第十一話 アルブレヒトお兄ちゃんとの街巡り(1)
「これなんかもどうかな?」
「……えっと、もう十分だよ…、お兄ちゃん…」
うきうき、と言った様子で服を運んでくるアルブレヒトお兄ちゃんとは対照的に少しげんなりしながら私は応えた。
お兄ちゃんは謹慎開けてすぐに街へ連れてきてくれた。そして、ここは、貴族御用達のドレスショップらしい。目が飛び出そうなほどの金額に、試着を提案されるたび、ひえっ…、と声が漏れる。これ、1着の値段でこの先一生暮らせるのではないかと思った。さらに、どれも似合うと言って、私が試着するもの全て買おうとするので、冷や冷やものである。
お兄ちゃん、あんまり高いものは無理って言ってたよね…?ディナーで話してたことを思い出す。こんなにたくさん高級な服を買って大丈夫なのだろうか。まさか、お兄ちゃんの高いって、土地とか家を買うレベルじゃないよね?
「うーん、ルシアはどの服でも似合っちゃうんだよな。
よし、決めた!この店を買い取ろう」
思考に耽っていると、お兄ちゃんからびっくりする発言が飛び出した。
「……。へっ?ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!」
「気に入らなかったか?」
「可愛いし、綺麗なお洋服たくさんで素敵だなとは思うけど」
「それはよかった。じゃあ…」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ!流石にそれは、え、お店ごと買い取るって何?そんなことできるの?」
「んー?父さんよくやってたよ、母さんのために」
「えぇ…!?」
信じられないが、これがこの家の普通なのだろうか。話を聞く限り、よくわからないお父さんと比べ、お母さんやお兄ちゃんはまともな人なのかと思ってたけど。価値観の違いの溝は深いようだ。
「ああ。でも、それでよく怒られてたな。母さんは何が不満だったんだろう」
よかった。やっぱり、お母さんと気が合いそうだ。お父さんがお母さんに対して実際どうだったかは、わからないけど。あの無口と無表情でお店ごと買い占めたら、お母さんは大層驚いたんじゃないかなと思う。それとも、貴族の買い物はみんなこんな感じなのだろうか。
「わからないけど、買いすぎだったんじゃないかなぁ?」
「そうかな?でも、それで困ることはないし」
お父さんは困ることなかったかもしれないけど。未だにエイオラ1のお金持ちということは、買いすぎて破綻なんて絶対してないだろうし、借金してまで買ったわけじゃなさそうだし。でも、貰ったお母さんはたくさんありすぎて全部使えないと思う。あと、なんというか、もったいない。
「でも、私は、お兄ちゃんがここでお洋服を買ってくれるなら、ほんとに似合うのを1着だけ買ってほしいな!
だって、たくさんあっても全部着れないかもしれないし、気に入ったのを大切に着たい。それに、お兄ちゃんが選んでくれた1着の方が他のどんなたくさんのお洋服より価値があると思うの」
もしかしたら、お母様もおんなじ気持ちだったかもしれない、とも付け加えた。
「わかった。でも、ほんとに1着でいいの?」
「うん!家にもたくさんお洋服あるし、この前お父様にも誕生日プレゼントでもたくさんもらったし、十分だよ」
それに、私は成長途中なので、すぐ服は着れなくなってしまう。
お兄ちゃんはわかった、と私の頭を撫でる。そして、どれがいいだろうと服の特徴をぶつぶつ唱えながら、真剣に悩み始めた。
再び、私のファッションショーが開催された。しかし、数十分たっても一口に決まる様子がない。こんなにお店に居座っちゃって大丈夫なのかなと心配になってきた。このまま時間かかりそうなら、私が何着か絞ってそこから選んでもらうのもいいかもしれない。その逆も考えたが、未だに全く絞れてないところを見ると無理そうだ。
お兄ちゃんが持ってきてくれた服に着替えてカーテンを開ける際、「お兄ちゃん、もしなかなか決まらないなら、」と声をかけようとする。
しかし、返ってきたのはいままでと違う反応だった。これまでは着てきたものを全て褒めちぎってくれたが、今回は無言。心配になり、「お兄ちゃん…?」と声をかけると、「……。これにするのはどうかな?」と返ってきた。
改めて鏡を見てみる。ピンクと白が基調のドレスで、胸元にある赤いリボンが特徴的だった。また、スカート部分の三段になっているフリルが可愛らしい。
くるっと一回転して、
「このドレスすっごく可愛いね…!私もこれがいい」と、笑顔で応えた。
お兄ちゃんは微笑んで、その洋服を買ってくれて、お店を出た。
「お兄ちゃん、ありがとう!大切に着るね!」
「気に入ってくれてみたいでよかったよ。次はアクセサリー見に行こうか」
「アクセサリー屋さん?」
「この前、赤色のネックレス欲しいって言ってたよね?」
確かに言った。しかし、今年の誕生日プレゼントにお兄ちゃんからネックレスを貰ったのだ。しかも、ちょうど今日つけてきた。
「でもそれは、お兄ちゃんにお誕生日の時もらったよ?ほら、今もつけてる!」
「ああ。それは、ルシアが5歳の時の誕生日に買ったやつだよ。渡すの遅くなっちゃったけど、それに赤じゃないし」
「5歳の時のなんだ。ありがとう!これお気に入りだから、今は他のアクセサリーなくて大丈夫!」
そう応えると、お兄ちゃんは明らかに落ち込んでしまった。アクセサリー屋さんを一緒に見るのも楽しみにしていてくれたらしい。結局、アクセサリーも買ってもらうことになった。しかし、高級店でなく、広場の市に行くことにした。