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第十二話 アルブレヒトお兄ちゃんとの街巡り(2)

 先程までの高級店とは対照的に広場では、活気付いた声があちらこちらから聞こえ、人々は溢れかえるようだった。売り物を簡易的な屋根付きの屋に置いてある店もあれば、土の上にそのまま置いている店もあった。

 

「賑わってるね〜」


「ほんとにすごいね。今日は特別人が多いのかもしれない」


「特売品でもあるのかなぁ?」


「どうだろうな、ここら辺は普段から安いなーって感じだけど、さらに安くなるのか?」

 

 しばらく歩いていると、妙にジロジロといった周りからの視線が気になってくる。服装がかなり浮いている自覚があるのできっとそれが理由だろう。あまりこういう場で目立つのはよくないかもしれない。お金をもっていると思われ、変なものを売りつけられたり、誘拐されたり、はたまた上流階級を妬んでいる人たちに絡まれたりしそうだ。布か何かをかぶるべきかなと羽織れそうなものが売っていないか、きょろきょろ探す。


 食べ物や装身具、骨董品など様々な種類のお店があるが、布や服はここら辺には見当たらない。それよりも先に本屋が気になってしまった。羽織るものを探してから、再び戻ってくるのも大変だと思う。後少しくらいならこの格好でもいいだろうと思い、お兄ちゃんに声をかけた。


「お兄ちゃん!あのお店みたい!」

 

「ん?本か。いいよ、見に行こう」


 そのお店は机の上や地面に無造作に本が並んでいた。聖書や学術書、叙事詩など、ジャンルは様々だった。聖書や叙事詩は悪魔のことや言い伝えのことが、学術書の中の医学や薬草の本では、以前の毒のことが調べられるかもしれない。ぱらぱらとめぼしい本を軽く捲っていく。


「…それ、読めるの?」


「えっ?」


 お兄ちゃんから声がかかり、本を見る。確かに7歳で読む内容ではないのかもしれない。


「読めるよ!内容は少し難しいけど」


「何って書いてあるの?」


「えっと、こっちが神様の戦いの話で、こっちは悪さをした人間の話かな。あと、こっちが薬草の使い方とその効能の本で……」


 説明しているとお店の人からも声が掛かった。

 

「こりゃあ、驚いた。お嬢ちゃん、わかるのかい?ここにくる奴らは、大人も子供も文字を読めやぁしないし、本に興味すら持ってないからさ。もうほとんど金にならない趣味みたいなもんだったのによ」


「そうだったんですね。

 お兄さんの趣味は読書とかだったんですか?興味深い本をこんなにたくさん集められて、とても本が好きだったんですね」


「お兄さん、って呼ばれる歳じゃないけどな。

 最近はそーでもないが、まあ、たまに読んだりするさ。これらは、俺のお袋が集めたんだ。世界各国から本を集めるのが好きでさ」


「まあ、素敵なお母様ですね」


「いや、それが大層変わり者だったらしいんだ。貴族の身分を投げ出して、平民の親父と結婚したり。」


「そうなんですね。私は、やっぱり、素敵だと思いますよ!お父様ととても愛し合っておられたのですね」


「ああ、まあな。お袋が変わり者なら、親父も親父で変わってたから、お似合いだったんだよ。

 それより、嬢ちゃん。読めんなら、この本なんてどうだ。ここから、遠く離れた島の伝説の話なんだけど。」


 渡されてペラペラ捲っていく。黒魔術に手を出した人について主に書かれているみたいだ。せっかくおすすめしてもらったし、後でゆっくり読んでみるのもいいかもしれない。


「こちら、いただいてもいいでしょうか?」


「ああ、もちろん!」


「では、おいくらになりますか?」


 告げられた金額を払う。お兄ちゃんを待たせてしまっているので、すぐさろうと思うが、もしかしたらと思い、もう一度店の人に声をかけた。


「あの、エイオラの言い伝えについて何がご存知ないですか?ルシアやギルベルトさん、悪魔や魔女が出てくる話です」


「ああ、あの話だな。あれはいくつかの説があってだな」


 いくつかの内容を話してくれたが、今まで聞いたことある話ばかりで新しい情報は得られなかった。お礼を言って今度こそお店を去る。


「それにしても、ルシアには驚いたよ」


「えっ?どうして?」


「内容もそうだけど。その本、この国の言葉で書かれてないよね?さっきの人もいろんな国から集めてるって言ってたし」


「…あっ、うん。」


 確かに、この国で使われている言葉じゃない。すらすら読めたってことは、今まで転生した人生の中で触れたことがあるのかもしれないけど。でも、どこの国の言葉かは思い出せなかった。


「それに、父さんからルシアに教育を受けさせてなかったって聞いてたから、てっきり読み書きできないと思ってたよ。手紙くれたから、今より前にはできること自体は知ってたんだけど。誰に教わったの?」


「えーっとね、いつのまにか読めた」


 不自然だろうか。せめてメイドたちに教えてもらったって言った方がよかったかもしれないと後になって気づく。


「本当かい?ルシアは賢い子だと思ってたけど、独学で読み書きを覚えてしまうなんて。ほんとにすごいよ」


「…ありがとう」


 嘘をついてしまったことに罪悪感を感じてしまったが、本当のことをいうわけにもいかない。


「将来やりたいこととかあるかな?もしかしたら、父さんは反対するかもしれないけど。なんかあるなら、俺応援するよ。まあ、母さんも働いてるし、味方してくれると思うよ」


 将来かぁ。考えたことなかったな。まず、その年齢までに生きていることが優先だ。でも、全て終わってアルカイドとまた出会えた先でなら、考えるべきかもしれない。


「うーん、今は特に決まってないけど、困っている人の助けになるような仕事したいなぁ」


「それは、素敵なことだね」


 ルシアはほんと賢くていい子だ〜と、お兄ちゃんは頭を撫でてくれた。


「そういえば、ルシアはあの言い伝えに興味があるのかな?」


「ああ、ほら、名前が一緒だから、気になったの!お兄ちゃんは何か知ってたりする?」


「うーん、あの店の人以上には知らないかな。昔、母さんに聞いた程度だよ」

 

 お兄ちゃんと話していると何やら特段騒がしい声が聞こえてくる。そちらを見てみると、道の端で喧嘩している酔っ払いたちと目が合った。その瞬間、有無を言わさず、お兄ちゃんに手を引かれた。一度広場から離れることになった。

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