめ、相手は1人、いいタイミングを狙わなきゃともっと近づくのを待った。男は舐め回すようにこちらを見てくる。

 

「…可愛い顔してやがるな。売るのももったい、いや、ここまで顔が良いんだ。利用済みでも高く売れるんじゃねーか」


 随分とおとなしいな。とぶつぶつと呟きながら、私の顎を掴み、彼の顔が近づいてきた。いまだっ!とその間にスプレーを差し込み、勢いよく噴射した。


「っ!?…いってぇな!!てめぇ!!!」


 と、男は顔を押さえて、片方の手で思いっきり、殴られた。飛ばされたところは子供達が縛られていた柱だった。殴られた箇所は痛むが、そのまま、太腿にくくりつけていた短剣を取り出し、紐を切る。

 まず、ほとんど怪我がなかった男の子を助けて、男2人が置いて行ったナイフで女の子の紐を切るように指示し、私は残りの男の子の紐を切った。


 催涙スプレーを作る際には、相手の皮膚が爛れたり、後遺症が残ったりしないような成分も含め、少し弱めに作ったが、この悶絶の仕様では30分くらいは持つかもしれない。


「話してる時間はあまりないから手短に言うね。そこの男の子はもう1人の男の子を背負って欲しいの。私が運ぶのは体格差もあるし難しいかもしれない。

 それで、この窓から出よう。いつ出て行った男たちがドアから帰ってくるかわからないから、窓からのほうが安全かもしれない。えっと、君が先降りてくれる?そして、女の子が降りる手助けをしてあげて、その後、残りの男の子を下ろすから、そのまま逃げて。最後に私が降りるよ」


 3人は混乱しているようで、少し戸惑っていた。しかし、残りの男たちがきちゃう!速く!と話すと、怪我の少なかった男の子は頷き、女の子を引き連れ、指示通りに行動してくれた。怪我をしてる方の男の子も下ろし、ちょうど、私が出ようとしたところで、男2人が戻ってきた。走って!速く!と言うと、少し躊躇しながらも3人はこの場を離れて行った。


 帰ってきた男2人を見て、しまった…、と思うと同時に、この2人を私が引き留めておけば、あの子供たちは逃げ切れるだろうと安心もする。


「おい、お前ら、そのガキ、妙な液体を持ってる」


 男は苦しみながらも仲間に伝えた。それに反応するより速く、残りの2人に駆け寄り、スプレーを発射する。

その内の1人には上手くかかったが、もう1人には押さえ込まれ、そのまま押し倒されてしまった。


 催涙スプレーを取り上げられる前に床に噴射し、使い切る。もしそのまま、私に使われたら、厄介だ。

 

「おいおい、ずいぶんやってくれるじゃねーか」


「うっ、、」


 私の体重の4〜5倍ほど、下手したらそれ以上あるのではないかという重さの男に乗っかられ、潰れるのではないかと思った。


「俺たちに逆らうとどうなるか思い知ってもらわねーとな」


 顔を思いっきり殴られて、歯が3本、抜けた。

 速く、逃げ出さないとまずい。このまま殴り殺されてしまう。それに、もうそろそろ、一番最初にスプレーをした男が回復してしまうかもしれない。


 残っている武器である太腿にしまっている短剣でこの場を逃げ出せないか、思考を巡らす。男が拳を振り上げた瞬間に急いで取り出し、男の足に思いっきり刺すしかない。足に刺せば逃げる時の時間稼ぎになるだろう。


 再び、男が手を振り上げた瞬間。私は剣に手を伸ばす。


 ーー、結果。その作戦は失敗に終わった。足を刺せたはいいものの、同時に殴られた痛みで、表面をかする程度になってしまった。


 「まだ、逆らうのか」

 男の瞳孔が開き、表情に影がかかる。そして、その短剣を自分の足から抜き、私のお腹へと刺した。思わず、呻き声が漏れる。


 夢で見た最後と似たような場所を刺され、夢での出来事が鮮明に頭の中で再生される。


「……泣か、ないで、ある、お願い、泣かな、いで、そんな、かなしそう、な、くる、しそうな、、かお、しない、でよ」


「おいおい、何言ってんだよ。痛みに狂ったか?」


 わたし、ここで死ぬの?

 いやだ、いやだいやだいやだいやだ。わたしはまだ死ねない、まだアルカイドにもあってない、こんなところで死ぬなんて、許せない


 突然、倉庫全体が揺れ出す。そして、バリンと、窓が割れた。激しい揺れに男は気を取られる。その際に短剣を抜き、今度こそ男に思いっきり突き刺した。本当は傷口から短剣を抜くのは良くないだろうけど、このままじゃ殴り殺される方か、このまま抉られる方が早い。男は再びこちらに意識を向け、反撃してこようとしたが、さらに揺れが大きくなり、バランスを崩し、私の上から横に落ちていった。その隙に、剣を引き抜き、刺されたお腹を押さえながら、体を引きずり、倉庫を出る。すると、私が出た瞬間、そこは崩れ去った。


 「えっ……」思わぬタイミングで驚いたが、声を出すとお腹の痛みが増し、近くの木に寄りかかる。痛みに耐えながらも、短剣でドレスの下を切って、自分で手当をする。傷口を強く抑えるが、血が止まる様子はない。やっぱり、短剣を抜いたのが悪手だった。傷口を縫うべきだと思うが、生憎、針も糸も持っていない。


 動くと良くないと思い、じっとしていることにした。


 ……なんか…、眠い。


 数分もたたない内に強烈な眠気に襲われてきた。止血しようとする手に力が入らなくなる。それに、体が冷えていくのを感じる。目の前も霞んでいって…、だめだと思いながらも瞼が重くなって行った。

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