第一話 重大な報告があります
「この度、俺、タツキは三年間続けてきた爆笑ドリーマーズを卒業します」
自室のベッドに腰かけながらスマホで動画を見た。動画のタイトルは「重大な報告があります」というなんとも意味ありげなものだ。
動画の中では俺が卒業する旨を口にしてから深々と頭を下げた。合わせて俺の横に並ぶ四人のメンバーも頭を下げた。それから全員一斉に顔を上げ、爆笑ドリーマーズのリーダーであるリュウヤが口を開く。
「突然の報告となって申し訳ない。先日、タツキより大学進学を機に学業に集中したいという申し出を受けた。そのためタツキはこの動画をもって爆笑ドリーマーズを卒業する。決して不仲になったとかそういうマイナスな理由じゃないから安心してくれ」
「俺たちのチャンネルも登録者三万人を超え、これからってときに抜けるのは心苦しいけど、みんなのことを応援してるからな」
リュウヤの説明に合わせて、スマホの中で俺は笑った。
全部嘘なのに。
ユーチューバー。それは動画投稿アプリである「ゆーつべ」に動画を投稿し、その動画から収益を得ている人々のことである。俺は幼馴染と五人組ユーチューバーとして活動していた。
チャンネル名は爆笑ドリーマーズ。俺以外の四人のメンバーとは、小中学生の頃は友達として、高校一年生の四月からはグループ系ユーチューバーとして毎日活動を共にしてきたが、俺の動画出演は今日で最後となる。
理由は金だ。
俺が爆笑ドリーマーズを卒業する本当の理由は、学業に専念するからではない。リーダーの意向で、メンバー全員がバイトしないで動画制作に専念できる環境を作るため、一人当たりの収益の取り分を増やしたかったからなのである。
もちろん、グループ系ユーチューバー内でメンバーを追放するなんてことをしたら視聴者からの心象は悪くなる。だから高校を卒業して進学するというもっともらしいタイミングが選ばれたのだ。
動画の中では思い出を振り返るという体で、これまでの俺の出演シーンが切り取られて流れている。
爆笑ドリーマーズで動画投稿を始めて三年間、活動は俺の青春のすべてだった。
五人全員が別々の高校に進学したのにも関わらず、放課後は毎日集まっていた。
三年でチャンネル登録者数は三万人。動画の平均再生回数は五千回。いつかサカナーズや東京オンエアのような人気ユーチューバーになれると思っていた。
だけど終わったのだ。
夢も幼馴染も全部失った。
視界が曖昧になる。
自分が泣いていることに気づいた。
どうして今さら泣いているのだろう。
見なければよかった。こんなことをしても辛くなるだけなのに。
それでも動画を見てしまったのは、動画の最後に「ドッキリ大成功」とか書かれた札を持ったメンバーが現れることを期待してしまったからなのだろう。
結局のところ最後まで動画を見てもそんなシーンは存在しなくて、俺が爆笑ドリーマーズを追放されたのはドッキリではなく現実だってはっきりと突きつけられたわけだけど。
ずっと五人で人気ユーチューバーを目指してきた。動画投稿で忙しかったから大学受験の勉強だってほとんどしないでなんとなく受験した地元の中堅私立大学に進学することにした。
どうしてこうなった。
これから何のために生きていけばいいのだろう。
もう何も考えたくない。
俺はスマホの画面を消して、現実から目を逸らすためベッドに寝転がって目をつぶった。