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心の穴(2023.5.28)
満たされない。
その思いを抱えてさまようように生きてきた。何をしても心の穴は埋まらなくて、風が吹くと、その穴が不気味な音を立てるようだった。何をどうすれば満たされるのか、心の穴は埋まるのか、自問自答しながら通りを歩いていたときだった。
『心の穴 お埋めします』
手書きの看板の隣には、古びた扉があった。バーだろうか。賑やかな通りに似つかわしくない寂れた店だと思ったそのときだった。
扉がひとりでに開き、中から声がした。
「お客様一名、ご来店でーす」
俺は吸い込まれるように、虹色が宇宙のように渦巻くその店の中へと入っていった。