表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

第六話 期限切れJK

 渋谷デートの翌日、アオイからは「ここに集合」と住所が記載されたメッセージが送られてきた。

ポケットからスマホを取り出す。アオイから送られていたメッセージを確認した。


 ここで合っているよな。


 目の前には二階建ての小さなアパート。ここの二百三号室にアオイは住んでいるらしい。外付けの階段を上り、二百三号室の前に立つ。


 一呼吸置いてからチャイムを押した。女の子の家に入るのは爆笑ドリーマーズ時代にコラボ撮影をしたとき以来だ。あのときコラボした彼女はいつの間にかユーチューバーを辞めていた。まあ爆笑ドリーマーズと同様にあんまり再生されていなかったから仕方ないよな。俺とアオイの動画投稿活動はどれくらい続くのだろうか。

 

 そんなことを考えていたら扉が半分開く。隙間からは制服姿のアオイが見えた。黒を基調としたシンプルなブレザーは、間違いなく俺とアオイが通っていた高校のものだ。


「おはよ。入っていいよ」


「おじゃまします」


 扉を開けて玄関に入る。すぐにベッドやローテーブルなどの家具が視界に入った。どうやらこの家はワンルームらしい。


 玄関で靴を脱ぎ部屋へ上がった。


「一人暮らしだから気楽にして大丈夫だよ」


 そう言うとアオイが小さなクッションを手渡してきた。およそ六畳の小さな部屋の中にソファーはないし、ここに座れということなのだろう。


「ありがと。撮影とかしやすくていいな」


 木製のシンプルなベッドを背もたれにして座る。

 目の前の小さなローテーブルにはノートパソコンとカメラが置かれていた。


 大学生から一人暮らしを始める人は珍しくないって聞くし、アオイも一足早く一人暮らしを始めたのならありがたい。俺の進学予定の水月大学は家から近いから絶対に親は家賃とか出してくれないだろうし。


「でしょ。今日が伝説の始まりだよ」


 そう言うとアオイは俺の横に座った。


 少し前までは毎日のように見ていたアオイの制服姿だが、髪色のせいかなんだかとても新鮮に思える。真っ赤な髪と真っ黒な制服のコントラストが映えていた。俺もアオイもすでに卒業しているのに制服を着ている理由は謎だけど。アオイからの説明は特にない。

 まるでサラリーマンがスーツを着るくらい自然な顔つきで制服を着こなしている。まさか留年でもした? クラスメイトが留年って話は誰からも聞かなかったが。


「そういえばなんで制服着ているの?」


 やっぱり気になる。アオイは得意げな顔をして言った。


「やっぱり女子高生ブランドを活かしていきたいなって。まだ三月だし。あと人気ユーチューバーもよく制服着てテーマパークデートとかしているし」


 なるほど。一理ある。制服を着ている可愛い女の子というだけでも視聴者は動画のサムネイルをクリックしたくなるだろう。現役高校生なら制服から通っている高校が特定されて何かと面倒なことになる可能性もあるが、卒業した俺たちには関係ないし、制服で撮影するというのは悪くないのかもしれない。

 ただ一点、俺が普通に私服のパーカーを着ていること点を除けば。一応カップルという体だし統一感って大事だと思う。


「できれば事前に教えてくれたら嬉しかったな」


「確かにこれじゃタツキが高校生感を出せないね……」


 アオイが俺をマジマジと見つめる。そんなに全身を見つめられるとファッションチェックが始まったみたいで緊張してしまう。ただでさえ大学に着ていく服がなくて困っているのだから。数年前まで男は黙って黒スキニーパンツという風潮もあったらしいけど今はなにが無難なのだろう。


「あっ。私の制服は夏服ならまだあるよ。使う?」


 アオイが変なことを言い出した。

 立ち上がろうとするアオイの手を掴む。きっと制服を取りに行くつもりだ。


「俺に女装する趣味はないから」


「大丈夫。タツキは細身だしきっと似合うよ」


 アオイはなぜか満面の笑み。

 大きく首を横に振る。


「女子高生と何故か女装した男のカップルチャンネルとかチャンネルの方向性が謎すぎるから!」


 物珍しさで多少は視聴されるかもしれないけれど、イロモノ枠って感じで人気ユーチューバーにはなれないと思う。


 アオイは残念そうにため息を吐いた。


「えー。制服が嫌なら私の体操服とかかな。男女同じようなデザインだし」


 確かに体操服は男女ともに同じデザインのシンプルなジャージだった。けれどもアオイが着て運動していたものを着るというのは、なんだか異性を意識してしまって平常心を保てなくなりそう。


「そのアオイが着ていたものを借りるという発想から離れてくれると嬉しいかな」


「えー。なら次からはちゃんと制服着てきてね」


 不満そうに頬を膨らませるアオイ。なんで俺が悪いみたいになっているのだろう。まあここで言い争っても仕方ないから特に反論はしないけど。


「了解。次からは制服スタイルね」


「そういうこと。じゃあ撮影は次回からかな。明日で大丈夫?」


「そうなるな。明日も空いているから大丈夫」


 ある程度視聴者が定着するまでの投稿動画は、視聴者に覚えてもらうためにもチャンネルのコンセプトを明確にしたほうがいいだろう。そしてそのコンセプトが制服なら、お互いが制服を着たタイミングで撮影したほうがいい。というか俺のスケジュールびっくりするくらい真っ白だな。

 休日に会うのなんて爆笑ドリーマーズの面々くらいだったから仕方ないけどちょっと悲しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ