第十一話 初コラボに向けて
「こんにちは。アオイです!」
「タツキです!」
「ユイナです!」
「人気ライトダンサーのユイナさんと出前を一万円分食べてみた!」
アオイの家でゆーつべに投稿用の動画を編集していると、アオイのノートパソコンからタイトルコールが聞こえた。
これは結月さんにショート動画を教えてもらった日に撮影したゆーつべ用の動画だ。内容としては出前を頼んで食事をしながら雑談をするだけのシンプルな動画だが、俺たちの動画で一番再生数が多かった。
アオイも編集をしているはずだが、ゆーつべを見て休憩しているのか。
「ねえ、タツキ。こっち見て」
アオイが手招きをしている。
「なに?」
動画編集のために触っていたノートパソコンのキーボードから手を離し、アオイに身を寄せる。
「見てよ。遂に十万再生!」
アオイが指差したのはノートパソコンの画面。ゆーつべが表示されている。
十万再生。
爆笑ドリーマーズ時代では達成できなかった数字だ。アオタツカップルのチャンネル登録者数も二万人を超えた。
結月さんとの動画を投稿してからまだ二週間しか経っていない。いまの勢いなら爆笑ドリーマーズの登録者もすぐに追い抜けるだろう。
「すごいな」
「やっぱりユイナさんのパワーは違うね。有名人ってすごい」
アオイが言った。
もちろん結月さんの力は偉大だ。それに結月さんに限らず、コラボがチャンネル登録者数を増やす有効な手段であることは過去のユーチューバーが証明している。
東京オンエアの人気が出たきっかけは有名ユーチューバーに気に入られてコラボを連発したからだし、ドットコムのやまおも、ゆーつべで人気を出すためにはほかのユーチューバーとのコラボが重要だと過去に語っていた。
けれどもアオタツカップルの勢いの理由が、結月さんのとのコラボ動画だけではないことは明らかだ。
「アオイも有名になって来たんじゃない?」
アオイのライトダンスのフォロワーは、五万人を超えている。ライトダンスの平均的なフォロワー数は分からないが、投稿開始から二週間で五万人はかなりのハイペースだと思う。
それはアオイの容姿が優れているとか、結月さんが紹介してくれたという理由もあるが、なにより毎日欠かさず投稿する継続力の成果だろう。
「まあね。でもまだまだだよ。目指すところは日本一のユーチューバーなのだから」
「そうだな。日本一のカップルチャンネルになろうな」
「うん! あっ、そういえば今度ユイナさんが仲のいいライトダンサーを紹介してくれるらしいのだけどタツキも来る? サユヤツって人なのだけど」
アオイが手元のノートパソコンで名前を検索して見せてくる。サユヤツはアオイと同年代の女の子だ。ユーチューバーではなくライトダンサーらしいし、結月さんも含めて全員女の子なら男の俺が混ざっても邪魔なだけだろう。
「いや、俺が居てもアウェーだろうし辞めとく。コラボ撮影頑張って」
「ありがとー。私よりフォロワー多いし先輩だからちょっと緊張するなー」
アオイが組んだ両手を前に伸ばし大きく背伸びをした。
「アオイなら大丈夫だよ」
高校時代から人に囲まれていたし、アオイのコミュ力に心配はしてない。ただ緊張する気持ちも分かる。本来はアオイ個人のライトダンスのアカウントではなく、アオタツカップルの登録者数を増やして、カップルとしての知名度が増えることが理想なのだが、自分の無力さが辛い。
切り抜きとアオイのライトダンスからそれなりに新規の視聴者は入ってくるが、ここからペースを上げるためには、アオタツカップルのアカウントがより認知を増やしていく必要があるだろう。
スマホを開き、ゆーつべでカップルチャンネルと検索した。
人気のあるカップルはチャンネル登録者が百万人を超えている。
基本的に人気のある人は人気のある人同士でコラボしているし、結月さんみたいに事前の繋がりがなければ、唐突に声を掛けても断られるだろう。
どうしようか。
「あっ」
隣でアオイが声を発した。
「どうした?」
「アオタツカップルにコラボ撮影しませんかってメールが来た」
ちょうどコラボ撮影をしたいと思っていた時に依頼が来るとは運がいい。
アオイがノートパソコンでメールアプリを開いている。
「誰から?」
「和菓子カップル」
ゆーつべで和菓子カップルと検索する。名前の通りカップルでユーチューバーをしているようだ。チャンネル登録者数は九万人。俺たちよりもはるかに人気のあるチャンネルだ。動画を見たことがないため、失礼のないように事前にチェックしておかないと。
「和菓子カップルってアオイは見たことある?」
「あるよー。モナカちゃんとオハギくんの二人組で和菓子カップルだよ」
「モナカは実在しそうだけどオハギって珍しい名前だな」
「ハンドルネームだからじゃない?」
「確かに」
爆笑ドリーマーズもアオタツカップルも本名だから気づかなかった。自分の視野の狭さに驚く。というかよく考えたらアオイが会うらしいサユヤツも本名だとしたら相当変わっている。
アオイは呆れた様子でため息をついた。
「タツキって意外とアホなとこある?」
「賢かったら水月大学なんて進学しないからな。そういえばアオイはどこに通っているの?」
爆笑ドリーマーズでの動画投稿に力を入れていたからと言い訳したい気持ちを抑え込んだ。
「長霜女子大だよ」
「長霜女子大なのか」
アオイの言葉をそのまま返した。
女子大という言葉に安堵している自分に気づいた。
驚く。
それからアオイに好きな人ができたら、カップルユーチューバーは続けられなくなってしまうからだと結論付けた。
「まあほどほどの偏差値で推薦使えば楽に入れそうだったからねー。和菓子カップルとのコラボは当然する方向でいいよね?」
アオイは視線をノートパソコンに戻す。そして俺が返事をするより早くキーボードを打っている。
きっとアオイのなかでコラボすることは確定事項なのだろう。当然、俺としても断る理由はない。
「うん。コラボ動画は認知を増やすチャンスだしな」
俺が頷くと、アオイはマウスでカーソルを動かしてメールの送信ボタンをクリックした。
和菓子カップルからの返信はすぐに来た。
和菓子カップルの要望としては、浅草でダブルデートの企画を撮影したいらしい。タイムスケジュールとしては昼過ぎに集まって夕方まで浅草で撮影。その後、アオタツカップル側で撮影したい動画があれば一緒に撮影しようとのことだ。
カップルチャンネル同士だからダブルデートという企画は妥当だと思うし、浅草というのも人気スポットだから悪くないだろう。俺は浅草でデートとかしたことないけど。
「私たち側の企画どうしよ。撮影は絶対するよね?」
アオイはキーボードから手を離して、再び俺に顔を向けた。
「うん。絶対にした方がいいと思う」
有名ユーチューバーが自分たちのチャンネルに出演するというのはいつもより注目を集める絶好の機会だ。それに和菓子カップルの出演を断ると、相手を不要と思っているみたいで、相手側からの心象も悪いだろう。
「何がいいかなー。突然カップルで喧嘩して不穏な空気になるドッキリか……元カレが現れて修羅場になるドッキリか……コラボ相手から浮気を提案されるドッキリか……」
「ドッキリなのは確定なの?」
アオイは指を折りながら企画を提案する。
ネタ会議でドッキリしか提案しないドッキリの撮影中なのだろうか。カメラが仕掛けられている気配はないけど。
「コラボでドッキリしている有名ユーチューバー多くない? あと私はドッキリ動画とか好きだし」
「たしかに多いかも」
アオイの言う通り思い当たる節はある。アオイ企画の喧嘩ドッキリは王道ドッキリの一種だろう。
「あー、今度タツキにも、彼女が露出の多い服を着て外出しようとしたら止めてくれるのかドッキリとか、彼女の元カレが家に乗り込んできたら守ってくれるのかドッキリとかしたいなー」
「それ俺に言ったらドッキリにならなくない?」
前にデートをしたことないって言っていた気もするし。
「あっ……もう企画が潰されて悲しいからタツキも企画を考えて」
恨めしそうに半目になったアオイが俺を睨む。
「企画か……」
考える。
数秒間沈黙した後に企画が浮かんできた。
口を開く。
「近くで個室の食事できるところ予約して打ち上げとかは?」
「普通すぎない?」
普通か。チャンネル名を決めるときも同じことを言われた気がする。
だが今回の企画にも、チャンネル名と同じように明確な理由がある。
「まあ普通というのは認める。けど普通にみんながやりそうってことは、やりたくなるだけの魅力があるってことだからな」
「魅力?」
「うん。大きく分けて二つ魅力がある。まず浅草って結構広いから歩いてデートするとそれなりに疲れるはず。だからデート企画の後にあんまりハードな企画をすると相手がしんどいって思っちゃう可能性が高い。一回きりの関係ならそれでもいいけど、今後長くかかわる可能性を考えると、打ち上げみたいな疲れない企画でコラボ撮影が楽しかったで終わる方がいいと思う」
コラボの満足度が高ければ、もう一度コラボすることや、ほかのユーチューバーにアオタツカップルを紹介してもらえる確率を高めることができるはずだ。
「もう一つの魅力は?」
「コラボの目的としては、俺たちの視聴者より人数の多い和菓子カップルの視聴者にアオタツカップルを知ってもらって、チャンネル登録をしてもらうことだよな。そのためには俺たちが出演している和菓子カップルの動画だけでなく俺達側で投稿する動画も見てもらう必要がある。だったら打ち上げっていう体にして浅草デートから一連の流れで企画として繋がっている感を演出した方が見てもらえる確率が高いと思う」
これでだめならアオイと一緒に喧嘩ドッキリをするしかない。
アオイは頷いた。
それから視線をノートパソコンに戻す。
「おーなるほど。なんか聞いているとそれっぽい気がする。じゃあタツキの案で返信するね」
「ありがと。お願い。それにしてもあっさり納得するんだな」
「まあ基本的にはタツキを信じているし! それにモナカさんのファンだから……正直ドッキリ撮ってもポーカーフェイスができる気がしないなって」
そう言うとアオイが笑みをこぼす。
「楽しみ」
アオイが口から言葉が漏れた。
小さな声だった。
アオイはキーボードを叩き、和菓子カップルへ返信文を作る。
楽しそうなアオイの表情から、きっとモナカさんが主な理由なのだろうなと察した。




