第一話 ルシア、3歳で記憶を思い出す
この地、エイオラには、昔からの言い伝えがある。
ー『少女、ルシアの悲劇』ー
数千年前の話なので、語り継がられている間に話は分かれていき、いくつもの説が登場した。
しかし、主な登場人物は決まって4人。主人公のルシア、呪いを受けた少年、魔女に悪魔である。
また、ルシアは16歳の誕生日に亡くなることも、最後に悪魔が少女の死を嘆き、この地を一度滅ぼしてしまうことも、どの話にも共通している。
ーーそして、言い伝えのルシアは、おそらく私だ。
いや、おそらく、ではない。確信を持っていえた。
3歳の誕生日、私は高熱を出し、幾つもの人生の記憶が流れ込んできた。
ある時は孤児として餓死した。
またある時は、踊り子となっていろいろな地域を巡ったが、その実、慰み者としてたらい回しにされていた。
薬師だった時は毒を盛ったという冤罪で殺され、騎士となった時は敵についた兄の手によって殺され、商人の娘だった際は親の失敗により借金まみれ暴君と名高い王様の使用人となった。
また、奴隷だった時もある。
どの人生も大変だったし、また、どの人生でも16歳になる前には、私は、死んでいた。
ただ、一番鮮明な人生は、おそらく1回目の時であろう。
ここでは、例外的に、13歳になるまでは、順風満帆な人生だった。
親から大切に育ててもらっていたし、とても慕っていた婚約者もいた。この人生での転機は、その婚約者のギルベルトさんが、15歳の時に病におかされてしまったこと。
そして、寿命は、それから一年しかないと言われてしまったこと。
病におかされ、日に日に変わっていくギルベルトさんに何かできることがないか、私は探し回った。
そんな時、悪魔アルカイドが声をかけてきた。
ギルベルトさんの病を治すが、代わりに私に不幸になる呪いをかけ、16歳になった暁には私の魂をもらうと提案してきた。アルカイドに言わせると、元々私の魂は上玉らしい。それに、呪いというスパイスが乗って、16歳の誕生日頃にとる私の魂は最高傑作になるという。彼の話は難しく、熱意しか伝わらなかったが。
私はその提案に喜んで乗っかった。あれだけ苦しんだギルベルトさんが解放されるなら、魂を捧げても構わなかった。手始めにギルベルトさんは私の存在を忘れ、優しかった親からは虐遇を受け、親しかった村の人たちからは迫害された。
自分で選んだことだし、ギルベルトさんの病は治ったので、後悔はしなかった。しかし、この扱いは呪いによるものだがら、みんなが呪いに操られているようで申し訳なくなって、村を出た。
その後の2年ちょっとは、思い返してみると、いろいろ大変だったが、私の不幸を面白がりながらもアルカイドが側にいたので、寂しい人生ではなかった。
ただ、16歳の誕生日、私の魂はアルカイドに渡ることはなかったようだ。
その日に死んだので、その後どうなったかは知らないが、何度も転生を繰り返しているところを見ると、おそらく、そうだろう。
それに、タイムリミットが近づく中、彼は私が死ぬことを拒否し始めた。
彼にとって誤算だったのが、いつのまにか、私に好意を抱いてくれたことらしかった。
私が死ぬ直前の顔は見ているこっちが苦しくなるほど、悲痛なもので、それまで死ぬのはなんとも思ってなかったが、私は初めて死ぬのはちょっと嫌だなぁと思いながら、死んだ。
『少女、ルシアの悲劇』の言い伝えとは異なる部分も多いが、1回目の人生はこの伝説と大筋に通っているように感じた。
これらの記憶が一気に流れ込んだ。ただでさえ、高熱で倒れていたのに体調はさらに悪化した。
吐き気を催しながらも、駆け巡る記憶の中で一番に感じたのは、アルカイドへの心配だった。
1回目の人生が特殊なら、今回も特殊であった。名前や外見が、1回目の人生と一緒なのは今回が初めてだった。
また、全部の人生の記憶を持っているのも初めてだ。
今回、アルカイドに会えなかったら、もう、彼と会う機会はないだろうと、本能的に悟った。
この時、高熱に魘されながらも、アルカイドを見つけ出す、彼と会うまで死なない、という目標を立てる。そして、その後は数週間寝込むこととなった。