「お兄さん」(2023.5.26)
フードコートの隅っこで、ハンバーガー屋さんのアイスティー単品Lサイズをすする。
紅茶にこだわっているお店だけあって、お手頃価格でもとても美味しかった。ちょっと時間を潰すならティーサロンに行かなくてもここでじゅうぶんだ。私はスマートフォンをいじりながら、待ち人が来るのを楽しみにしていた。
彼……「彼」と言っていいのかどうか分からないけれど、「お兄さん」と呼ぶ彼とはスポーツジムで知り合った。お互い好きなメタルバンドのTシャツを着ていたことがきっかけで仲良くなったのだ。今ではLINEを交換し、一緒にライブに行ったりお茶をする仲だ。
「お兄さん」は美しい。ジムで鍛えているだけあってマッチョで、丁寧に剃り上げたスキンヘッドが頭の形まで美しい。顔も、中華圏の映画俳優のように精悍で、ジム以外で会うときはうっすら東洋風の化粧をしていたりなんかする。
『駅に着きました。フードコートのいつもの席でいいかな?』
お兄さんからのLINEに私は胸を躍らせた。いつもの席とは、ゴミ箱の隣にある人気のない席のことだ。柱に隣接していて落ち着くから、私のお気に入りの席。いつもの席にいますと返信を打って、アイスティーをひとくちすすった。
お兄さん、今日はどんな格好だろう。
化粧はしているかな。スカートかな、パンツスタイルかな。ラフかなそれともドレッシーな服装かな。洋風かな東洋風かな。
私がひとり胸をドキドキさせていると、耳元で、声がした。
「お待たせ」
まろやかな低音の美声の主は、お兄さんは、私が振り返るとうっすら化粧を施した目を細めてふふ、と笑った。